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水天ヲ翔ル  作者: @EnjoyPug
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3話

 霧が濃く漂う森の中を二人の男が歩いていた。

 屈強な男たちの上半身を包み込むような鎧は肥大化しているようにも見え、顔全体を包んでいるヘルメットによってさらに一回り大きく見えてしまうほどで、更に筒のような物を両手でしっかりと握りこみ、その根本に装着された引き金の部分に指を添えておきながら周囲を警戒しているようだった。

 霧のせいか森の中は湿気が酷く、振り向くと自分たちが歩いた足跡が大きく残っているのが見えた。


「おい……ここってどの辺だかお前、分かるか……?」


 一人の男が沈黙に耐えかねて片方の男に声を掛ける。

 その一言によって男たちは周囲を警戒しながらも筒のような物をいったん下ろすと緊張が解けたのか大きく息を吐いた。


「俺が知るかよ。事前に確認した地図にはこの付近は森しか書いてねぇし、つまり俺たちは"迷っちゃいました"ってことだろ」

「部隊とはぐれちまったって言ってもよぉ。な~んかここおかしくねぇか? ここの森はそう広くねぇし、地図通りならこの付近は迷ってもすぐ原っぱ見たいな場所に抜けられるような所じゃねーか」

「魔力探知機も何故か機能しねぇしな……。はぁ~湿気で魔導アーマーの中がムラつくぜ……」


 男は魔力探知機と呼んだ道具を手に持って円盤の中にある矢印を見ながらぐるりと周囲を確認するように体を回る。

 本来なら円盤の中にある矢印はこの男たちの目的のために先を示してくれるはずだがその矢印が真っすぐ示されておらず、矢印はカタカタと不規則に動いているだけだった。


「なぁよ。一回来た道を戻らねぇか? このままだと日が暮れてマジで遭難しちまうよ」

「そんなことしてたら他の捜索隊に先越されたら成果のない俺らに上から何言われるかわかんねーよ。それに歩き回ったこの苦労も無駄になるだろーが。一応はよ、この探知機もまだ壊れてないようだしな」

「おっ?」


 男はそう言ってもう一人の男に探知機を近づけると男はその示された矢印を凝視すると矢印は不規則に動きながらも一か所だけ矢印が止まる場所があるのを知って二人は静かに見つめた。

 その意味は矢印の先には男たちが探している物の存在を意味していたのだ。


「先に見つけりゃ俺らのやらかしはチャラってことになるだろ?」

「うおお! こいつはツイてるな! 早いとこ見つけて、それで他の奴らがまだだったら俺たちが一番乗りだぜ!」

「そういうわけだ。ボヤいてないでさっさと行こうぜ。ったく、ここは嫌な場所だぜ……。入ってからなんというか……常に何かに見られてる気がする。しかもここは不可侵領域内だしな……。あっち側にバレると面倒だ」

「ハハッ。たしかに面倒なのはちげぇねぇ。やることやってさっさと部隊と合流して我が帝国に帰ろうぜ」


 男たちはそういうと深い森の中にどんどん入り込んで行くか内心、恐怖心はあった。

 しかし二人は適当な話をすることでそれを誤魔化しつつ探知機を見つつ歩く速度は自然と早くなっていったのだった。

 そんな中でモンスターたちのざわめき始めて少し経つと草が生い茂っている獣道から一人の鎧を着た大人がリリーたちの目に飛び込んできた。


「お?」

「なんだ? なんか見つけたか?」

 

 鎧の男は手に持った探知機を見ながらだったのか、広い場所にたどり着いてから自分たちが今どのような場所に出たかに気付くのに少しだけ遅れを取っており、リリーたちは何かが来るというのはゴーストたちによって身構えることはしていたが、出てきたのが自分たちがモンスターだと思っていたのとはまるで違うことに驚く。

