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悪魔の後裔-11

パーティの歓迎を受けた元イソギンチャクたちは、最初の方は困惑していたものの無料で提供される品々を見るにつれて、アズールそのものに対する恨み全てを忘れたわけではないだろうが、一応とりあえず暴力沙汰を回避することには成功した。


一応、元イソギンチャクたちの怒りをある程度静めることに成功したものの、不満を完全に抑えることはできなかった。むしろ怒り心頭から冷静な状態にさせたことで計画的な報復が予想される……のでアズールは代替案として出したのが、次の小テストの虎の巻である対策ノートを無料配布する案を出すと、賛成の意が出た。とりあえずは、場をおさめることに成功したのである。そもそもモストロラウンジは無血開城として作られた場所。暴力沙汰のない話し合いなら、アズールの契約がなくとも、そのように働き効果を発揮するよう精神的な影響があるのかもしれなかった。


「あー、疲れた」


自分はキッチンからホールへと何度も往復する疲れの言葉を素直に出しながら、オクタヴィネル寮からオンボロ寮への帰路につく。寮の門前の鉄門に触れようとした瞬間、黄緑色の鱗粉が雪のように舞っていた。


もしやと思い周囲を見渡していると、そこに現れたのは頭にツノを持つ謎の学生。名を知れば恐ろしい思いをすると忠告した人物であった。


「あ、子分……コイツもしかして……」


「うん、そうだね、『ツノ太郎』だよ」


それはグリムが直々につけた綽名。


ツノ太郎と呼ばれた学生は、きょとんと眼を丸くした後、いかにもおかしそうに笑いだす。不快な感じは全くなく、どこか非常に楽しそうであった。


「く、ふふふ……人の子よ、お前は僕のことをツノ太郎と珍妙な名前で呼ぶのか。恐れ知らずにもほどがあるぞ。だが面白い。正にくわばらくわばら、と云う奴だな」


それにしても――。


と、彼は笑いを引っ込めてオンボロ寮を振り返る。


「……どういったことがあり、仔細な事情は知らないがゴーストたちが心配していたぞ。もう二度と戻らないんじゃないかと。何かあったのか」


「少し、ね」


自分は言葉を濁した。


どこからどこまで話していいのか等といった迷いが生じたのではなく、どこに触れたものかという話題の切り口に惑う。まさか全てを赤裸々に、「大量のイソギンチャクたちを解放するとアズールは暴走してしまいました」などと他言できるはずもなく、自然と口をつむいでしまうのは仕方のないことであろう。


彼は自分が深く話したがらない様子を察してか深入りすることはなく、会話を切り上げるように「まあいい」と云う。自分は密かにその優しさに感謝をした。


「蚊帳の外であった僕からの言葉は余計なお世話だろうが、あまり同居人たるゴーストに心配をかけるものじゃない。まあ、僕が云えた義理ではないのだがな」


そう云うが早く、はじめてこの場に姿を現した時と同様に緑の鱗粉を振りまきながら姿を消した。一瞬にして姿が消え思わず瞠目したものの、彼の姿を探すために首をキョロキョロと動かすよりも前に騒がしい音がする。見れば銀髪と緑髪の生徒が云い争いをしていた。険悪といった雰囲気ではないが、首を突っ込むことは実に遠慮したい。


自分はオンボロ寮の鉄門を動かして、敷地内に入る。リーチ兄弟に『不完全な占拠』を理由に追い出された事実を思い出しながら、かつては嫌がらせとしてハーブの種を撒こうとしていた短絡的な思考を振り返る。我ながら浅慮であったと思いながら新調したオンボロ寮の扉を開くと、グリムと自分を待ち構えていた三体のゴーストが嬉しそうに周囲を漂いだす。肉体があれば、抱き着いていたことだろう。


オンボロ寮を離れていた日時は一日にも満たないが、こうして心配してくれるゴーストらに感謝をしながら、自分の部屋へと戻る。疲れた体を癒すために早くベッドに横になりたい心持ちであったのだが、その間、オンボロ寮の内部が以前よりも綺麗になっていたことに少し驚く。理由は分からないが、アズールらがこの建物を調査する際についでのように掃除したのだろうと思い、かつて開かずの間であった部屋を横切り、私室に戻るのである。


衣類をパジャマに着替えてふかふかのベッドに横たわり、グリムに「おやすみ」を云う中、ベッドの下……わずかな隙間から蠢く闇がある。その闇は蜘蛛の形をした暗がりであるが自分は一切気が付くことなく、疲れの所為かすぐに入眠に入った。

 

 

 

闇はまだ生きている。


次回、「ロストタウンの囁き」

二月更新予定。

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