生贄令嬢と仇の男
「これは、驚きましたわ。まさか、あなたに私の寝室にやってくる度胸があるとは」
「夫が妻の寝室に来るのは当然だ」
「婚姻の時に、私は言いましたよね。私はあなたを憎んでいる。あなたのせいではないです。ですが、私はそう教育されてきた人間なのです。あなたは敵国の人間です」
「だが、おまえの国は、おまえに私の妻になるように命じたのだろう」
「そのとおりです。ですが、覚えていてください。私は懐に短剣を所持しています。あなたに私の前で丸裸になる度胸がありますか?」
「その言葉、そっくり返そう。こちらだって急な和平など納得がいっていない。君は敵国の娘だ」
「では、お互い敵だと言う認識でよろしいですね」
「ああ」
「では、この偽りの夫婦がどこまで続くか試してみましょうか」
「面白い」
その夫婦が寝室に入っていくのを、ホットミルクを飲みながら見送った六歳の女の子は言った。
「お父さんもお母さんも、昼はあんなに仲良しさんなのに、なんで寝る前になるといつも喧嘩するの?お父さんの国もお母さんの国も、昔は喧嘩していたけど今は仲直りしているんでしょう」
女の子の姉は歯磨きしながら答える。
「あれはバカップルがいちゃついているだけよ」
おわり