なんもはじまんない『ツルの恩返し』
むかしむかし、あるところに・・・
1羽のツルがおりました。
ある日のことです。
ツルはひと休みしようと浜辺に降り立ちました。
すると・・・
*若者1*「ウェーイ!」
*若者1*「でっかいトリがいるぜ、ウェーイ!」
*若者2*「ヒュウ!」
*若者2*「このトリは間違いなく不死鳥だぜ、ヒュウ!」
*若者3*「ヤッベ!」
*若者3*「伝説のヤツじゃん! マジヤッベ!」
ツルは、やっかいな若者たちに絡まれてしまいました。
*ツル*「あ、あの・・・不死鳥じゃ、なくて・・・ツル・・・です・・・」
ツルはか細い声で言います。
ツルの性格はひかえめで臆病な引っ込み思案。
迷惑だと感じながらも、やっかいな若者たちに対して強く出ることができません。
*ツル*(うぅ・・・やっぱり人里は怖いところ・・・)
*ツル*(私なんかが来ていい場所じゃなかったんだぁ!)
ツルの目に涙が浮かびます。
そんなときでした。
*青年*「なにやっとんだ、キサマらァアアアアアア!!」
つりざおを持った青年が、鬼の形相で駆けよってきます。
*若者1*「ウェーイ!?」
*若者1*「あれは・・・浦島太郎!?」
*若者2*「ヒュウ!?」
*若者2*「逃げろ! 絶滅させられんぞ!」
*若者3*「ヤッベ!? マジヤッベ!?」
それを見たやっかいな若者たちは、しっぽを巻いて逃げていきました。
*青年*「ツルは絶滅の危機からは脱したものの、
まだ油断のできないデリケートな存在だってのに・・・」
青年はポキポキと指を鳴らしました。
*青年*「まったく・・・いつも人間だけだな・・・」
*青年*「俺を本気で怒らせるのは・・・!」
彼は浦島太郎。
優しさゆえに、過激なバイオレンスに走るところのある青年です。
*ツル*「あ、あの・・・」
ツルは浦島太郎にお礼を言おうとしました。
しかし・・・
ひかえめで臆病な引っ込み思案がたたって、なかなか言葉が出てきません。
*浦島太郎*「あんたも・・・あんなカスどもの相手はするな」
*浦島太郎*「絶滅したくなければな」
それだけ言い残し、浦島太郎はクールに去っていきました。
*ツル*(か、かっこいい・・・!)
浦島太郎のぶっきらぼうな優しさに、ツルはたちまち心を奪われてしまいました。
そう、恋はいつでも突然。
井戸のつるべのようにストンッと落ちるものなのです。ツルだけに。
ツルは思いました。
また浦島太郎と話したい。
そして今度こそ、助けてもらったお礼を言いたい。
*ツル*(でも・・・今の私のままじゃ・・・)
*ツル*(無理、ですよね・・・?)
◆◆◆◆◆
後日・・・
ツルはひかえめで臆病なっ込み思案を克服するべく・・・
美容院をおとずれました。
*ツル*(いきなり内面を変えるのは難しいですからね・・・)
*ツル*(だったら、まずは外側から・・・)
*ツル*(見た目から変えてみましょう!)
*カニ*「お客さん、今日はどういたしましょうか?」
*ツル*「あ、あの・・・えっと・・・」
ツルは口ごもってしまいます。
美容院での会話は、
服屋で店員に声をかけられるのと同じくらいツルが苦手としていることでした。
とはいえ、なにもしゃべらないわけにもいきません。
それにツルは決めたのです。
浦島太郎のために変わるのだと。
そして、今度こそお礼を言うのだと。
*ツル*「じ、自分に・・・自信の持てる・・・
そんな髪型に・・・して、ください・・・!」
ツルのしぼり出した言葉にカニはうなずきました。
*カニ*「たしカニ」
*カニ*「自己肯定・・・」
*カニ*「生きていく上でこれ以上に大事なこともないでしょう」
*カニ*「そのために見た目を変えることも一つの手です」
*カニ*「ですが、忘れないでください」
*カニ*「ボクにできるのは、ちょっとした後押しだけ」
*カニ*「本当に変われるかどうかは、あなた次第です」
そう言って、カニはチョキチョキとはさみを動かすと・・・
なんと!
ツルは、とても美しい人間の女性に変わっていました。
*ツル*「これが・・・わたし・・・?」
それはカットだとか、アレンジだとか・・
・そんなチャチなもんではありませんでした。
まさに神のごとき所業。もといカニの所業です。
*ツル*(でも、浦島太郎さんと同じ人間の姿なら!)
◆◆◆◆◆
*ツル*(浦島太郎さん、どこにいるんだろう・・・?)
美容院を後にしたツルは、浜辺をさがして歩いていました。
すると・・・
*若者1*「ウェーイ!」
*若者1*「お嬢さーん、俺たちとウェーイしないかウェーイ?」
*若者2*「ヒュウ!」
*若者2*「超のつくベッピンさんだぜ、ヒュウ!」
*若者3*「ヤッベ! マジヤッベ!」
またもや、やっかいな若者たちに絡まれてしまいました。
*ツル*(でも、大丈夫・・・!)
