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水天ヲ翔ル  作者: @EnjoyPug
40/161

40話

 蒼炎の中をかき分け、ラティムを切り払ったマキスは膝を地面につける。

 魔導アーマーから焦げ臭い煙と蒸気を吐き出す音を鳴らしながらマキスは兜から顔を露出させて大きく息を吐いた。


「ぐっ……ぶわっは……! はぁー……はぁー……」


 熱を排出している魔導アーマーと同じようにマキスも体内の熱を口から吐き出していた。

 いくら魔導アーマーで身を包んでいるとはいえ、直撃を食らえば相応のダメージをもらうのは必然だ。

 もしあと少しでも攻撃が遅れていたらきっとラティムの吐いたブレスに魔導アーマーは耐え切れずその身を焦がしていただろう。

 しかし、マキスは耐えきった。背後にいる兵たちを守るために行った特攻。この賭けに勝ったのだ。


「危なかった……。吾輩、もう少しでグリル焼きになることであったな……。しかしこの勝負、吾輩の勝ちだ……!」


 地面に倒れ伏しているラティムを見下ろし、マキスは膝を起こして立ち上がる。

 再び大斧を握りしめ、焼け焦げた体に鞭を打って近づいて行った。


「ラティム!! このままじゃやられる! アイリス向かってくれ!!」

「グアッ!!」


 空から様子を見ていたベリルはアイリスに叫んで命令する。

 アイリスもそれに頷き、空からマキスの方向に飛ぼうとした時、その周囲が爆発する。


「っ!?」


 まるでアイリスの進路を妨害するような爆発は下を見ると帝国兵たちがこちらに向かって対空砲や魔導ガンを目一杯撃ちはなっていた。


「くっ……攻撃が激しい……! まずいぞ……!」


 帝国兵の攻撃は激しく、アイリスは避けるので必死になっている。

 そうこうしている内にマキスは倒れているラティムの前にまで迫っていた。


「ラティム!」

「おい! 誰か助けられる奴、誰もいないのかよ!!」

「騒ぐな。今の状況で向かえる者は向かっているはずだ」

(最も、そんな奴は送ってはいないがな……。この場で両方を消せるならそちらの方が都合がいい)

