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救国の獅子‐2

「えー、ではこれより寮対抗マジカルシフト大会について寮長会議を行います」


会議の場所となったのは、闇の鏡が設置された部屋。いくつもの転移装置の役割を担う棺桶が浮遊する中、室内の中央には円卓が置かれ、ハーツラビュルの寮長……つまりは、リドルともう一人を除いた他の全員が揃っている。


サバナクロー、レオナ・キングスカラー。


オクタヴィネル、アズール・アーシェングロット。


スカラビア、カリム・アルアジーム。


ポムフィオーレ、ヴィル・シェーンハイト。


イグニハイド、イデア・シュラウド。


……ハーツラビュルとディアソムニアの寮長を除いた主要メンバーが揃っており、クロウリーはイデアがリモート参加でよく使用するタブレットを一瞬見た後、二席の空白はあるものの皆に向けて言葉を繰り出すのだ。


「まずは最初に説明を……ハーツラビュル長、ローズハート君は欠席となっております」


「オーバーブロットによる体調不良でしょう?」そう云うのはアズール。「話は一通り聞いております。暴走状態に陥って、ブロット化してしまったと。今回の寮長会議を欠席しているのは、健康状態を考慮……もしくは、退学を視野に入れての処置と云ったところでしょうか?」


「耳が早いですね、アーシェングロット君。ですが……ローズハート君はナイトレイブンカレッジから退学『は』しません。まだうら若き魔法士ですし、若気の至りともとれます。その上、施設は滅茶苦茶にはなりましたが死傷者が出たわけではない。退学『には』なりません」


「でも、それって未遂に終わっただけの話じゃないかしらね」


オーバーブロット……。


口の中で実に嫌そうに、ヴィル云う。


「聞いたわよ。鎌を……凶器を振りかざしていたって。負傷者が出なかったのは、運が良かっただけじゃないかしら。下手をすれば首をかられていたんじゃないの? 私は、退学にすべきだと思うわ」


「いくら寮長とは云えども、未就学児とも云える未熟な魔法士を頼りも後ろ盾も何もない社会に放り投げ、と? 教育者として云わせてもらうならば、それは無責任になります。人を噛んだ犬を安易に処分するのではなく矯正する。本来、学校というのはそう云う場でしょう? 私は簡単に放り出したりなんかしませんよ、シェーンハイト君」


「くだらねえ」


レオナがいつもの口調……怠慢さを一切隠せない口調で、話に割り込んだ。


「今更あいつが退学になろうが、どうなろうが知ったこっちゃねえ。ただでさえこの会議そのものがダルいんだ。早く話を終わらせて眠りてえ。退屈過ぎて欠伸も出やしねえ」


「……『退学にはしない』とは云っても勿論、処分の方はキチンと厳重に下しますよ。オーバーブロット以外にも、自分の寮生とは云えども、行動範囲を制限していたのですから謹慎処分の後、反省文と……それから……」


「『首を刎ねろ』、か。リドルのユニーク魔法だな。たしかに俺の方でも魔法が使えなくて不自由そうなハーツラビュル寮の上級生を見たなー」カリムは笑いながら云う。「まあ確かにレオナの云う通り、ここでごちゃごちゃ退学だの何だの話し合っても意味がない。今回の会議の主題は、何だっけ……?」


「寮対抗マジカルシフト大会ですよ、カリムさん」アズールは眼鏡に触れながら云う。「僭越ながら、大会運営委員会の僕が幹事を務めさせていただきます」


彼は、一息ついて……。


「まず、会場主催のコロシアムのチケット販売等については全て手配済みです。そして……あぁ、これは僕からではなくカリムさん、もしくは学園長直々から公表した方が良いのでは?」


「うん? 何で俺? 俺、マジフト大会で何かしたか?」


「アーシェングロット君、そのことは内密に」慌てたようにクロウリーが云った。「えー、こほん。今回の寮対抗マジカルシフト大会ですが、何と優勝すれば賞金が出ます」


「賞金……? 金の出所はどこよ?」


賞金と云う言葉を聞いてレオナの耳がピクンと動き、「このパターンはなかった」と呟く。レオナの真隣に座るヴィルはアズールの発言を加味した後、カリムを見て「ああ、そういうことね」と一人で納得する。


「お金の出所なんてどうでも良いじゃないですか。やだなあ……まさか、アルアジーム君の両親から入学する際の寄付金を賞金にして、生徒たちにやる気を出してもらおうだなんて考えてはいませんよ」


「ほぼ云ってんじゃねえかよ、その魂胆をよ」


レオナはツッコミながら、呆れ顔を隠すことなく表面に出す。


「あなた達にはやる気を出してもらいたい」クロウリーは云う。「私がナイトレイブンカレッジの学園長に就任してから丁度百年目! せめて……せめて今年の対校試合こそは……有終の美……と云うわけではありませんが、敗戦続きだったロイアルソードアカデミーに勝利してもらうために、是非とも是が非でもなく皆が協力して見事な連携プレイをし、憎っきライバル校に勝利してもらいたいのです!」


ねえ知ってますか、あなた達に足りないのはチームプレイなんです。TEAM(仲間)という文字にはI(私)という文字は入っていないんですよ――バスカル先生に借りた漫画にそう描いてありました、とクロウリーは嘆きの言葉と共に叫んだ。


「私が学園長を任されてから、丁度百年目。異なる言葉で云い現わすならば、一世紀になるのですよ。その記念すべき百年目こそは、勝利してもらいたい。だから……今回の寮対抗試合では、皆やる気を出し本気で臨んでもらいたいのです! 賞金を示しやる気を出した、学園で選りすぐりの選手を選出する。そして、対校試合で百年目の勝利を掴む! 完璧なプランです」


