表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水天ヲ翔ル  作者: @EnjoyPug
8/161

8話

 グリフォンの攻撃が三人に放たれる寸前という絶体絶命の状況でラティムの体が光を帯び始めていく。

 その光は青く、やがて強くなり全身を包み込んでいった。


「な、なんだ……? 何が起こっているんだ……?」

「これって……」


 ラティムの様子が変わっていくこの光景をリリーは見たことがある。

 全身を包む光はやがてラティムの体を大きくさせ、そして変化していく。

 その姿はリリーが森で帝国兵に襲われた時で見たドラゴンの姿であった。


「ド、ドド、ドラゴン!? なんでぇ!?」

「――――ッ!!」


 目の前で起きている異変を見て何かを察したグリフォンはすぐさま自身を纏う風を圧縮し、それをリリーたちに放つ。

 突風の塊は吹き荒れながらも周囲を削り巻き込みながら勢いよく直進しラティムに襲い掛かった。

 風が吹き荒れ、轟音と暴風の音が闇夜の山道に鳴り響く。

 リリーとピークコッドは咄嗟に両腕で自身の体を庇い、耐え抜くしかない。

 やがてその轟音が鳴り止んだのを知ると二人はゆっくりと目を開くとそこには紫色のドラゴンがリリーたちをあの攻撃から庇うように立っていた。


「ラティムがまたコレになっちゃった……」

「え? このドラゴンってやっぱりあの子なの!?」

「グルル……」


 ピークコッドが目を丸くしていると、ふと上から青い粒子が落ちていくのが見える。

 ランタンなど明かりになっていたものはほとんど無くなっていたが、この周囲を囲むように青い粒子が降り注いでいでそれが明かりの代わりとなっているそれは荷車から散らばったからモノに発してているようだった。

 ラティムは放たれた突風の塊を防ぎ切ると目の前のグリフォンを威嚇するように唸りながら力強く構える。

 ラティムの体はドラゴンに変化したことで目の前のグリフォンよりも体格が大きくなっており、その姿を見たグリフォンは前足で掴んでいたリザードバックの肉塊を離して後ろに跳躍し距離をとった。

 急に現れたこの存在は明らかに異質。

 グリフォンがラティムを威嚇するように睨みつけ、だが同時に冷静に観察していく。

 その行動は明らかにラティムの存在を警戒しているのがわかる。

 両者の距離が離れ、グリフォンは翼を動かして再び風を操っていくとその風は徐々に強くなり、そして三人を囲んでいった。


「きゃあっ!」

「な、なんだこれ……身動きが……!」

「……ッ!」


 その風は油断していると今にも体ごと吹き飛ばされてしまいそうな勢いであり、リリーたちは姿勢を低くして耐えることしかできなくなっていた。

 ラティムもこの風の力には抗うことが出来ず、両足で踏ん張りを効かせるのが精いっぱいだった。

 先ほどまで警戒の視線を送っていたグリフォンの目がそれを見て変わる。

 グリフォンは風によって動きを封じつつ、その流れる先をグリフォンの目の前へと誘導していく。

 流れた風はグリフォンの目の前で集まり、それが少しずつ大きくなっていくとその大きさは先ほどよりも巨大になっていった。

 作られた風の塊は大きさはすでに今いる山道の幅ほどであり、回避をするには飛翔などをして空に避難しなければならないほど回避は困難な大きさであった。


「…………」


 それを見てラティムは後ろをチラりと見る。

 グリフォンが放とうとしている攻撃は自分ならなんとかして躱せるかもしれない。

 だがこれを躱せば後ろにいるリリーたちにこの攻撃が直撃してしまうことを悟ると前の方を向き直る。

 グリフォンは思う。当然相手はそういう行動に出ると。

 観察した結果、下手に回避せず後ろの人間を守っているのがその証拠だ。

 アレはコイツの番なのだろうか。だとしたらこれは幸運である、と。

 グリフォンの表情はまさに勝ち誇ったような顔をラティムに向けていた。

 そんな様子のグリフォンを見てラティムはその体に力を込めていく。

 リリーは吹き飛ばされないようになりながらもラティムの方向を見ると、彼の体に何かが集まっていくのを感じ取った。


(なんだろう……これ……青い光……?)

「な、なんだぁ? 魔鉱石が反応してるぞ?」


 ピークコッドの言葉を聞いてリリーはそのまま周囲を見渡す。

 そこには荷車から散らばったモノ。青く光りながら粒子を生み出している魔鉱石と呼ばれる物体であった。


「魔鉱石からこんな光が出てるの初めて見た……。てかアイツこんな大量に詰め込んでいたのかよ……。しかもこの出てきている光、あのドラゴンに吸い込まれているような……」

「…………」

(す、すごい。ラティムの中が、何かがすごく大きくなってる……。でも、このことをラティムは知っているよって言ってる……。知っているって、なんでなんだろう……?)


