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ロストタウンの囁き-4

「サムライ、カタナ、ニンジャ、スシ……監督生の故郷には、不思議なものがあるんだな!」


中でも、話に聞くサムライソードはカッコいいぜとウキウキした声を出す。カリムとジャムルの二人に極秘を聞かれた手前、自分が云えた義理ではないが、不本意に噂が広がらないため、あまり大声を出さないでくれとジェスチャーで頼むのである。唇に人差し指をあてる仕草はその意図がすぐさま伝わった。


「それにしても……カリムさんとジャミルさん、どうして学校にいるのですか?」


もしかしたらこの二人は本当はオクタネヴィルの三名同様人魚で、故郷が凍えるほど寒く帰省できないかもしれないと思ったのだが、それはすぐさまカリムの口により否定された。


「俺たちがここにいる理由か? ハハハ……恥ずかしい話、赤点をとってしまってな~。再テストのためにここに残らざる得ないって云うか……」


「カリムさん……僕と同じ寮長なんですが……赤点……もしかして、ジャミルさんも」


「いや、ジャミルは赤点はとってない。俺だけだ」


「え? じゃあどうしてここに? 学校に居残る理由ありませんよね?」


自分は当然の疑問を投げかけた。カリムもその意見に同意だったのか、「いくら家のことがあるとは云え、お前だけでも帰っていいのにな」と呟く。だが、ジャムルから出された言葉は少々意外なものであった。


「カリム……俺はお前の従者だ。主人を差し置いて、おいそれと帰るわけにはいかない。帰省したいのは山々なんだが、お前が再テストで赤点を覆さないとどうしようもないんだ」


「従者……?」


「カリムは大富豪の息子なんだ。そして俺、バイパー一族はアルアジーム家に仕える一族。百年間使えてきた、主人と従者の関係なんだ」


「昔は立場が逆だったけどな。アルアジームがバイパー一家に仕える。だけど、百年戦争のいざこざで立場が逆転したんだ。時の流れだな」


百年戦争。


それは妖精と人間の間で起きた戦争だと聞いている。


人間は機械の発明を行い、妖精の丘を蹂躙した。妖精は鉄に弱いといった伝承通り、攻撃性の高いユニーク魔法を機械に映して兵器を量産し……時には獣人を軍人として運用して、重火器を用いた。しかし妖精族も無抵抗なまま終わることなく、その戦禍は激しくなり戦況は激化。長い戦いは妖精族の敗戦と云う結果に終わったが、そこに至るまでどれほどの犠牲が生まれたのか分からない。


今では和睦の品として、この大食堂にぶら下がっている永久機関の光を灯す、はじめて平和的な活用法をされた魔道具で和睦を行い、じっくりと長い時間をかけて親睦を深めているという話であった。


ちなみに百年戦争の爪痕は酷く、すべての国が完全な復興に至っているわけではない。いまだ貧困層を抱えている国はあるのだと云う。レオナの国もその問題に取り掛かっている最中であろう。


「カリム……お前の性格上、話を聞いてしまった以上、そのお人よしで人助けしたいのは分かるが、まさかサバナクローの寮長と同じく留年するつもりか? 従者として主人を諫言する権利はある。手伝いは後回しにして、今は勉学に勤しんでくれ」


留年……。


そう云えば本人は『そう認識』されることを嫌がっていたなと思いつつ、二人の会話を見守る。


「そう心配するなって、ジャミル。幸い、赤点を取ったのは一教科だけだ。監督生の手伝いをしつつ、勉強する。それほど無理難題、困難なことじゃない」


それに、勉強はお前が教えてくれるだろう。


カリムがそう云うと……ジャミルの視点からすれば余計な問題を抱えようとする主人に、その不満顔を隠すことはなかった。


「えーと、それで……監督生はアズールたちから海の知識を得ようとしたんだな。でも、ヒントを得る可能性は著しく低い。もしかしたら俺の宝物庫に何かヒントがあるかもしれない。ここに来るとき、オヤジが一杯持たせてくれたんだ」


「宝物庫……カリムさん、あなたは一体……」


アズールは驚きの顔を隠すことなく、直截にモノを尋ねていた。カリムは「俺ん家は国の方でも有数の大富豪だからな」と石油王のような言葉を平然と放つ。国の責務を負わない大富豪である立場上、レオナよりも自由に動ける立場の人間らしかった。


