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水天ヲ翔ル  作者: @EnjoyPug
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1話

 森に囲まれた小さな村の中に一つだけ他よりも少し大きい家から少女が勢いよくドアを開けて飛び出していく。

 年は十二から十三ほど体つきで少女の明るく水色の髪の毛が外に出たときに吹かれた風と太陽の日差しによってキラキラと光り輝いていた。


「いってきまーす!」


 家の中にいる主に大きな声をかけるとそこからゆっくりとした動きで少女の方へと近寄っていく。 

 その主は少女の祖父であり、質素な服装と蓄えた白い髭がよく似合う人物であった。


「これこれリリー。いつもの約束がまだだよ」


 リリーと呼ばれた少女は祖父の声に反応してその場に立ち止まるが足をせわしなく動かしている様子は今にも走り去ってしまいそうだった。


「えっと……。ご近所さんにちゃんと挨拶をする……。それでちゃんと日が暮れる前に家に帰ること……。後は森の奥に行かないこと、ですね!」

「そうそう。約束、ちゃーんと守るんだよ?それじゃあいってらっしゃい」

「はーい!」


 祖父の言葉にリリーは家よりも少しだけ先の場所に止まって指で輪っかを作るとそれを口に持っていく。

 ピィーという甲高い音を鳴らすとその口笛の音を聞いて遠くから茶色い影が走ってくる。

 それは狼よりも体格は大きくそれはリリーよりも大きい。

 それはバンティウルフと呼ばれたモンスターであるが、人にかなり慣れているようだ。

 そのモンスターはリリーのほうへと駆け寄ると彼女の周りをぐるぐると回って体を擦り付けていく。


「わはは! バンティちゃん! 今日も遊ぼうね!」


 バンティと呼ばれたそれをリリーはわしゃわしゃと体を撫でていく。

 一通りリリーに遊んでもらって満足したのかバンティは屈むとリリーはその背中に乗る。

 少女一人程度乗せたところで問題ないのか、バンティは軽々と起き上がり走り去っていった。

 時刻は朝の時間が終わり始めたころであり、村の人々が各々の仕事に取り組んでいる最中だった。


「こんにちわ!」

「やぁリリーちゃんこんにちわ!」

「こんにちわ!」

「お、こんにちわリリー嬢ちゃん。遊びに行くのかい?」

「はい!」

「今日も元気だねぇ。あんまりおじいちゃん心配させないようにね」


 村の中をバンティの背中に乗って駆けていく間に出会う村の大人たちに挨拶をする。

 村の大人たちは皆がリリーに優しく、挨拶をするリリーを見てにっこりと笑って返す。

 やがて村の丘に登る手前にある家までくると、そこに家の前を掃除している中年の女性にリリーは挨拶をした。


「こんにちわ!」

「ああリリーちゃんこんにちわ。今日も丘のほうに行くのかい?」

「はい! そこで遊んできます!」

「毎日飽きないねぇ……。その様子じゃ森の方にも行きそうだねぇ。その恰好じゃまた服汚れちまうよ。ちょっと待ってなさい」


 そういって女性は家の中へと入っていき、しばらくすると一つの灰色のローブを持ってきてリリーに着せてあげると笑顔で彼女の体を優しく叩いた。


「これなら少しやんちゃしても服汚れないですむね。どう? きつくない?」

「全然大丈夫です!」

「それはよかった。それじゃあいってらっしゃい!」

「ありがとうございます! いってきます!」


 灰色のローブを身にまとってリリーはバンティの背に乗って丘の上をかけていく。

 道中、丘から下る村の大人たちにも挨拶をしつつ登っていくとやがて天辺までたどり着いた。

 見上げれば空は青く、ちぎれた雲が爽やかな風に乗っており、時折それが耳元にも吹かれていく。

 村の周りに木々が囲むように生えており、そこには緑の絨毯が広がっている。

 丘の向こうには山々が静かに鎮座しており、その大きさは雄大であった。

 この村に住む人は質素で慎ましい生活をしていたが、皆がいつも通りであり幸せそうな場所なのを丘の上から見下ろしたリリーは感じた。


「それじゃあ行きましょうバンティちゃん! 森の探検へ!」


 首筋に生えているバンティの硬い毛をしっかりと掴んで、彼と共に森へと入っていく。

 森の中は丘の上とは違い、独特の雰囲気が漂っており太陽の光は木々の葉でところどころ遮られているため少し薄暗く、また気温が低い。

 森の中は獣道であるがバンティがうまく移動してくれているおかげで木の枝などに引っかからずスムーズに歩いていた。

 森の中を少し歩いていくとリリーたちが通った道から何か薄い靄が表れていく。

 その靄は意思を持っているような動きでゆっくりと静かにリリーに近づくと彼女の首筋をそっと撫でた。


「ひゃ!」


 リリーは急に冷たい感触が首筋に感じたことで反射的に体が跳ね、手をそこに置いて確認するがすでにそれが無いことを知るとすぐに後ろを振り返ったそこには半透明のローブのようなものをまとった生物が浮いていた。