 互いが予期せぬ遭遇に目を丸くして全員の体が硬直してしまったが後ろからもう一人、同じ格好をした男が現れると先に到着していた方がハっとなって我に返った。


「うおおっ! ここモンスターだらけだぞ!」

「やっべっ!? 早く魔導ガンを構えろ!」


 先に動き始めたのは一番最初に現れた鎧の男であり、探知機を素早くしまい込み目の前の状況に素早く対応し始めると男たちは手に持った武器を魔導ガンと呼んでモンスターに向かって狙い定める。

 モンスターたちも突然の来訪者に怯えるように蹲ると、リリーたちを守るようにバンティが前に立ち塞がった。


「おい! なんか奥にガキもいないか!?」

「それよりも目の前のバンティウルフに集中しろよ!! 撃てっ!!」


 男たちは魔導ガンにある引き金を引くと、筒の先端から青い光が放たれ、それが小さな弾となってリリーたちに襲い掛かる。

 バンティはリリーたちを突き飛ばしてその場から離れさせたが近くにいたトレントや漂っていたゴーストに命中していった。

 一番臆病なフェアリーはすでに姿を消しており森の中に銃声と逃げ遅れたモンスターたちの悲痛な叫び声が響き渡る。

 その悲鳴を聞いたバンティは怒りを全身に纏わせ、それを表すかのような赤い目で男たちを睨みつけ、思い切り駆け出した。


「くそっ!」


 男は迫りくるバンティを見て魔導ガンで迎撃しようと再度引き金を引くが、バンティは素早く懐に潜るとその腕に鋭い牙を立てて嚙みついた。


「うおおお!? こ、こいつっ!」


 鋼鉄の鎧に牙が擦ることで金属音が辺りに鳴り響く。

 バンティはそのまま体重を乗せるとそれによって男の一人が尻もちをついてしまい、それを見たバンティはこの機を逃すまいと首筋を狙って口を大きく広げて噛みつくなどをして攻撃の手をさらに過激にしていった。


「くぅっ!? おい! 早くこいつなんとかしろよ!」

「分かってるって! 今装填中!」


 バンティに組み付かれた方は幸いにも分厚い鎧のおかげで鋭い牙がその中まで通ることはない。

 それを見たもう一人の男は魔導ガンの弾がなくなったのか魔導ガンの銃身の背の部分を開くと、そこから銃身の形に合わせた結晶が中から姿を見せる。

 露出した結晶には光沢はなく、それを手に取ると魔導アーマーの機能を活性化させていく。

 背中にある青い部品が光始めるとそこから結晶を握る手のほうへと流れていき、そのまま内部へと青い光が入っていくと数秒ほどで結晶は青い光沢を取り戻していった。

 本来の姿に戻したそれをまた魔導ガンの中へ戻すようにと入れるとそのままバンティの方に狙いを定めた。


「食らいやがれ!」


 男は組み付いているバンティに向かって魔導ガンの引き金を引いたがバンティはその殺気にいち早く気が付き、その場を跳躍するとその弾は倒れている男のほうに被弾してしまった。


