表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/55

ロストタウンの囁き-3

「――と云うわけで、自分は異世界人なんですよ」


場所は、大食堂。


生徒がまばらに存在する食事処で、アズール、ジェイド、フロイドにそう宣言し水の入ったコップを置くと、テーブルに食器を置く音で我に返ったのかアズールは「いやいやいやいや」と眼鏡を押さえながら首を振る。


「……監督生さん、ちょっと僕は頭が混乱してて……えーと、目覚めたらいきなり棺桶の中でグリムさんがいて……入学式……あの騒動は知ってます。そして闇の鏡の寮選別……あぁ、だから資質がないと、どこの寮にも属することが出来なかった。そもそも魔法が使えないのは異世界人だからって……ハハハ――すぐに納得できるハズがあるか!」


「声が大きいですよ、アズール」


大声のついでにテーブルをドンと叩いたアズールにジェイドの注意が入る。自分は期末テストの騒動後、モストロラウンジでバイトをしていた。仕事中、交流する中でこの三人は、エースとデュースほど信頼度が高く深いわけではないのだが、一応自分が元の世界に戻る足がかりを手に入れるため、思い切って人魚の三人組に話したのである。


ちなみに、アズール、ジェイド、フロイドの三人は別に赤点を取ったわけでも、ましてやオーバーブロットの所為でホリデーの期間中、帰省できなかったわけではない。彼ら曰く「故郷の珊瑚の海は寒すぎるので帰るのは遠慮したい」と云う話であった。春か夏の期間に故郷に帰ることは考えているらしく、冬季期間の逗留はおなじみのものであるらしい。


「それにしても小エビちゃん、自分が異世界から来ました~なんて思い切ったこと云うね? 普通なら『何云ってんだコイツ』と思って相手にしないけど、ジェイドのユニーク魔法を使っても証言が揺らがねえんだもん。マジなんだね」


ジェイドのユニーク魔法、ショック・ザ・ハート。


相手の本心や本音を聞き出すことが出来る魔法。


魔法は洗脳系のソレで、発動条件はジェイド『が』相手の目を見ることで相手を魔法にかけることができる。左右のどちらでも構わないが片目であれば、ジェイドに心を許して親しい友だと思い秘密を打ち明ける。両目を見た場合、更にユニーク魔法の効果は深度を増す。


片目を見、本心を打ち明けた場合、短時間の事情聴取を行うことが出来るが本音を聞き出す度に魔法をその都度かけなければならないが、相手が両目を直視した場合、友人関係の魔法は永続的に効果を発揮し、いつでもジェイドを最も信頼できる相手だと思い込ませ、心情や秘密を明かすことができる。


両目の場合は一人の相手に対して一度しかそのユニーク魔法を使うことしか出来ないが、相手の秘密や情報を入手するだけでなく、相手の懐の入り込めることが出来る破格の魔法であった。しかしジェイドは、無暗に永続的な友人を作りたくないのか、それともユニーク魔法による友人関係は泡沫仮初のものだと思っているのか、使用頻度が少ないのが現状であった。


自分は三人組に「自分は異世界人だ」と秘密を打ち明ける時、まず最初ジェイドに自身の発言は非常に真偽が疑われるものであるため、ユニーク魔法を……片目のみの使用を頼み込んで、秘密の暴露を行った。問われる質問。この世界には存在しない故郷の話。その全てを聞いた彼らは、自分が本当にこのツイステッドワンダーランドの住民ではないことを、真実として知ることになるのである。


「サムライ、カタナ、ニンジャ、スシ……確かに聞いたことのない言葉です。海から陸に上がって色々と各国のことを調べたのですが、そんな国は知らない。監督生さんの故郷は……元居た世界では経済大国として世界的に有名な国なんですよね? 陸の国について粗方調べた僕が知らないのはおかしい」


「日本刀は外国人に人気だよ。サムライソードって呼ばれてたりしてて、大昔の人たちは佩刀してるのが普通だったんだ」


「ソードと云うぐらいですから、武器の一種なんでしょうね」


一度見てみたい気もします……と、ジェイドは述べた。


「綺麗な武器だよ。太刀魚って魚がこの世界にもいるかな。それにそっくりなんだ」


「ああ……あの飛ぶ魚ね。アレに似てるんだ。ふうん……」


フロイドは頬杖をついて、日本刀についての想像を膨らませていた。どのような妄想をしているのか仔細不明だが、頓珍漢な思いを馳せているように見えた。実物を知らないので、そこは仕方ないだろう。


「ジェイドのユニーク魔法。その効果は確かなものであると、僕は知っています」


アズールの一言。


それは恐らく契約時、もしくは契約違反時に相手から情報を抜き出すために何度も現場を目撃したがゆえの発言であろう。だが、アズールはジェイドに……そのユニーク魔法の効果について多大な信頼を置きながらも、まだ自分のことが信じられないみたいであった。


「異世界の住人だなんて……そんな! いくらなんでも荒唐無稽だ! それに僕らに打ち明ける理由なんて――」


「それは前以て説明したと思いますけど、協力者が欲しいんです」


闇の鏡を通るレオナに触発されたわけではないが、自分は何も日銭を稼いでオンボロ寮を修繕するためだけにこの世界にいるわけではない。住処を心地よいものへ安定させることはそれなりに重要ではあるが、自身にとって最も大事なのは『元の世界へ戻ること』。ただその一点に限られるのだ。


「協力者が欲しい。その気持ちは分かりますが、なぜ僕らに秘密を打ち明けたんです? 教師……大人たちの方が得られる力も大きいでしょう。何せ僕らは陸に上がりたてのしがない人魚です。監督生さん、この秘密は勿論黙っておきます。ですので、他の方に協力者を得た方が良いと思いますが……」


