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赤き弔花‐6

「栗拾いはともかく、皮剥きって結構な重労働じゃん」


場所は、ケイトに指示されて赴いた植物園。自分は物珍しそうに……実際は見た事がない薬草や植物だらけが繁栄している園の中身を、細々と眺めていた。それゆえエースの不服な申し立てに耳を傾けることなく、バナナに似た――しかし実際色が異なる――色鮮やかな果物に意識が向いていた。


「でも、マロンタルトの手作りに協力すればその首輪は外れるんだ。贅沢を云っている場合じゃない」


デュースはそう云いながら、栗の木が生い茂っているエリアへと先導する。エースもその場所を知っているのか迷いのない歩調だが、自分はまだここに訪れたことはなかったので、周囲を眺めながら注意散漫な様子でフラフラとついていくのであった。


そんな中……。


「レオナさん、いい加減起きて下さいよ~。あんまりサボリ過ぎるとまたダブって、来年は俺と同じ三年生になりますよ。個人的に気まずいんで留年しない為に、さっさと授業に行ってください!」


「うるせえぞ、ラギー」


何やら小言が聞こえる。自分とグリムは声のした方向を見ると、そこには動物の耳――獣人と思わしき二名が存在していた。ライオンを思わせる耳を持つレオナと呼ばれた人はやる気なさげな態度で綺麗な芝生に横たわり、大してラギーと呼ばれたハイエナの耳を持つ少年は腰に手を当てて立っている。


好奇の眼差しで、怠慢な息子に小言を云う母親のような構図を眺めているとその視線に気づいたのは獅子の耳を持つ青年だ。自慢ではないが……実際問題恥ずべき話ではあるが、入学式の騒動とシャンデリア事件の双方を合わせると一人と一匹はかなりの有名人になっていると云うのに、相手の眼差しにあるのは怠けではなく『飽き』の二文字だった。繰り返し繰り返し何度も経験したデジャヴがあるのか分からないが、自分がじっと見ているとレオナはのっそりと立ち上がり、ポケットに手を入れてこちらの方へ近づいてきた。迷いなき歩調で栗の収穫へ赴いたエースとデュースは、その場にはいない。


「な、なんですか……?」


上から高圧的に見下ろされている。自分はたじろぎながらも、辛うじて声を出すと「お前はどう思う?」と質問された。


「え?」


「お前はどう思う?」


「りゅ――留年ですか?」あ、失言だ。落胆した顔が表情で分かる。虎の尾を踏んだ。相手はライオンだが。「それは、あまりよくないんじゃないですかね。無料で学校に通えてるわけでもないし……」


「留年留年留年……お前もそう『認識』するんだな。ハーツラビュルの一年から見れば同年のリドルは何故か先輩になるし、煩わしい『知」だよホント」


認識?


自分は相手が見下ろしながら醸し出す威圧的な態度を忘れて、少し前に見た怠慢ではなく『飽き』の視線と、そうして『認識』と出された言葉を頭の中で反芻するのである。


「あなたは……」


「もういい。期待していない。早く行け」しっしと追い払う仕草。「……そのまま道なりに進んで行けば、栗の木があるエリアにいける。そっちに用があるんだろう?」


「えっと、初対面ですよね……なんで知って……」


いるんですかと云う問いは、尻すぼみに消えた。自分はここにくる道中、エースの栗拾いと皮剥きに対する愚痴を、広範囲の音が拾える肉食獣特有の鋭敏な聴覚が拾ったのだろうかと思いながら、その場を離れる。歩を進める中、やたら確信的な態度に思考を寄せていると足元をうろつくグリムが云う。


「耳がライオンだったんだゾ。猫なんだな」


「それは違うよグリム。ライオンはオオカミと同じように群れで集団生活を送る動物だけど、猫は単独のハンターなんだ。薄明薄暮性……早朝と夕方に獲物を独りで狩る。確かに動物園なんかで見るライオンは段ボールに香箱座りなんかしている様子が確認されているけど、あくまでグリム同様姿が似ているだけでしかない。ネコ科だけどヒョウ属なんだ。神と間違わないように、よく覚えていてね」


「おめえ……猫の事になると……いや、何でもないんだゾ……」


「うん? 云いたいことがあるならハッキリしてもらわないと。別に怒ったりはしてないよ。間違いを訂正するのは信徒の役割だし――」


「おーい、監督生」


デュースの声。


見れば、栗拾い一式の装備を用意しており、こちらに向けて片腕を振っていた。


「遅いぞー!」


「ごめんごめん!」


まだ教えの途中であったのだが、猫に対する理解を深めるのはまた今度の機会でいい。自分はグリムを抱き抱えて、云われた通り道なりに真っ直ぐ進み、栗拾いの道具一式を用意してくれた二人の下へ小走りで向かうのであった。


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