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水天ヲ翔ル  作者: @EnjoyPug
161/161

161話 エピローグ

 帝国との戦争が終わって数週間が経った。

 戦いの混乱は少しずつ収まり、傷ついた人々は復興に向けて逞しく歩み始めていく。

 今回の戦争で三つの国のうち比較的被害の少なかったイースメイムは他の国々に魔術師を派遣させてインフラを整備するという前よりは比較的協力的になる変化がみられる。

 戦争の傷跡が最も深かったウエスメイムは特に酷かったがバスクトが異例の命で投獄されていたリグルトに復興の仕事を任せており監視の目もあるが彼もまたそれに力を注いでいっていた。

 指導者であった皇帝を失った帝国は仮の代表者との平和協定を結んだ。帝国の周辺にある鉱山などの資源は貴重なものばかりでありそれを担保にして国を立て直していくようであった。

 そしてエリウムはアディス島からドラゴンの移住先を作ると彼らの生活をサポートすることになり、ドラゴンとの交流という新しい変化も生まれていった。

 だが竜騎兵の壊滅、この戦争による各国の被害の復興、そしてドラゴンたちの為に使われる労力。それらを賄うために必要なものを聖竜教は欲していた。


「うーん……と、これでいいですか?」

「あらあらあら! とーっても綺麗よ! リリーちゃん!」


 ドラコレイク神殿でリリーはマナティーに手伝ってもらい、聖竜教の正装に着替えている。

 リリーはマルティナスから聖竜グローリーの力を受け継いでおりそれを聖竜教が逃すはずがない。

 新たな聖女としての象徴が欲しかった彼らはすぐにリリーたちにコンタクトを取ったが肝心のフレデリックはいつかそれに難を示していた。

 あくまでリリーたちの力は受け継いだものであり、正式に新たな聖竜が生まれることを予感していたからだ。

 謂わばリリーに与えられる聖女としての使命はその為の繋ぎに過ぎない。

 だがリリーはこの聖女の使命を受けることを了承した。

 そうすれば傷ついた人々が助かる道ということを知っていたからであり、それは亡きマルティナスも自分の立場にいたら同じことをしただろうと感じていたからだった。


「どう……ですか? これ」


 リリーはいつも着ていた古ぼけたローブから純白の柔らかい布で作られた特注の聖女のローブを身に纏うと体をクルリと回ってマナティーに見せていた。


「うんうんうん! その感想はねぇ~、別の人に聞いてもらったほうがいいかなぁ~?」

「うん……?」

「どうぞ~、入ってきてぇ~」


 マナティーが部屋の外に声を掛けるとその扉からゆっくりとラティムが顔を覗かせながら入っていく。

 ラティムもまた聖竜教の正装をしておりその恰好に少し窮屈そうな顔していたがリリーの姿を見た瞬間、体と表情が固まってしまった。


「どうラティム? 変じゃないかな?」

「…………」

「……ラティム?」

「うふふふふっ。 まぁまぁまぁ、今はね、言葉にできない感じらしいからまた後で聞きましょうね~。そろそろ聖竜教の生誕祭の時間だから、もう行かないと~」

「でもまさか、お姉さまと同じになるなんて夢にも思わなかったです」

「どうなるかなんて世の中わからないもんなのよね~。それじゃあ私は先にいってるから、二人も早く来るのよ~」


 マナティーは気を利かして微笑みながら部屋の外に出ると残されたそこにはリリーとラティムだけになる。

 相変わらずラティムは固まっておりその視線は彼女から少し離していた。

 そんな彼の様子を見て変に思いながらリリーはふとラティムを見て何かに気が付く。

 リリーはラティムに近づくと両手を彼の頬に挟んで目を合わせる、急にそんなことをした彼女にラティムの鼓動がどくんと跳ねる。

 この気持ちが何なのか今のラティムには分からない。そんな彼をリリーはしばらくジっと見つめていた。


「ラティム……」

「……!」

「もしかして……ちょっと背、伸びた?」

「……?」

「やっぱり……私よりも背が高くなってる! いつの間に成長したんだね!」

「…………」


 あの森で出会った時はほんの少しリリーのほうが背が高かったが、自分の手を頭の上に置き、そのまま水平に彼の頭に向かって動かすと若干だが追い抜ているのがわかった。

 ラティムの成長を見たリリーは嬉しくなり、そのまま手を彼の頭に置いて撫でる彼女の行動にラティムは少し気恥しそうになっていたが、当の本人は撫でることに夢中で気づいていない。

 やがて十分に撫で終えたリリーはそのままラティムの手を取ると部屋の外に向かって走った。


「さぁ、行こラティム! ここから大変だけど、頑張ろうね!」

「……!」


 少女と少年は手を繋げたまま部屋を飛び出すと暖かく照らされている廊下を走っていく。

 この先、どんな苦難が二人を待っていようとも今握っているこの手が離れなければ乗り越えられるという気持ちが溢れていた。

 二人にとってこの世界はとてつもなく広い。行く先は新たな時代であり、まだ見ぬ景色に向かっていったのだった。

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