83話
イースメイムでの帝国軍との戦いを終えて少し経った後、リリーたちは大樹海を見下ろしたながら通ってきいき、その方向はエリウムの方角へと向かって空を飛んでいく。
彼女たちはドラゴンの背に乗って大空を翔けているがそれはアイリスの姿ではなく、ラティムがドラゴンとなって乗せていた。
「いやぁまさかラティムがちゃんと皆を乗せる時が来るとはねぇ。アイリスもまだ万全じゃないから本当に助かるよ」
「でもよぉ……これ本当にこの辺にリリーがいるのか?」
「……? いますよ! ここです!」
ラティムに乗っているのはピークコッドとベリルとその体に収まるようにアイリスがちょこんと座っており、リリーの姿は何処にも見えない。
体が魔力の粒子となって霊体化したリリーは自身の体を粒子を集めて作ることによってでようやくその形が露わになる程度であった。
あの戦いの後にマホにこの現象を見せた所、『他人の魔力に同化するなぞ、それだけでも自殺行為だがそれだけじゃなくお互いの能力を組み合わせることが出来るとは……奇跡としか言いようがない』と感心の声を漏らしていた。
アノマリティーという存在故の性質なのだろうと、そう納得するしかなかったがおかげでラティムが暴走してしまうという問題は解決したようで皆ほっと胸を撫でおろした。
「ともかく一時はどうなるかと思ったけどイースメイムが再び協力してくれるようになってよかった」
ベリルが一息つくかのように言葉を漏らす。
リリーとラティムが起こしたあの風は情報によると帝国領の近くまで大樹海に侵入した帝国軍全員が吹き飛ばされていったらしい。
残された帝国軍は立て直される時間も含めてこれ以上の侵攻は不可能だと判断した結果、完全に撤退したという。
リリーたちがいなければ得られなかったこの戦果は非協力的な態度だったヴォリックもさすがに認めざる負えなかった。
「帝国の力が想像以上だったことは確かだった。あの魔導ゴーレムも戦争が長引けば増えちまうかもしれねぇ」
「転送石の件もあってイースメイムは自分たちの防衛に今は専念しなくちゃいけないからね……。敵になる可能性はなくなったとはいえ安定するまで頼るの事は難しいだろう」
「ベリルさん、これからどうするんですか?」
「今はエリウムに戻ってフレデリック様に報告しよう。この結果は喜んでくれると思うよ」
「そっか。早く帰って休みてぇなぁ。なぁラティム、もっと早く飛ぶことって出来ないのか? アイリスみたいに」
「……!」
「グァッ!?」
ピークコッドの言葉に反応した二匹はお互いに視線を向けて見合わせる。
少し自信なさそうなラティムを見ていたアイリスの顔は『まだまだ私に勝てるわけないでしょ』と抱いてくれているベリルの体の中で舌を出しながらふんぞり返っている姿を見ると、少しムキになったラティムは動かしていた両翼に力を込めながら速度を上げてエリウムに向かって飛翔していったのだった。
──
リリーたちを乗せたラティムはエリウムへと帰還するとそのままドラコレイク神殿へと降り立っていく。
全員を降ろした後のアイリスの煽りを受けたラティムは全力で飛んで行ったせいか息を切らしており、へとへとになった顔を霊体化したままリリーは労うように撫でてあげた。
「お疲れ様ラティム、ありがとね」
彼女の言葉を聞いて安心したのかラティムの表情は穏やかになっていくのを見た後に霊体化を解くと、青い粒子が彼の近くへと集まっていきリリーの姿が元に戻っていくとラティムも人の姿へと戻っていった。
「おお、外が騒がしいと思ったら帰ってきたのか!」
そうこうしているうちにリリーたちが戻ってきたのが聞こえたのか神殿からフレデリックが神官たちと共に歩いてきたのが見えてきた。
「フレデリック様、ただいま戻りました」
「ただいまですフレデリックさん!」
「よく無事に戻ってきた。それでどうだった?」
「はい。イースメイムとは無事に協力関係を再び築けました。詳しくは中で……」
「いや、ここでよいぞ。今は時間が限られておる」
「そうですか。では──」
ベリルはフレデリックにイースメイムの件について詳細を話していくとその結果を聞いてフレデリックは不安げな顔から少しずつ安堵したような表情になっていき、彼らを労っていった。
「──以上になります」
「そうか……。本当にご苦労だったな」
「それで、そっちの方はどうでしょうか?」
「……マルティナスの件に関しては未だに見つかっておらん」
「お姉さまのこと? 何かあったんですか?」
「彼女が討たれたあの時、その遺体は無くなってしまったが遺品は残っているはずでな。それは彼女が愛用していた聖槍。それだけでもなんとして回収をしようとしているがあそこは帝国の目が厳しくての……。中々に手が出せん」
「それってもう帝国の奴らに取られちゃったんじゃ……」
「その可能性は残念ながら否定できん。もしそうだったとすればそれを取り戻すために全力を尽くさなきゃならん。あれは彼女の最後の意志でありワシらにとって希望の象徴にもなる」
「じゃあわたしたちで探しにいくというのは……」
「そう力む必要はないぞリリー。お前たちには別のことをしてもらうからな」
「別のこと……?」
「そう。お前たちにはまずウエスメイムにいるヴィヴィを連れ戻してほしい。そしてそのままあっちの方に行ってほしい」
「あっち?」
フレデリックはそう言うと皺のある指をある方角に示すと全員がそこに注目し、頭に疑問を浮かべながら見ているとニヤリと彼は笑っていた。
「そうじゃ。ここからさらに北に行くと港町があってな、そこは大いなる海が広がっている。その向こう側にいるワシの同胞たちに会いに行ってほしいのだ」