とある日記
「まずい!沈む!」
【打ち付ける雨粒が、船の中を満たして行く。海上の旅のお供には、常に死の予感がついている。我らにとって、嵐など慣れきったものだ。だが、もうここで終わりかもしれない。
豪雨の中での光は、触れると死んでしまう。
海をさ迷った末、半分の人数になってたどり着いた巨大な島。
甘やかな香りを放つ果実に、咲き誇る美しい花々。
太陽を受ける清らかな湖には、オーロラの鱗が煌めいている。空には鳥が羽ばたいて、その歌声は私たちを包み込むようであった。
私達はただ立ち尽くした。その時は、ここは楽園で、もう既に死んでいるのだと、本気でそう思っていた。
私達はこの島を、神タルフィーネの庭「タルデ」と呼ぶようになった。
タルデにたどり着いて1週間、私達は帰る方法を模索していた。故郷には家族や友人、恋人が待っている。自分が生きているのかさえ分からない。ただ縋り付いた。
「この島のことを王に報告すれば、たくさんの褒美を貰えるだろう。」
「船長には、爵位なんかくれたりして!」
「さすがにねーよ!」
そんな馬鹿なこと言い合って、お互いを保っていた。
タルデにたどり着いて2週間がたった頃、船の材料を探しに島の奥まで入り込んでいた者が、奇妙な建造物を見つけた。
それは黄金でできていた。輝きで目を傷めるほどだ。中に入ってみると、たくさんの何か、物体が転がっている。どういうものなのか全く想像がつかなかったが、丁寧にデザインされた外見から人工物であることはわかった。
中央の壁に張り付いて、祭壇のようなものが置かれている。それにはとても緻密に模様が掘られていた。規則性があるようだ。その祭壇を囲うように太陽の光が差し込む。上を見ると、その部分だけ天井が無かった。周りが金なことも相まって、神聖さとはまた違う、排他的な雰囲気に満ちていた。
それからさらに2週間経ち、ついに船の修復に成功した。
1人があの謎の人工物を王に献上しようと提案した。私は正直嫌だった。あそこの空気は重く苦しい。私達を拒んでいるようだ。しかし、もし故郷へたどり着けて、タルデを国に報告したとて、到底信じて貰えないだろう。夢のようなこの島は、現実とは思えない。
ある程度積み終え、船を出す準備ができた。ここは美しい島だった。ここが我が国の領地となったら、冒険はもう辞めて、島へと本土を繋ぐ船乗りになるのも悪くないかもしれない。
船が出航し………】
―――世界に厄災が生まれた。
ある日消息を絶った船団。その2年後の厄災が生まれた日、彼らの故郷に空っぽの母船が漂着した。その船はまるで1から作り直されたかのように不自然に綺麗で、中にはたった1つ、航海士の日記があるのみ。途中で途切れているその日記には、『タルデ』という神の島の存在が記されている。
そこで彼らは禁忌を犯した。厄災は全て、彼らが邪神を呼び覚ましたことが原因だ。
そんなことが囁かれるようになった。