「もう、驚かせないでよゴーストちゃん」


 ゴーストと呼ばれた幽霊型のモンスターはリリーの反応に満足しているのかクスクスと笑う仕草をしており、いたずらに成功したことがよほど嬉しかったのか他のゴーストたちも木々の合間から現れるとリリーを茶化すように周囲を漂っていた。

 リリーは頬を膨らませて少し不機嫌になったことを見せるとゴーストたちもその顔を見てさらに喜ぶ。

 ただリリーも本気で怒っているわけではなく、ゴーストというモンスターはいたずら好きであり、この子たちに悪意はないことをリリーも知っているための仕草だった。


「ゴーストちゃんね。今日も探検してるの。今日って何にもなかった?」


 リリーの質問にゴーストたちは顔を見合わせると一匹のゴーストが何かを伝えるためにリリーに近づく。

 リリーの耳元で囁くように話しかけると、どうやら森の中で珍しいことが起きているということだった。


「珍しいこと……?」


 ゴーストの言葉は曖昧でリリーにそれをあまり理解できなかったが、とにかく変化があったという漠然としたことだは知れる。

 リリーの住む村は時がゆっくりと流れるような、のどかな場所なのだが逆に言えばいつも変わり映えのない場所だった。

 それは平穏という言葉が似あう場所であったがリリーにとってそれは退屈であり、やることは森の中でモンスターたちと探検したり宝探しをしたりと一緒に遊ぶことだった。

 そして少しでも変化があると聞くと、それは退屈さを紛らわすスパイスであるためリリーの好奇心は段々と膨れ上がっていきそれを抑えることは幼いリリーにはまだ無理なことである。


「ゴーストちゃん! そこに案内して!」


 その言葉を待っていたといわんばかりのゴーストたちはふわふわと浮遊しながらリリーの先をふわふわと向かっていく。

 案内をしているゴーストたちの後ろを見ながらリリーの好奇心は今にも爆発しそうでそれは顔にも出てしまうほどだった。

 だがある程度まで歩いたところでリリーはハッとしてバンティの毛をギュっと掴んで歩みを止めさせる。

 急に強く掴まれたバンティは驚きながらリリーの方を見ると、リリーの表情は先ほどの楽しそうな顔から変わって不安げになっていた。


「この先って……」


 リリーの視点の先は普通の森の風景と全く変わらない景色だったが、リリーだけはその場所……というよりその先を直感的に知っている

 この先は祖父と約束した行ってはならない森の奥側のほうであり、以前リリーがもっと幼い時にこの付近を誤って迷ってしまった記憶があったのだ。

 どうしてそこに行ってしまったのかはリリー本人ですら、もう覚えていない。

 微かにある記憶にはこの先は霧によって視野が狭くなり、グルグルとその付近を迷っていた寂しさと、探してきてくれた祖父と村の大人たちの声による安堵感だった。

 村の大人たちはリリーが無事だったことに胸を撫でおろしたが、祖父だけは違ってリリーを強く怒ったのだ。

 いつもなら村の大人たち、特に祖父はリリーに対して優しく怒ることはほとんどなかったのにその祖父が怒った出来事はリリーが生きていて唯一といっていいほどであり、それがリリーの中である種のトラウマでもあるその記憶が森の奥側に近づくと自然とその出来事がフラッシュバックしてしまい、体が勝手に避けていた場所でもあったのだ。


「ゴーストちゃん……これ以上は行っちゃだめだって……おじいちゃんが……」


 不安そうな顔をするリリーにバンティは静かに見守ったが周囲のゴーストたちはそのことを気にせずリリーの耳元で言葉を放つ。

 この先にある物に森の皆が興味がある。

 だから森の皆はそこにいってここにはいない。

 それを見てすぐ帰れば大丈夫。

 今なら皆やってるから大丈夫。


 ゴーストの囁きは甘く、それはリリーの膨らんでいた好奇心をさらに刺激するのに十分なほどであった。

 その好奇心はやがて過去のトラウマをも大きくなってしまい、リリーちょっとだけならという気持ちでその先へとバンティに進ませていった。


(すぐに戻れば……大丈夫だよね?)


 そう心で呟き続けていると昔のように霧が濃くなっていく。

 それでもゴーストたちの案内によって道に迷うことなく進んでいった。

 やがて木々からは妖精型のモンスターであるフェアリーが小さな体に生えた羽をパタパタと鱗粉を撒きながら飛び回っている。

 臆病な彼女たちもどうやらこの先にある物が気になっているようだった。

 やがてその場所へと辿り着くと一つの大きく開いた場所へと出る。

 そこには土が盛り上がって植物が生えているその根元に体は木で出来ており頭に葉っぱが生い茂っている植物型の小さなモンスターであるトレントたちが囲んでおりリリーが到着すると彼女の姿を見たトレントたちがこれを見てほしいといわんばかりに蔓の手をその物の方向へと伸ばしてくれる。

 リリーがその方向を見ると、一人の少年が静かに横たわっていたのだった。

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