「俺はこの学校に転入してきたんだが、その時にスカラビア寮を改装したんだぜ。寮長には広い部屋があてがわれるけど、オヤジが持たせた荷物がどうしても入り切れなくってさ。空き部屋を改装して宝物庫を作ったわけだ」


「ラッコちゃんすげえじゃん、改装なんて。ウミヘビくん一家が仕えてるみたいだし、すげえ金持ちなんだろうな」


「おう。ジャミルとの付き合いは、それこそ物心付く前からだな。俺が一番信頼できる心からの親友。どんなことがあっても友情にヒビが入ることはないだろう」


「ふうん、友達ねえ。ジェイドはともかく、俺……アズールを認識するようになったの、いつ頃だっけ? 馴れ初め覚えてねえ。本がきっかけなのは覚えてるけど、それ以前は分からない」


……認識?


自分は予想外な……交友関係において一切聞き慣れない単語に少し驚く。三人は昔からの幼馴染ではないのかと訊ねると、そうではないと否定の言葉が返ってきた。


「ジェイドとフロイドが僕に関係を持つようになったのは、数年ほど前からですよ。エレメンタリスクール時代から同窓ですが、僕は目立たない生徒でした。二人から接触してきたのがキッカケでしたね。この本の関係者なんだろう……って……」


「そうそう、面白そうな奴がいると思って話しかけたんだよねえ。確か、フロイドから話しかけようって云い出したような気がする」


「ええ、そうですよ。僕が最初にアズールに興味を持ったんです。それ以来、数年の付き合いではありますが、別にカリムさんがジャミルさんに抱いているような感情はありません。僕は別に……アズールのことは友達とは思っていませんね」


『え!?』


その言葉に自分とカリム、ジャミルが驚きの短い言葉を出す。親密と云うより、見知った関係でよく一緒に行動しているだろうに、なぜ友達ではないと断言するのか。少なくとも、自分がモストロラウンジで働いていた時、二人はアズールのことを険悪に扱っているような素振りもなく、見下しているような雰囲気も全くなかったのだが。


「こいつらは、こういう奴らですよ」


アズールは呆れの態度すら出すことなく、事実のみを口にする。


「面白そう……興味がわいたから、僕に従っているだけ。それなのに僕の云うことを文句もなしに聞くのは、僕のやることが楽しいから。まるで飯事のごっご遊びのように役割を楽しんでいるだけです。僕が退屈で弱くつまらない奴だと判断を下せば、謀反を起こす。反旗を翻す油断ならぬ奴らです」


「否定はしませんよ」


「いや、そこは否定してくださいよジェイドさん」


自分は何て特殊な関係なんだと思いながら、少しだけアズールに同情の念を覚えた。場違いな感情かもしれないが、少し見方を変えればアズールは一方的に双子の楽しさに付き合わせられている立場だ。しかもつまらなくなったら見捨てるだなんて。玩具にすぐ飽きる子供でもあるまいに……。


「まあ俺としてはアズールがつまんない奴になるとは思わないけどね。この間は、つまねええ状態にはなったけど……」


この間。


それは恐らく、アズールがオーバーブロットした時のことを指しているのだろう。だがしかし……つまらなくなったら見捨てると云いながらも、オーバーブロット後もこうして楽しいごっこ遊びを継続している。口で云うわりに、わりと人情のような……友情らしい感情があるのかもしれなかった。この三人はカリムの言葉ではないが、よほどのことがない限り、その関係性にヒビが入ることはないだろう。


「話は戻すがカリム。お前の親父さんが持たせてくれたのは、金銀財宝ばかりだ。金には困らないよう宝物の類しか寄越してない」


「んー、でもよ……その宝物の中に何かヒントになる物があるんじゃないのか」


「ないな。渡されたのは魔力や曰くのない、単なる高級品と現金。その他にあるとするなら……重要文化財、工芸品ばかりだ。織物や焼き物……古文書があれば一考の余地はあったんだろうが……」


「あ、それだ。ナイス、ジャミル!」


カリムは立ち上がった。


「ロストタウンの博物館に、未来からきた知恵者の忘れ物が展示されている!」



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