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言い訳

作者: 斎藤 静

夢から覚める

しかし、目はあけない。天井を見たくない。

今日が来たということを認識してしまうから。

でも、そんな悪あがきも虚しく、時計は音を鳴らす。

その音は自分のことをひどく焦らせる。

まるで自分が世間からおいて行かれてるような感覚だ。

こんなことならデジタルに変えておくべきだったと考えてももう遅い。


しばらくして目をあけて、ベットに横になりながら時刻を確認した。

外は明るく、時計の針は7時をさしていた。

普段なら学校にいく準備を始めなければならない時間であるが、僕がしたのは二度寝の準備であった。

学校へは五日ほど前からいっていない。

最初は、普通に体調が悪いという理由で休んでいたのだが、一昨日位からは惰性で行っていない。

いじめを受けた、暴力を受けただの、立派な言い訳があったのならもっと気楽に休めたのだろうが、そんな理由はない。

普通に友達もいるし、極端に成績が悪いわけでもない。

ただ、なんとなく行きたくないのだ。


しばらくして、二度寝に失敗したことを悟った僕は、リビングに行き、お茶を飲んだ。

体はとても体調不良とは言えず、快調とまではいかないが普通に学校に行けるぐらいだった。

ここ二日間は自分に体調不良という言い訳をすることができたから、世間からの孤立という尋常でないほどの恐怖をなんとか耐えることができた。

言い訳を失った僕は、学校に行くという恐怖と学校に行かないという恐怖に挟まれて動けなくなった。

この二つは天秤に乗せても決して図れるものではなく、シーソーに乗せても並行を維持してしまうだろう。

ただ、一つわかることは、この二つの恐怖はどちらも時間がたつにつれてどんどんと大きくなっていって、どうしようもなくなってしまうということだ。

現在の時刻は午前7時半である。


どうしようもないため、ベットでゴロゴロしながらスマホを見る。

現実逃避のための最も優秀な機械であるスマホで私は、不登校の基準について調べていた。

調べてみると

「何らかの心理的、情緒的、身体的あるいは社会的要因・背景により、登校しないあるいはしたくともできない状況にあるために年間30日以上欠席した者のうち、病気や経済的な理由による者を除いたもの」

という風に書かれていた。

これを見て少し安心した。

僕が休んだのは五日間で、体調不良の期間を除けばせいぜい三日程度で、僕は全く当てはまらなかった。

しかし、これがただの現実逃避であることは自分が一番よく理解していた。

今の状態の自分が不登校予備軍であるのは明白であり、この状況を嫌悪しているから。


無から言い訳を作る。

これが最も合理的な結論であるように思えた。

思い立ったが吉日という言葉の通り、僕は横になりながら、床の端に手を伸ばして、埃をとって、それを食った。

未来の自分が過去を想起するとなったとき、間違いなくこの行為を疎ましいと思うことはわかっていたが、恐怖から逃れるためにはこれしかなかった。

次第に腹が痛くなったような気がした。

結果、気がしただけだった。

人間としての尊厳と引き換えに得たものはなにもなかった。

現在の時刻は7時50分である。


「学校に行こう」

口に出していってみると、とても簡単なことに思えた。

もう朝ご飯を食べる時間はないので、とりあえず制服に着替えてみた。

思っていたよりもその抵抗は少なく、今まで自分が感じていた恐怖はなんだったのだろうかというほどだった。

この調子でいけば学校まで行けそうだ。

通学カバンを準備して、スマホを一度確認した。

通知は何もなく、電源を落とそうとした時、ホーム画面に


 午前8時10分 土曜日

と書いてあった


僕は制服を脱いで眠りについた。

不思議と清々しいのは言い訳が見つかったからなのだろうか。










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