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水天ヲ翔ル  作者: @EnjoyPug
35/161

35話

 ガルダ平原の上空を飛び回り警戒をするベリルは視線の先に人影の気配を感じ取る。

 草原が広がる広い丘の先には隠れるのにうってつけな森が広がっており、目を凝らすとそこには魔導アーマーを装着した帝国兵の姿が見えた。


「なんだあれは……」


 ベリルは帝国兵の風貌を見て思わず呟いてしまう。

 その姿は以前の戦争で騎士鎧を装備していた姿とは全く違う。上半身を分厚く重苦しい鎧で包み、手には魔導ガンが握られていた。


「あれがリリーの言っていたモノなのか」


 森の中からぞろぞろと姿を現していく帝国兵を遠くから発見したベリルはすぐに弓を構えて自陣方面に魔力の矢を放つ。

 放った矢は自陣方面の近くまで到達すると甲高い音と共に弾けるのを見届けるとベリルは合図が来るまで上空で待機した。


「来たか」


 地上ではベリルの合図を見て帝国兵の進軍を察した前衛部隊の緊張が一気に張りつめていく。

 騎乗しているリザードバックを手綱で落ち着かせつつ、部隊長は組まれている陣形の中を歩いていくと帝国兵が見える位置まで辿り着いた。


「あれが例の新しい装備というヤツか」


 帝国兵の情報はすでに知っていたが、実際に目のあたりにした帝国兵の印象はかなり違うことに部隊長は思わず動揺する。

 以前の帝国兵は魔術に対する有効な対抗策がほとんどなく、その解決策として騎馬隊による機動力によってかく乱して間合いを詰めることを重視していた。

 さらに遠距離から放たれる強力な魔術に対して少しでも抵抗するために、帝国兵の鎧には耐魔力性能を高めた加工が施されている。


(あんな重装備でまともに動けるのか? そもそもあの鎧、ウエスでも全く見たことのない代物だぞ)


 帝国独自の技法によるものなのか。

 軽武装から重武装へと変わり、どっしりとした姿は遠くからでも威圧を感じる。

 鎧も既存の代物とは違う魔導アーマーのデザインは連盟軍から見てかなり異質であり、そして不気味であった。

 その感覚は目に見える帝国兵たちが自分たちとは違う、まるで文明レベルに差があるかのような雰囲気は彼らが別の存在のようにも見えてしまう。


「皆の者、ヤツらの姿を見て臆するな! ここで臆せば相手の思うつぼだぞ!」


 他の兵たちの動揺が広がらないように部隊長は声を大きく挙げる。


「ヤツらの歩みをこちらの射程内までギリギリまで引っ張るんだ!」


 戦列を組み、重い足音を鳴り響かせながら帝国兵は連盟軍に近づいて来る。

 自軍の後方からそれを静かに見ていたマホは列を組んだ魔術師たちに手で合図を送ると、それと共に魔法陣を展開させていく。

 一列に並んだ彼らは互いの手を魔法陣で繋いでいき、臨戦態勢へと移行した。


「まだだ……。まだだぞ……」


 マホが手を挙げてタイミングを見図る。

 帝国兵の重い足音が徐々に聞こえ始めてきた時、マホは手を勢いよく下げた。


「今だ! 第一陣、魔術発動!!」


 マホの声と共に列を組んだ魔術師たちが一斉に魔術を発現させていく。

 展開した魔法陣が彼らを繋ぎ、注がれた魔力が一つになっていくとその色が変わりはじめる。

 重ねられた魔法陣は紅蓮のような強い赤色に変わると、その頭上で巨大な火球が形成されていった。


「きゃあっ!」

「す、すげぇっ! 多人数による複合魔術だ! しかもこんなにたくさんなんて初めて見たぜ!!」

「……っ!!」


 リリーたちの背後で家一個分ほどの大きさに肥大化した火球をいくつをも生み出していくのを見てピークコッドは思わず興奮する。

 熱気がここに届く勢いまで肥大化した火球を見たマホはそのまま帝国兵の方に向き直った。


「撃てぇ!!」


 マホが手と共に指示を出すと、いくつのも生み出した巨大な火球が進軍する帝国兵たちに弧を描くように放り出されていく。

 カタパルトによって放たれた投石の如く、いくつもの火球が前衛部隊の頭上を通り過ぎ、そして帝国兵たちへと迫っていった。


「――ッ! 来たぞ!! シールド隊!! 前へ!!」


 放たれた巨大な火球は帝国兵たちの眼前に迫ると、前方を進軍していたすぐ後ろで待機していた帝国兵が移り変わって前に出る。

 手には自分たちを覆うような大きな盾を装備しており、それを両手でしっかりと握りこんで迫りくる火球に備えた。


「構えろ!!」


 隙間を埋めるように大盾を構えた帝国兵たちに巨大な火球は降り注いでいく。

 火球は帝国兵たちの眼前まで迫ると、そのまま着弾することなく空中で激しく光り始めた。

 ――ドゴォンッ! という火球の内部に溜め込んでいた魔力が内側から弾けるような爆発が帝国兵たちを襲っていった。


「うぐぉ!?」


 爆熱と爆風の衝撃が大盾に伝わり、それでもなんとかこらえようとする。

 だが放たれた巨大な火球はいくつもあり、それらが帝国兵に襲い掛かっていった。

 爆音が時間差で鳴り響き、先の景色は赤い炎で包まれていく。

 ガルダ平原に広がっていた草原は焼け焦げ、ツンとした臭いがリリーたちの鼻に届いて刺激した。

 やがて放たれた魔術は全て撃ち終え、黒い煙と炎だけが目の前に見えるだけであった。

 煙が晴れてくるとそこには火球の爆発に耐えきるごとができなかったのか列を組んでいた帝国兵たちが陣形を崩している姿が戦況を見ていたマホの目に映ったのだった。

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