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Welcome to the Villains' world-2

場所は、入学式会場である鏡の間。


会場全体は広く、複数の棺が浮遊し、分厚い絨毯に天井には豪華なシャンデリアがぶら下がっている。


式典服を着用した在学生及び新入生は、とっくに鏡による寮の振り分けが終了し、残すは自分一人の様子であった。


喧噪で賑わう中、寮生を統制するように赤毛の男子生徒が声を上げる。獅子の耳を持つ者は慣れどころか飽きと怠惰のあまり大欠伸をしながら、寮生たちに指示の声をだるそうに出していた。眼鏡の男子はどこか慇懃無礼な様子で、怪しげに新入生を応援する。


クロウリーは小動物を抱えながら、自分を闇の鏡の前に出るように口にした。詳しい機微はよく分からないが、どうやらこの室内の中央に位置する巨大な鏡が己の所属先を決定してくれるらしかった。


自分は周囲から一点に集中する周囲の視線を受けながら鏡の前に立つと、鏡面に自分の姿が投影されず、緑色の炎と共に白い仮面が浮かび上がり、喋り出すのであった。どうやら、選別が始まったらしい。


「汝の名を告げよ」


場違いに似た感覚の中、居心地の悪さを自覚しながら自分の名を告げる。


「汝の魂の形は……」


沈黙。


長い沈黙と観察。


自分は内面を見透かされたような形になりながらも、それに反して出された答えは……。


「わからぬ」


息を呑む声。クロウリーが一声疑問を出す中、闇の鏡は訥々と事実のみを告げるのだ。


「この者からは魔力の波長が一切感じられない……色も、形も、一切の無である。よって、現存するどの寮にも、相応しくない!」


大声で断言するように発せられた言葉は、皆の耳に届いた。在学生も、新入生にも、そうして教師たちにも。全員の耳に、肉体を透視して魂を見た闇の鏡の言葉が木霊するのである。


当然、驚愕の声に満ち溢れた。周囲は、自分を遠巻きに騒然とする。何故ならそれは前代未聞が現在進行形で発生しているからであった。


「魔法が使えない人間を黒き馬車が迎えに行くなんてあり得ない!」


自分は思い出す。


この入学式場に案内される中、耳にした情報。魔法士養成学校であるナイトレイブンカレッジの入学条件――厳選された魔法士の卵のみが入学出来ると云う前提を。その間違いは、空前絶後にして前代未聞の事態であった。


クロウリーが驚きながらも考え事に没頭する中、愛の鞭に絡まれた獣は……この場の状況……驚愕の隙を突いて抜け出すことに成功した。しかも、自分がこの学園に相応しくない、場違いな人間であると周囲の状況を目敏く認知しており、空席を狙っているのであった。獣が抜け出したことに気付いた学園長が「待ちなさい、この化け猫!」と大声で叫ぶ。


「そこのニンゲンと違ってオレ様は魔法が使えるんだゾ! だから代わりにオレ様を学校に入れろ。魔法ならとびっきりのを今見せてやるんだゾ!」


嫌な予感をいち早く察知した赤毛の少年が、皆に頭を下げるよう指示する。その悪い予感は見事に的中しており、大きく息を吸い込んだかと思うと、周囲の人間への危険を顧みることなく青い炎を吹き出した。自分が見た中で、一番の大きな炎であった。その炎上の影響は人体に非常に深刻な重症を負わせるものではなかったが、生徒の一人が尻に火が点いたと騒ぐ。


獣――グリムは大きな力の発露に更なる調子がついたのか、次々に炎を吹き出す。このままでは火の海になることを危惧した校長はグリムを捕まえるよう生徒に願うが、あまりやる気がないようであった。校長の人望が無に等しいか、もしくは単純に面倒だったからであろう。結局名乗り出たのは二名の魔法士だけである。


「クロウリー先生。お任せください」一番最初に名乗り出たのはどこか慇懃無礼でうさん臭そうな生徒であった。「幼気な小動物を捕獲すると云う皆さんが嫌がる役目、この僕が請け負います」


「さすが、アズール氏。内申の点数稼ぎキタ~」


そう茶化すのは浮遊するタブレットである。アズールと呼ばれた眼鏡をかけた男子生徒の素性と内面をよく知っているかのような口振りであった。見様によっては級友同士の軽口の叩き合いのようである。


「違反者は見逃せないね」第二に名乗り出たのは赤髪の少年である。「さっさと済ませるとしよう」


そうして、抵抗か……もしくは己の力を誇示するためか、青い炎を吐くグリムに向かって生徒二人が臨む。当然のことながら危機を察知したグリムは青い炎を吐きながら逃亡するのだが、己の矮躯を存分に活かした逃亡劇であった。あっちからこっちへ、こちらからあちらへ。下は分厚い絨毯を踏み、カーテンに跳び付いたかと思うと、天上のシャンデリアに着地。魔法が飛べば様子を観察していた生徒の群れに紛れ、縦横無尽に足元を駆け巡る。


