悪役令嬢に転生したけど拳で解決することにした
気がついたとき、私は絢爛豪華なベッドの上にいた。
周囲は大理石の柱に、天井からはシャンデリア。どう見ても現代日本じゃない。
(……あ、これ乙女ゲームの世界じゃん!)
そう理解したのは、私の視界に映ったドレッサーに飾られていた肖像画を見た瞬間だ。
金髪縦ロールに青いドレス、口元には冷たい笑み。見覚えがある。
「……悪役令嬢、クラウディア・フォン・ローゼンベルク」
そう、私は転生してしまったらしい。しかもよりにもよって──ヒロインを虐げ、最後は断罪される悪役令嬢に。
「えぇ……マジかよ」
普通なら、ここから「破滅フラグを回避しよう!」ってなるのだろう。
だが私は考えた。
(いや、でも私……現世で格闘技やってたしな)
大学時代、女子ながら総合格闘技ジムに通い、試合にまで出ていた筋肉脳。
就活で全部落ちて、「世の中コネと学歴なんだな」と悟った結果、試合ばっかり出て鍛えていた私。
つまり。
(悪役令嬢でも、拳があれば生き残れるんじゃね?)
そう結論した。
◇
最初の破滅フラグは「ヒロインいじめ」。
舞踏会で、主人公である庶民出身令嬢マリアを侮辱するシーンだ。
ゲームではクラウディアが「下賤の娘が」と言い放ち、攻略対象の王子に睨まれ、信頼を失っていく流れになる。
だが私は違う。
「……ほう、貴様がマリアだな」
緊張で震えるヒロインに近づく。
周囲は「また悪役令嬢の嫌がらせが始まる」とざわつく。
「わざわざ庶民から舞踏会に来る根性……気に入った!」
そして私は──マリアの肩をバシン!と叩いた。
彼女は小鹿のように震えたが、その目に涙はなかった。
「ちょ、ちょっとクラウディア様!? マリアに何を……」
「何って、褒めているんだ。これくらい耐えられずして、どうして王侯貴族の妻となれようか!」
そう言って、私はヒロインの手をぐいっと持ち上げた。
小柄で細いその手は、握れば折れそうだ。
「ふむ……筋力が足りんな。明日から鍛錬だ」
「えぇぇぇぇ!?!?」
ヒロインは素っ頓狂な声を上げたが、王子や周囲の目には「クラウディアが意外にもヒロインを認めた」と映ったらしい。
結果──破滅フラグ回避。
◇
次のイベントは「婚約破棄」だ。
クラウディアは王太子殿下から「君のような残酷な令嬢とは結婚できない!」と断罪される。
だが私はその日を待っていた。
(よし、きたな)
大広間にて、王太子が宣言する。
「クラウディア、君の婚約を破棄する!」
ざわめく群衆。
普通ならここでクラウディアは泣き叫び、悪役としての地位を確定する。
だが私は──
「──受けて立つ!」
「……え?」
王太子が呆気にとられる中、私は裾をたくし上げ、堂々と拳を構えた。
「婚約破棄を言い渡すのは結構。だがその前にッ! 己の拳で私を打ち倒してみせよ!」
「な、なにを言っている!?」
「口先だけの王子に嫁ぐほど、私は落ちぶれてはおらぬ!」
観衆「おおおおおっ……!!!」
結果──
王太子は殴られて床に沈み、逆に私の株は爆上がりした。
「力こそ正義だ!」「さすがローゼンベルク嬢!」とまで言われる始末。
◇
王太子を殴った翌日。
私は「反逆者」として王都を追放された。
普通の悪役令嬢ならここで破滅の道を歩む。
だが私は違う。
(都合がいい……! 辺境なら思う存分トレーニングできるじゃん!)
こうして辺境の砦に赴いた私は、筋トレメニューを作り、騎士団を巻き込んで鍛え上げた。
最初は「令嬢にできるわけない」と笑っていた騎士たちも、腕立て千回を笑顔でこなす私を見て黙り込んだ。
数か月後、砦の兵士たちは精鋭部隊へと変貌していた。
彼らの合言葉は「拳こそ力」「クラウディア様についていけば勝てる」だった。
◇
ある日、辺境を巨大魔獣が襲った。
体長二十メートルのドラゴン。
普通なら国を挙げて対処する脅威。
「クラウディア様! 城下が焼かれてしまう!」
「……下がっていろ」
私はマントを脱ぎ、拳を握った。
「相手がドラゴンだろうが、やることは一つ」
拳を振り抜く。
空気が爆ぜ、轟音が響いた。
次の瞬間──ドラゴンは私の右ストレート一発で吹き飛んだ。
「ひ、ひとパン……!?」
「な、なんという拳……!」
以降、辺境の人々は私を「拳の聖女」と呼ぶようになった。
◇
だが世界は終末へ向かっていた。
魔王が復活し、全土を侵略し始めたのだ。
本来ならヒロインと攻略対象たちが絆を深め、ラスボスを討つシナリオ。
だが今回は違う。
王子は私にワンパンされて引退、攻略対象たちは鍛錬に巻き込まれ筋肉バカに成長していた。
結果──魔王の前に立ったのは、私一人。
「……面白い。人間ごときが、余に挑むか」
「悪役令嬢だろうが何だろうが関係ない。拳こそが真実!」
魔王の魔力が大地を裂き、空を覆う。
私は拳を振るう。
轟音と衝撃波が世界を揺るがす。
殴り合いは三日三晩続いた。
互いに何度倒れても立ち上がり、拳を交わす。
やがて魔王は笑った。
「……見事だ。これほどまでに拳で語れる者は初めてだ」
「ならば分かるな」
「ああ……お前の勝ちだ、人間」
こうして魔王は拳で説得され、和平を結ぶこととなった。
◇
世界は救われた。
悪役令嬢クラウディアは「拳で魔王を屈服させた女」として語り継がれた。
王国からは名誉を与えられたが、私は興味がなかった。
その日も砦で、仲間たちと汗を流し筋トレを続ける。
「クラウディア様! 今日のメニューは何ですか!」
「腕立て二千回だ!」
「おおおおおっ!!!」
ヒロインだったはずのマリアも混じって叫んでいた。
彼女は今や立派な筋肉令嬢に成長している。
こうして私は悪役令嬢として転生したものの──
拳ひとつで運命もシナリオもぶち壊し、世界すら救ってしまったのだった。
──後世の歴史書には、こう記されている。
「悪役令嬢クラウディア・フォン・ローゼンベルク。
その拳は魔王をも屈服させ、世界に平和をもたらした。
以後千年に渡り、彼女は『拳の女神』として信仰された」
ここまで読んでいただきありがとうございました。
世界を救っただの、歴史に名が刻まれただの──周りは勝手に盛り上がっているけれど。
私に言わせれば結論はひとつだ。
「やっぱり拳で殴るのが一番手っ取り早い」
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すべての読者に心から感謝を込めて
一ノ瀬和葉