「自分から見れば、人魚であるあなた達は変数なんです」


「変数? 小エビちゃん、それってどう云うこと?」


「グレートセブン、慈悲の心を持つ海の魔女。その伝説は知っています。陸に上がることのできなかった人魚の尾鰭を足に変えて、上陸させたと。それって、異世界……別世界に進出させたのと同義だと思いませんか? 海の底から陸の表面にあがる。はじめて地上に降り立った人魚は、陸の世界が別世界だと思ったことでしょう。もしかしたら、異世界への扉……自分が本来戻るべき世界の入口をあなた達ならこじ開けることが出来るんじゃないかと思って、希望を持ったんです。ヒントがあるんじゃないかと思って……」


「……確かに、人魚といっても海底の全てを掌握しているわけではない。海溝の奥底なんか、未だ未知の領域です」


アズールは自身の祖母が記した、海底二万里の評価……現実ではありえないと評された事実を思い出しながら云う。


「月暈のランプ……落葉の臺……小雪の漣……空の欠片……光の当たらない海溝の住民、まつろわぬ民たちは詳細不明な道具を用いて邪神を崇拝していると聞いた。現実ではありえない虚妄のような出来事が未知の海底で日常的に用いられているのであれば、ひとつぐらい異世界へ繋がる扉か鍵か……それらしき物があるのかもしれません」


そこでアズールは不自然に沈黙した。


かつて狂人の随筆と呼ばれた自身の祖母が記した日記の内容。それに触れるのは気分的にあまり良くないのか、内心苦々しい気持ちでいたに違いない。自分はとてもではないが、レプリカでもいいから読ませてくれと、日記の執筆者の孫子たる本人に発言することはできなかった。


「監督生さん……そもそも、まず最初に海のことを調べるよりも、地上のことに目を向けた方が得策かと思います。僕たちの協力を得たいと云っていますが、あなたが知りたいのは恐らく、海の常識。人魚たちの知識が欲しいのでしょう。見知った仲である以上、出来る限りのことは教えますが、それが元の世界へ戻るヒントになるとは……確率として低いでしょう」


「一応、陸のことも……故郷に帰ったエースとデュースの二人に、何かヒントになるようなことはないか調べて欲しいと頼んではいます。それでも限界はあるんですよ」


「あの二人、ですか。一応この世界の住民とはいっても一学生に過ぎませんしね。限りはあるのでしょう」


「この学園に在学する間、時間の許す限り図書館で調べ物もしました。でも、結果は乏しくなく……」


「監督生さん、残酷なことを云うようですが、ジェイドのユニーク魔法があったとしても、その証言を加味した上であなたが異世界人だと、信じることはできません。ジェイドの魔法は相手に心を開かせて、極秘情報を入手する魔法。もしあなたが何かの思い込み、洗脳魔法にかけられていたとしているのなら……たとえ真実を聞き出す魔法とは云えどもまこととは云えない。本人が嘘を事実だと思い込んでいるのなら、聞き出した情報の価値は非常に低いものとなるのですよ」


あなたは洗脳魔法や記憶の欠如がないと断言できますか。


アズールはあくまでも疑いの姿勢を崩さない態度でいる。


「……断言はできません」


自分は小さな声で答えた。


そもそも、自分は何故あの棺桶の中で寝ていたのか、棺の中に入る記憶の前後が曖昧だからである。


「でも、自分は本当にこの世界の住民ではない! 他の世界からやってきた異物なんです! 洗脳魔法の類が掛けられていると思うのなら、まず最初はその洗脳魔法からといて――」


食器の落ちる音。


自分は台詞が途中で閉ざされ、聞き入っていた三人は聴取が中断させられる。皆はほぼ反射的に食器の割れた方向を見たのだが、そこにいたのは二人の人間。自分には見覚えのある人物だった。かつてマジフト大会の時に被害者として話を聞いた人物と、その友人。浅黒い肌をしたスカラビア寮長と副寮長である。


「カリムさんと、ジャミルさん……」


自分は過去自己紹介された際、人脈の幅が広がっていくのを自覚した。それゆえ、スカラビアの両名の名前を記憶していたのだが、まさかここでバッタリ出くわすとは思っていなかった。


二人を観察するに、皿を落としたのはスカラビアの寮長であるカリム。その目は驚きに開かれており、バッタリ出くわしたというよりも、不本意に遭遇したと表現した方が適切だろう。恐らく……特にカリムは自分が異世界人である秘密を知ったのだ。熱弁のあまり思わず声が大きくなり、他人に情報漏洩する失態を犯してしまったのだが、どうすべきか迷っているとジェイドはこの状況を楽しんでいるのかニヤニヤと笑っていた。


「あー、えっと……オンボロ寮の監督生? お前はいせかいの――「カリム黙ってろ! これは多分聞いちゃいけない話だ。今すぐ忘れて、何も聞かなかった振りをするんだ」


容赦なくその本題にして問題に切り口が入ろうとした間際、ジャムルがその言葉を遮った。別のテーブルに行こうとやや強引に彼はカリムの腕を引っ張っているが、床に落ちた料理と食器類の片づけをするためにしゃがみ込みながら、皿の破片を拾う。「掃除なんて給仕のゴーストに任せておけ」とジャミルが再び注意を促し立ち上がらせるのだが――。


「決めた! 監督生、困ってるんだな! 俺たちもお前が元の世界に戻るために協力させてくれ!」


……と、溌剌とした声で宣言されたのである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