赤き弔花‐14
あれから、数日後。
オンボロ寮に届けられたパーティの招待状を片手に、鏡舎を越え、ハーツラビュル寮に到着すると、エースとデュースが自分を待ち構えていた。古びた玄関口に近くのポストにねじ込まれていたこの招待状は何なのかと訊ねる前に、二人は「来たぞ!」と云って、自分の背中を押して、薔薇の庭園を走り出す。薔薇の花の色はすべて綺麗に赤く、どことなくイチゴタルトのような艶やかさもあり輝いて見えた。
迷路のような庭園を過ぎると、パーティ会場へ到着する。上座で座っていたリドルは立ち上がり、時計を見た……が、秒針を見ている内に正確な時間など、どうでも良くなったのかテーブルの隅に時計は追いやられる。
「庭の薔薇は赤く、テーブルクロスは白。そして菓子類も揃ってる」
パチパチパチと拍手喝采。万雷のとまではいかないが、心地いいリズムの手拍子だった。
「そして、一番重要なお客様のご登場だ」
リドルはこちらに近寄り、上座から真正面にあたる椅子を引いた。そうして腰掛けるように促す。
「君が座れば、パーティが始められる。肝心要の主役の花形がいなくちゃ、何も始まらない」
「えっと、『何もなかった日』のパーティの主役はタルトなんじゃ」
凄惨な出来事が、『何もなかった日』のお祝い。
富の分配の意味を有したマロンタルトであるが、「それは昔の話だろう」とリドルは云う。
「昔の――それは昔の出来事だ。決まり事と云うのは、流転するものだ。人が変われば時代も変わる。時代も変われば決まりも変わる。それが、ルールと云うものだろう?」
それに今日はそもそも『何もなかった日』のパーティをしているわけではない。それはまた別の日の機会でリベンジすると、リドルは云う。別の日に自分の手だけで、パーティ会場を盛り付けるのだと云った。そして、招待状の文章を詳しく見てなかったのかい、と続けられた。
対して自分はこの発言、態度のすべてが、決まり事に煩いリドルの言葉とは思えないと同時に、この人は誰なんですかとも問えなかった。
「僕が初めて主任するハレの日のお祝い、『何もなかった日』の催しが出来なかったことは残念だとは思う。だけど、今日の催しはそれ以上に重大イベントだ。ズバリ、『監督生を祝う日』。うん、ハートの女王の法律にそうしてはいけない決まりはないし、僕が直接そのルールを作った」
「はあ……あなたにとってこのパーティは『何でもない日』に値するものなんですか? つまりウミガメのスープ理論……」
「そうじゃないよ」
リドルはハッキリと云った。
「それじゃ釣り合わない。『何もなかった日』と比較して、その天秤が明らかに重たいのは『監督生を祝う日』だ。釣り合いなんて取れない。代替品であってたまるものか。百万積まれても応じない。代わりじゃないんだよ。代わりなんてないんだよ」
君たちもそう思うだろう?
リドルが周囲の寮生に尋ねると、皆は「はい、寮長!」と大きな返事がでた。
「意外だけど『監督生を祝う日』にしようって云い出したのは、寮長なんだぜ」
『何もなかった日』の再演を、許しの条件として提示していたエースは云う。だが、パーティの準備中、丁度薔薇の花の色を変えていた時に、ふとリドルは思いつき、『何もなかった日』から『監督生を祝う日』にチェンジしたと云うのだ。勿論、その相談を真っ先にされたエースは快諾した。友達を祝う日を否定する理由なんかなかったのだ。
「学園長から『監督生』のことについて、話を聞いたよ。皆の仲を取り持つ仲介者だってね。君が……君の下にエースがいなければ、解決しなかったかもしれない。君がこなければ、ボクはまだ圧制を敷いていた状態だっただろう。君には、本当に感謝をしている。監督生……君主催のパーティをやりたいんだ」
「俺たちも結局手伝わされたけど、ダチが主役のパーティなんだ。結構気合いをいれたつもりだ」
「マイフレンド……!」
「その呼び名は恥ずかしい……」
デュースはそう云い、綺麗に整えられた芝生を見る。綺麗に均された緑のカーペットは几帳面過ぎるほど整っている。それだけ全力が投じられていた。
「えっと、いいのかな。自分が、パーティの主役になっても」
「なっちゃいけない理由だなんてないだろう? さあ、お座り」
リドルの再度の促しに、恐る恐る自分は椅子に腰かけた。そうして正面を見ると、マロンタルトだけではなく、ケーキやマカロンなどをはじめとした様々な菓子類が並んでいる。恐らく自分の好みが分からないので、沢山種類が用意されたのだろう。その豪華絢爛な菓子類をケイトはカメラに収め、トレイはティーポットを持って自分の傍にいき、空のティーカップに紅茶を注いだ。熱々に注がれた紅茶の香りは非常に良く、周囲は自然な笑顔に包まれていた。
「さあ、パーティの準備は整った。皆、それぞれ好きな飲み物が入ったティーカップは行き渡っているね? それじゃあ――」
――乾杯!