「まあ、気持ちは分かる……」


イデアのタブレットがふよふよ浮遊しながら、スピーカー越しに小声気味の言葉が響いた。


「さすがの拙者もあのいけ好かない連中に負け続きなのは、ちょっと……こちら側の敗因として、マジフトはチームで戦う競技なのに個人に特化し過ぎた個人プレーが主な敗因だけど、主人公補正って云うの? なんか、あっちの学校にはそういう力が働いてるような気がするんだよね」


「私も勝利したい気持ちはあるわ。だけど、お金で釣るのは、美しくないわね」


「……センセー、賞金はいくらだよ」


「今回の寮対抗試合で勝利すれば、三百万マドル」


金額を聞いて、レオナの表情が変わった。一瞬真顔になった後、悪巧みを隠せないニヤニヤ顔になったのである。その口角の上がった表情にはずる賢さがあった。


「三百万マドル、か。いいね……そんだけあれば……」


「ちょっとレオナ。まさかあんた仮にも……仮にも王族なのにも関わらず金に釣られてどうするのよ」


「金? 金に釣られて何が悪い。世の中は金で罷り通り、金さえあれば何でもできる。この世で唯一圧倒的な力を持つ暴力だ」


ヴィルの小言にレオナはそう答えた。その様子を見ていたカリムは「レオナは現金だからなー」と朗らかに笑う。


「現金じゃなく、話が分かる奴と云ってもらいたいもんだぜ。あの化け物……ロイヤルソードアカデミーの試合にはトカゲ野郎が出るのは当然として、ディアソムニア寮を除外した六寮でやるのが現実的なんじゃねえのか」


「これは意外……犬猿の仲なのに出場は認めるんですな」


「うるせえカイワレ大根。あの化け物の強さについては、お前も知ってるだろうが」


「それは、そうですが……」


云い淀むような声の後に、キーボードの鍵盤を叩く音がタブレットのスピーカーから響いた。恐らく、マジフトの大会成績について調べているのだろう。


「マレウス氏の強さについては、折り紙付き。バランス崩壊ゲーの独壇場。まさに、あいつ一人でも大丈夫って感じ。でも……マレウス氏がいても、ロイアルソードアカデミーに連敗続きなのは確かなんですわ。最早、主人公補正を疑わない拙者なのであった」


「そこでチームプレイですよ、皆さん! 協力し合って勝利を掴み取るのです! 足りないところは互いに補い合う! これぞ、友情努力の勝利の方程式! マジフト上位組であるサバナクロー寮には頑張ってもらいたいところです! ねえ、マジフト部長のキングスカラー君」


「ロイヤルソードアカデミーと対校試合を行うのに必要不可欠な、レオナとマレウスか。でも、二人って仲が悪いんじゃなかったか? 見た限り喧嘩一歩手前のピリピリした空気出してて、みんな怖がってたぞー」


カリムの言葉に「あれ本当空気悪くなるのよね。小競り合いをするのをやめてもらえないかしら」とヴィルの苦情が飛ぶ。


「二人は王族同士なんだし……仲良くしろとまで云わないわ。せめて、スルーできないの?」


「そうだぞ、レオナ。留年しているけど、王族の一員なんだろう。国のトップ同士だ。卒業後、国同士の付き合いになってもおかしくはない……って云うか、レオナは最初は仲良くしようとしてなかったか?」


「あの話はよせ、カリム。話してみたら分かるんだが、人間と妖精とでは根本的な価値観が合わない。鷹揚と云えば聞こえはいいが、悠長にかまけた呑気な連中だった。それと……その留年って認識はやめねえか。『二重』の意味で嫌なんだよ。それに同じ一年なのにリドルを先輩と呼ぶ一年……狂ってるぜ」


「えー、でも実際ダブってるだろ。事実なんだからしょうがなくねえか」


だから留年と云うなとレオナが訴える中、意味深な目でアズールはそのやり取りを無言で眺めていた。そして少し時間を消費して口を開く。


「えー、では……マレウスさんは無条件でロイアルソードアカデミーとの対校試合には参加するので、ディアソムニアは今回の寮対抗試合には不参加。つまり、六寮で試合。そして優勝寮には賞金が出る、と云う形で良いですか?」


「優勝賞金は、三百万マドルです」


クロウリーは笑いながら云った。


「異論はねえ。だがセンセーよ、俺は寮同士の試合に優勝して賞金さえ手に入れれば、あとの試合がどうなろうが知ったこっちゃねえ。金が入ったらどうでもいい」


「え」クロウリーは虚を突かれた顔をした。「つまりあなたは、寮同士の試合でしか本気を出さないと? え、え? あの……ライバル校に勝つために優勝金を提示しているのですが……!?」


「優勝金は寮同士の試合で一位になった場合のみ、だろ」


「ええー、そんな! それじゃ前提が破綻しますよ! あ、そうだ。対抗試合で勝利した場合、更なる優勝金を……あ、でもお金がない……」


「三百万で充分だ。それに俺は金の亡者じゃないんでね」


それにそこまで『未来』に希望は持てないと云いながら立ち上がり、リドルは今回の会議に不参加なのは仕方ないとして、本来あるべき場所、いるべき所に誰も座っていない空席を見るのであった。


その席は無条件参加が認められたディアソムニア寮長である、マレウス・ドラゴニアが座るべき場所だ。


「……また今回もトカゲ野郎は来てねえな」


『あ』


皆の視線がディアソムニア寮の空席に集まった。


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