思っていたよりも機敏な動きを見せるグリムに焦り出したのか、捕獲に名乗り出た二人は諍いを始める。その内容は互いが「邪魔するな」と云ったものであるが、その小さい喧嘩を見た混乱の原因である猫は笑い出す。だが、地の利を活かして行き止まりに追い詰められたとようやく悟ったグリムの首元に首輪が嵌められた事により、終焉を迎えた。


「首をはねろ(オフ ウィズ ユアヘッド)!!」


罪人の鉄枷のように、首元を圧迫する首輪。その魔法は、固有魔法は赤毛の少年によるものであり、ようやく捕まえることが出来た混乱の元に鼻で軽く溜息を出す。


「ハートの女王の法律・第二十三条。『式典の場に猫を連れ込んではならない』。猫であるキミは重大なルール違反だ。即刻退場してもらおうか」


「オレ様は猫じゃねえ~!」


グリムは抗議の声を出しながら首輪を燃やそうとするが、これまで散々放ってきた青い炎が出せないことに気付く。混乱するグリムに対して、赤毛の少年は続けた。


「ふん! ボクがその首輪を外すまでキミは魔法を使えない。今のキミは魔獣ではなく、普通の猫当然さ。ボクのユニーク魔法……所謂……魔封じの魔法だが、魔法で魔封じなんて矛盾したトートロジーも良いところだね。だから正確には限りなくボクの魔力で相手の魔法の方向性を操作する、コントロール系の魔法ってところかな。その証拠に、キミの魔力――青い炎、耳の炎は消えちゃいないだろう。僕の固有魔法で相手の魔法の出力を強引に操って、限りなくゼロに近くしているのさ」


学園から摘み出される頃には、魔法は解けるだろう。


赤毛の少年はそう云うと、うさん臭い眼鏡の男子はユニーク魔法について賛辞を贈った。いかにも何か別の目的があり、本音は別のところにありそうだったが……。


それにしても――


「そこの獣、どうにかしてください! あなたの使い魔でしょう!?」


騒動が収まり落ち着きを取り戻した頃合いを見計らって、大股でツカツカと足音を立てながら学園長が自分に向かってくる。闇の鏡の前代未聞による言葉により驚愕し、件の獣を逃がしてしまったのは、学園長彼本人なのだが……。


いや……そもそも……。


「見知らぬケモノです」


自分は、猫のような獣――グリムとの出会いについて語った。


見知らぬ存在であると云うこと。式典服を奪われそうになり、追いかけっこになったこと……その事実を冷静に受け止めた学園長は「そうでしたっけ」と云い、わざとらしく咳払いをする。


「……では、学園外に放り出しておきましょう。錬金術の材料になんかにしたりしません。私、優しいので」


それは本当に優しさなのか。


炎を吐く危険な獣とは云え、誰かの飼い猫の可能性もある。愛玩――誰かのペットの可能性も考慮すれば、まず最初に考えるのは飼い主を探すことであって、錬金術云々ではないだろう。


グリムが「偉大な大魔法士になってやるんだゾ!」と騒ぐ中、学園長の命令により後始末を頼まれた親切な生徒が、文字通り首根っこを掴んで、扉を開く耳障りな金属音特有の音の後に、窓から捨てられるグリム。自分はその後、雨風晒されて野晒しになるかもしれないグリムに少し同情を覚えたが、正直なところ、今小動物に慈悲の手を差し伸べるほど余裕があるわけではないのだ。


何せ……。


学園長が各寮長に寮生たちを帰還させるよう、指示を出す。グリムの騒動により式場内でまばらに散っていた生徒たちは寮長の下に集まり、革靴の音を立てながらそれぞれの場所へ帰っていく。しばらくして、学園長と二人きりになった自分はこう切り出されるのであった。


「扨――大変残念なことですが……あなたには、この学園から出て行って貰わぬばなりません。魔法の力を持たない者をこの学園へ、入学させるわけにはいかない」


クロウリーは云う。


中庭で見た小さく黒い蜘蛛が、天井から蜘蛛の糸を出してぶら下がっている。あまりにも小さ過ぎる所為か、学園長は気付いていない。


「心配はいりません。闇の鏡がすぐ、故郷へ送り返してくれるでしょう。さあ、扉の中へ。強く故郷のことを念じて……」


自分はまるで死刑台で執行を待つ罪人のような気持ちでいたが、学園長の言葉に安堵する。ここは魔法士の学校。魔法使いの居場所。当然のことながら、魔法が使えない自分がいるべきではないし、在籍が許可されないのは至極当然なのだ。云うならば、場違いな部外者。その一言に尽きる。


自分は学園長に背中を押されながら、一夜の夢から醒める人のように意識が覚醒することを一心に願う。帰るべき場所、本来いるべきところへ、自分は帰る。そう強く念じているのだが……。


「さあ、闇の鏡よ! この者をあるべき場所へ導きたまえ!」


沈黙。


「…………」咳払い。「も、もう一度……闇の鏡よ! この者を――「どこにもない」


学園長の言葉を遮って述べる闇の鏡。


「この者のあるべき場所は、この世界のどこにもない……」


そして云った。


「無である」


それは百年間……ディア・クロウリーが校長になってから前代未聞にして空前絶後、経験したことのない出来事であった。


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