「あだだだっ! おいふざけんなてめぇ! 俺を殺す気か!!」

「わ、わりぃ……」

「……っ! に、逃げなきゃ……!」


 男たちがもめ事をしているのを見たリリーはラティムの手を強引に引っ張って村の方向へと走り出した。


「ガキが逃げるぞ!」


 倒れた男が隙を見て逃げるリリーに気が付き、焦るように指を示す。

 男たちはこの付近にある探し物を見つける作戦中であり、自分たちの存在がバレることは不味かったのである。

 幸いにも今この場にいるのは目の前にいるバンティウルフと逃げようとする子供二人。

 だが子供とはいえ森の中で姿を消されるとかなり面倒になる。

 男たちはすぐに倒れた方を立ち上がらせてリリーたちが森の中へ姿をくらます前に追おうとするがそれをバンティが身を挺して噛みついて妨害した。


「うおっ!? こんのクソ犬……!」

「俺が行くからお前それ見てろ!」


 もう一人の男がリリーたちの方に向かおうとするのに気が付いたバンティはそちらに一瞬だけ気を取られると、嚙みつかれた腕を振りほどき思い切り殴り飛ばされる。

 すぐに立ち上がって追っていく男の方に気を取られたが、もし目の前の男に背を向ければ確実に攻撃を受けてしまう。

 殴られた部分を中心に鈍痛が響いてきており、しかしバンティは目の前の男をどうにかしかればならずに威嚇による唸り声をあげているしかなかった。

 一方リリーはラティムと共に森の中へ入る手前で背後から重い足音が鳴り響く。

 リリーは振り向くとそこには男の魔導アーマーの繋ぎ目の部分から青い光の線が走っており、重そうな見た目とは思えないほどの速度で迫ってきていた。


「!!」


 想像以上の速さで迫ってくる状況にリリーは思わず驚いたと同時に足を躓いてしまい、二人とも地面へと倒れてしまう。

 立ち上がろうとしたリリーの横にはすでに男がおり、魔導ガンの銃口をリリーの頭に向けていた。


「動くなよ嬢ちゃん。なーに、悪いようにはしないから少しだけ大人しくしてもらえるかな?」

「うぅ……」


 すると背後からバンティの悲鳴が聞こえるのを見て咄嗟にその方向に顔を向ける。

 そこにはバンティが魔導ガンの弾を避けきれずに被弾してしまい倒れている状況が目に入った。


「あっ……」

「さて、と。なんとかなったな……。ほら立ち上がれって」

「──ッ!!。や、やめて!」

「お嬢ちゃんいい子だからさぁ! 大人しく言うこと聞けよな!」

「いやっ!」


 周囲に助けてもらえる者はおらず、男はリリーの手を掴むと強引に立ち上がらせようとするがリリーはその手を少しでも引っ張って抵抗を試みる。

 だが子供の力ではどうしようもできず、逆に力強く引っ張られる腕に痛みが走るだけだった。


(おじいちゃん……!助けて……!)

「……!!」


 心の中で助けを求めたその時、倒れていたラティムは咄嗟に立ち上がるとそのままリリーの腕を掴んでいる男に体当たりをした。


「──っ!! あ……?」


 ラティムの不意打ちに男はグラりとよろけるが、倒れるまでにいたらず逆に男の怒りを買ってしまい、逆に魔導ガンで殴り飛ばされてしまうとそのまま地面に転がるとその光景にリリーは思わず言葉を失ってしまった。


「……!」

「このクソガキ! 状況が分かってねぇのか!? ぶっ殺すぞ!」

「……っ! ラティム!」

「おい早くこっち来てくれって! 片方のガキが暴れやがる!」

「そんなに怒鳴んなよ。今行くって」

「ったく。おいお前ら動くんじゃねぇぞ。変なことしようとしたらコレをぶっ放すからな?」

「……っ!」


 男はそういうと二人に向かって魔導ガンの銃口を向ける。

 二人に対して明確な殺意を突き付けられた瞬間、ラティムの意識はゆっくりと時間が流れ始めると走馬灯のようなものを見始めていた。

 

 それはラティムが暗闇から目を覚ますと一人の少女が目に映る光景だった。

 彼女はリリーと名乗るとラティムも彼女の行動を真似るように自分の名前を言った。

 なぜこの名前が出てきたのかは自分でもわからない。

 ただ心の中でこの名前とこの発音だけは喋ることはできたのだ。

 リリーという子はとても優しく、親切であり肌寒かったラティムに灰色のローブと食べる物を与えてくれた。

 ラティムにとって彼女はとても安心できる存在になっていったのを感じた。

 まだお腹が満たされず、足りなかったラティムは見様見真似で同じ食べ物をとったが、その時に痛い思いをした。

 なぜ自分がこんな目にあってるかわからず、心の中で黒い感情が広がっていきそうだった。

 だがリリーは自分のことを助けてくれると、自分に"いけないこと"というのを教えてくれた。乱暴なことをしたら乱暴なことで返されるということを知ると不思議と納得し黒い感情は消えていってた。