「ああ……」


 マキスは残された力を振り絞って大斧を振り上げる。

 その刃は振り下ろせばラティムの首に狙いを定めており、ラティムは目の前に立つマキスをただ睨みつけるしかできなかった。


「……ッ!」

「お主、吾輩とここまで()り合えるとは中々の強者であるな。マルティナスには及ばないが、お主もまた戦士よ。だがこの結果も一つの定め。受け入れるのだな」


 その言葉を放つと同時にマキスは大斧を一気に振り下ろした。

 確実に首を切断するための動作に迷いはない。


「ラティムーー!!」


 誰もがこの状況を見て間に合わないと感じる。

 リリーの悲痛な叫びが戦場の空気に交じりこんでいく瞬間、空の向こうから光が降り注いだ。


「ぬおっ!?」


 降り注いだ光の柱にマキスは遮られ、思わず足を後退させる。

 光の柱はやがて消えていくと放たれた空には白いドラゴンがこちらに飛んできており、そのままラティムを庇うように着地していく。

 そのドラゴンの背には赤い髪が目立つ騎士が聖槍を握りしめてマキスを睨んでいた。


「お前は、まさか……!」

「お姉さま!」

「……っち。マルティナスめ……。すでに終わらせてこちらに駆け付けたのか……」


 魔術師たちにマキスとラティムに攻撃の合図を送ろうとしていたマホは気づかれないように静かにその手を収めていく。

 間一髪でラティムの傍に降り立ったマルティナスはラティムの様子をチラりと見た。


「酷いケガ……。相当無茶したようね」

「……ッ」

「でも、もう大丈夫だから……! グローリー!!」


 マルティナスの声にグローリーは答えるように大きく咆哮を放つ。

 ドラゴンの叫びがこの戦場に響き渡り、その声に帝国兵たちは思わず身を震わせる。

 マルティナスは手に持った聖槍を掲げると、グローリーはそこに自身の魔力を集約させていく。

 マキスに向けた聖槍が白い粒子によって包み込まれ、先端に刃に白い魔法陣が発現するのを見てマキスは大斧を構えて彼女に立ちはだかった。


「ふふ、ぶわっはっは! 会いたかったぞマルティナス。お主を再び倒すために戦場に出ていると言っても過言ではない。いざ決着をつけようぞ!」

「……残念だけど貴方に構っている暇はないわ。それに、すでに勝負は決しているわよ」

「な~に~?」

「隊長~!!」


 マルティナスの言葉の意味を理解ができなかったマキスの背後から彼を呼ぶ声が聞こえる。

 振り向くと、そこにはマキスの四人の部下が息を切らして走ってきていた。


「隊長~!!もうやめてください~!」

「もう戦いは終わりッスよ~!」

「撤退の命令きてるって! 早くここから逃げましょうぜ!」

「ウボッ! ウボォ!」

「お、お前たち、終わりってつまり……どういうことだ……? ……まさか」

「そうッス! 中央の戦いは終わったって事ッス!」


 ガルダ平原の中央で戦っていたとされるマルティナスがここにいるということは、この戦いで帝国は敗北を喫したということと同じであった。


「他の連中はすでに撤退を始めてるって。だから早く逃げましょうぜ!」

「ぐぐぐ……しかし、吾輩の好敵手のマルティナスが目の前にいるんだぞ! そう簡単に引き下がれるか……!」

「あ~もう。これだから困るんだよなぁ……」

「マルティナス! ここで吾輩と"あの時"に付けられなかった決着を今ここで決しよう……って、うおっ!?」


 マキスはそのままマルティナスに立ち向かおうと足を動かそうとした瞬間、その巨体がグラりと揺れて地面に倒れる。

 魔導アーマーの装甲から光っていた青いエネルギーはそのままゆっくりと消えていった。


「ぐおおお……エネルギー切れか? 体が全然動かせん……!」

「あーもう。言わんこっちゃない。エボン、隊長を頼むぞ」

「ウボォ!」


 魔導アーマーを支える魔結晶のエネルギーが枯渇し、鉄の塊となったマキスを部下の中で一番図体が大きいエボンが首の部分を握ると、そのまま帝国側の方へと引きずっていった。


「おい早くこっからズラかるぞ!」

「やべぇ! 他の竜騎兵がこっちに来てる!」

「急げ! 皆で隊長を引っ張るッス~!」

「ウボォ! ウボォ!」

「お前たち……。ぐおおお……マルティナス! 次に出会ったら今度こそ決着をつけようぞ! 覚えておけー……!」


 部下に引きずられながらもマキスは戦場から消えていくのを見てマルティナスは向けた聖槍を降ろすと息を大きく吐いて一安心する。


「ふぅ……。……結局、アレ誰だったの……?」


 聖槍を白い粒子へと変えながらマキスのことをグローリーに訪ねていると、後ろから味方の気配を感じ取る。

 振り向くとそこにはリリーとピークコッドが走ってこちらに向かってきており、空を見上げるとベリルとアイリスが降り立ってきているのが見えてくる。

 遠くで引きずられながらも異常な速度で離れていきマキスの姿が消えていくと、マルティナスの近くにリリーたちが走ってくるのが見え、そして声が聞こえてきた。


「ラティム!」


 戦場に駆り出たドラゴンの名を叫ぶ声は悲しく、その声の主であるリリーの目には涙が溢れていた。

 近くによって傷ついたラティムの体に触れるとそれに安心したのかラティムはゆっくりと瞳を閉じてドラゴンから人の姿へと戻っていった。

 そこにはリリーとピークコッドの姿があり、リリーは目から涙は止まることがなかった。


「うっ……」


 ドラゴンで受けた傷は人の姿になってもその痕が痛々しく残っているのを見てリリーは思わず口を手で塞いでしまう。


「大丈夫リリー。傷は深いけど致命傷じゃない。すぐに手当てすれば問題ないわ」


 ラティムの胸に刻まれた一太刀の傷にパニックになりそうだったがマルティナスの言葉を聞いてリリーは落ち着きを取り戻していく。

 それでもラティムは衰弱しきっており、どうすればいいか慌てているとピークコッドがカバンから注射器型の魔道具を取り出して彼の体に刺した。


「ラティムもこれで少しは楽になるかも……」


 注射器の中にある回復薬(ポーション)をラティムに投与して彼の治癒力を促していく。

 回復薬(ポーション)を投与されたラティムの顔が苦しんでいた表情が少しずつ緩んでいくのを見てリリーは彼の手を両手で握った。


「ラティム……ごめんね……ごめんね……」


 自分のためにラティムを無理させたこと、そして戦場に出るという意味を深く理解せずに彼に大けがをさせてしまったことに対してリリーの心の中で罪悪感で一杯になっていく。

 そんなリリーが今できることはラティムの手を握り、彼の無事を祈るだけだった。


「…………」

「ラティム……? ラティム……!」


 やがてラティムは意識を取り戻し、重そうな瞼をゆっくりと開ける。

 その瞳の先には涙で顔がくしゃくしゃになっているリリーの顔が映り込んでおり、そしてリリーはラティムが無事だということに安堵すると声出しながら彼を上から抱いて大きく泣いたのだった。

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