 十分に溜め込んだのかグリフォンは口を大きく開けて風の塊をラティムに向けて発射した。

 一度目の攻撃よりもその塊は遥かに大きいが、それ故に向かってくる速度は遅い。

 暴風と共に轟音が近づいてくる中、ラティムもそれを真似をするように口を大きく開けて目をカッと開き全身を震わせた。

 その時、周囲に散らばった魔鉱石の光も強くなると、その光がラティムの方へと集まっていくのが二人に見えた。


「魔鉱石がこんなに反応するってどうなってんだ!?」


 青く輝く魔鉱石の光は次々とラティムの中に入っていく。

 その光をラティムは全身で浴び、そして体の中心へと向かっていった。

 この光を十分取り込んだのか、取り込んだその光は集まっていき、体の中心から喉へと上がっていくと、やがて口の方で一旦止まった。


「グアッ!!」


 口に含んだその青い光をラティムは思い切ったように大きく開く。

 その瞬間、ラティムの口から巨大な青い火球が吐き出されていった。

 青い火球は迫りくる風の塊よりも小さかったが、それでもグリフォンに向かって前へと真っすぐ進んでいく。

 巨大な青い火球は風の塊にぶつかると、激しい衝突音と共に両方が拮抗した状況になった。


「うおおお!?」

「きゃあっ!」


 二つの強力な攻撃の衝突によって生み出されたこの衝撃をピークコッドはリリーを庇うように抱きつつ身を丸めながら二人はこの後の行く末を見ていた。

 拮抗している青い火球と風の塊。

 互角、この場にいる全員がそれを思ったその時、ラティムの放った青い火球が少しずつだが膨らんでいるように見える。

 それはまるで風の塊を取り込むような、そんな光景であり、いつの間にか先ほどよりも倍の大きさになっていた。


「――――ッ!?」


 すでにグリフォンが放った風の塊は青い火球よりも小さくなり、飲み込まれていく。

 自身の攻撃が消え、目の前の脅威が迫ってきたグリフォンは咄嗟に風を自分に纏わせて身を守ろうとする。

 だがあまりの大きさとその威力に身を守る風の壁はあまりにも脆く、そのまま青い業火でグリフォンの身を焦がしていった。


「うおおお! すげぇぇ!!!」

「やった! やったぁ!」


 グリフォンの悲痛な叫びが山に響き渡るのを聞いてリリーとピークコッドは窮地を脱したことに喜ぶように抱き合う。

 だが目の前で燃え盛る炎の影から、何かが飛び出すのが見えた。

 炎から空へと飛び出したそれは焼け焦げたグリフォンの姿であり、最後の力を振り絞って空へと飛んだのだった。


「…………」

「…………」


 ドラゴンの姿であるラティムとグリフォン、両者が睨みあい沈黙が訪れる。

 だがグリフォンは顔をラティムから背けるとグリフォンはゆっくりと闇夜へと消えていった。


「た、助かった~~~」

「わわわっ!」


 ピークコッドはなんとかこの場を切り抜けたことに力が抜けたのか抱き合ったままへたり込んでしまう。

 ラティムも脅威が去ったことを理解したのか、全身から再び光で包み込まれるとドラゴンの姿から少年の姿へと変わっていった。

 人の姿に戻ったラティムは息を一息つくように大きく吐きながら二人の方を振り向くと、何かに気が付いて走り寄っていくのが見えた。


「なんだ?」


 駆け寄ってくるラティムを見て疑問に思っているとピークコッドの胸の中で寝息のような声が聞こえる。


「すぅー……すぅー……」


 その姿は疲れ果ててしまったのかリリーが眠っており、近くに寄ったラティムがピークコッドの方に向けて心配そうな目で見てきた。


「……!……!」

「だ、大丈夫だよ。疲れただけだと思う。たぶん」

(たぶん心配しているんだよな? てかこいつ本当にしゃべれないのか?)


 ピークコッドの胸の中で眠るリリーの手を握ってジっとラティムは見続ける。

 青い粒子がまだ降り注ぎ、仄かな光が暗闇の山道で照らしていく中、ピークコッドはラティムの方を見て頭に浮かんだ疑問に悩んでいた。


(こいつ……ドラゴンになれんのかよ……。だから帝国に連れてかれてた……みたいな?そんな奴って今までいたか?いやでもドラゴンってそもそも……。待て待て待てピークコッドさんよ。今はそういう状況じゃないよな……とにかくこの場をなんとかしないと……)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