 次に大きい人が現れると彼らは自分たちに危害を加えはじめ、さらにリリーに乱暴をしようとした。

 ラティムはその光景を見てリリーを守るために反射的に飛びついたが簡単に返り討ちにされてしまう。

 先ほどよりも痛い思いをし、銃口から漂う殺意を向けられたラティムの中に再び黒い感情芽生え、それが一気に心を満たしていくのを感じ取っていた。


「うう……! ううああ!!」

「ラ、ラティム……?」

「な、なんだ……!?」


 ラティムが異様な雰囲気になったと同時に一人の男の懐からカタカタと激しい音が鳴り始めることに気が付く。


「た、探知機が……?」


 恐る恐るそれを取り出して見ると、探知機の矢印が引っ張られるように揺れており、それはラティムの方を示していた。

 ラティムの唸り声と共にその体が光始めていく。

 光始めたラティムの体は着ていたローブを破くほど徐々に大きくなり、さらに大きく変化していった。

 肌の部分は紫色の鱗が生え始め、腕は太くなり手も大きくなり爪も伸びる。

 背中からは羽が生え、顔は完全に別物になっていった。


「こ、こいつ……ドラゴンだったのか!?」

「じゃあこいつが例の……?」

「グアアア!!」


 その大きさは大の男一人以上であり、大きさだけでいったら巨大な樹木のようにも見える。

 それほどの変化を見せた一人の少年がドラゴンの姿となったそれは口から咆哮を上げた。

 力強い咆哮は木々を揺らし、それだけで男たちの体を畏縮させるのに十分であった。

 ドラゴンとなったラティムは力強く握りこぶしを作ると目の前の男を思い切り殴り飛ばした。


「ぐえっ!」


 まるで意趣返しするような、似たような仕草で殴り飛ばされた男は魔導アーマーを着込んでもその威力は凄まじく男は吹っ飛ばされて木に激突する。

 相方が倒されたことに驚いたもう一人はすぐに魔導ガンを構えてラティムに向けて発射した。


「くっそ!」

「危ない!」


 無数の青い弾がラティムの方へと発射されるとラティムはリリーを庇うように前に出るとそれを全身で逆に受け止め始める。

 リリーは攻撃を受けているラティムを心配そうに見たが、その青い弾はドラゴンとなったラティムの体には全く効いていないように見えた。


「なっ──、効かないのか!? ば、化け物がっ!!」


 男は魔導ガンが全く通用しないラティムに驚きを隠せなかったが、それでも一心不乱に引き金を引き続ける。

 巨大な体で青い弾丸を受け止めながら走って接近し、やがて目の前まで迫るとその巨体を使って思い切り体当たりした。


「うぐっ!」


 突き飛ばされた男は大きく吹っ飛ばされ、後方にあった木に激突する。

 その衝撃は魔導アーマーを着込んでも内に響いており、生身であればまず助からないほどであった。


「うぅ……」


 二人の男はまだ息はあるらしくそれを見たラティムは口から静かな唸り声を漏らしながらそれに近づこうとした、その時だった。


「ラティム……なの?」


 後ろから怯えるような声で自分の名前を呼ばれたことに気が付いたラティムは後ろを振り返る。

 そこにはラティムの変化とこの状況で未だに頭が追い付いていないリリーは恐る恐る目の前のドラゴンに本当にラティムであることなのかと尋ねたのだ。

 するとラティムがゆっくりとリリーの方に近づき、その大きくなった顔を彼女に寄せてきた。

 リリーはその口元に触れると、そこから流れる感情はたしかにラティムと同じであり、さらにそこから見える瞳はリリーが最初に出会ったラティムの瞳と同じなことに気が付くと、リリーは安心したのかホッと息を撫でおろしてそのままラティムに抱き着いたのだった。

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