*ツル*(今の私ならきっと・・・!)
ツルは勇気をふりしぼって口をひらきます。
*ツル*「あ・・・えっと・・・」
しかし・・・
どれだけ外見が変わろうと、やはり中身まではすぐには変わりません。
*ツル*(うぅ・・・やっぱり私じゃダメなんだ・・・!)
ツルの目に涙があふれてきます。
そんなときでした。
*浦島太郎*「なにやっとんだ、キサマらァアアアアアア!!」
つりざおを持った青年・・・浦島太郎が鬼の形相であらわれました。
*若者1*「ウェーイ!? またかよ!?」
*若者2*「ヒュウ!? 俺たち、あいつに目つけられてる!?」
*若者3*「ヤッベ!? マジヤッベ!?」
やっかいな若者たちはしっぽを巻いて逃げていきます。
*ツル*(浦島太郎さん・・・!)
*ツル*(また、助けてくれた・・・!)
トクン、とツルの胸の鼓動が高まります。
*ツル*(そうだ・・・お礼・・・!)
*ツル*(今度こそお礼を言わないと・・・)
*ツル*(二度も助けていただきありがとうございました・・・で、大丈夫かな?)
*ツル*(・・・って、そうだ!)
*ツル*(今の私は人間の姿だから、
私があの時のツルだってわかんないよね・・・)
*ツル*(じゃあ初対面ってことにした方がいいのかな?)
*ツル*(その方が自然だよね・・・うん・・・)
そんな具合に、ツルがどうお礼を言ったものか悩んでいると・・・
浦島太郎が言いました。
*浦島太郎*「またお前か・・・」
*浦島太郎*「あんなカスどもの相手をするな、と言ったはずだぞ」
*ツル*「え・・・?」
なんということでしょうか!
浦島太郎は、人間の姿のツルを見て、
一目であのときのツルだと見抜いていました。
気づいてもらえて嬉しい反面・・・ツルの頭の中は真っ白になってしまいます。
*浦島太郎*「・・・まあいい」
*浦島太郎*「次こそは気をつけろよ」
*浦島太郎*「絶滅したくなければな」
そう言って浦島太郎はまた、クールに立ち去っていきます。
*ツル*「あ・・・待っ・・・」
遠ざかる浦島太郎の背中にツルは手を伸ばしました。
*ツル*(また、だ・・・)
*ツル*(また私は・・・なにも言えないまま・・・)
ツルの目から涙がこぼれ落ちます。
そのとき!
*浦島太郎*「おい、あんた」
*ツル*「・・・え?」
ツルが顔を上げると、そこには浦島太郎の姿がありました。
どういうわけかツルのもとへ引き返してきたようです。
*ツル*「ど、どうして・・・?」
*浦島太郎*「いや、その・・・」
*浦島太郎*「どうしても気になることがあってな・・・」
浦島太郎はポリポリと頭をかくと、ツルの頭を指さしました。
*浦島太郎*「あんた・・・ついてるぞ?」
*ツル*「え・・・?」
ツルが自分の頭にふれると・・・。
ピリッと辛いしょうゆ味の柿の種が、ぺっとりとついていました。
*ツル*(な、なんで私の頭に柿の種が・・・?)
*ツル*(もしかして・・・カニさんが・・・?)
*ツル*(でも・・・な、なんで・・・?)
しかし、そのおかげで・・・
再びお礼を言うチャンスがめぐってきたことに違いありません。
*浦島太郎*「言おうかどうか迷ったんだけどよ・・・」
*浦島太郎*「やっぱり言うべきことは、ちゃんと言った方がいいと思ってな」
*ツル*「あ・・・」
柿の種がつないでくれたチャンス。
そして、ツルを後押しするような浦島太郎の意図せぬ言葉に・・・
ツルは今度こそ、勇気をふりしぼって口をひらきました。
*ツル*「う、浦島太郎さん・・・」
*ツル*「助けていただき・・・ほ、本当に・・・」
*ツル*「あ、ありがとう・・・ご、ございました・・・!」
*ツル*(言えた・・・ッ!)
ツルは心の中でバンザイをします。
*ツル*(やったー!)
*ツル*(ばんざいばんざいばんざーい!!)
*浦島太郎*「・・・大げさだな」
*浦島太郎*「俺は柿の種がついてるのを教えてやっただけだぞ?」
*ツル*「あ、いえ・・・」
*ツル*「そのことだけでは、なくて・・・ですね・・・」
*浦島太郎*「まあ、そうだな・・・」
*浦島太郎*「柿の種がついたままじゃ、せっかくのキレイな羽が台無しだもんな」
*ツル*「え・・・き、キレイ・・・!?」
*ツル*「わ、わたしが・・・?」
*ツル*「や・・・やだ・・・浦島太郎さんったら・・・」
浦島太郎のセリフに、ツルの顔は真っ赤になってしまいました。
この物語は、なんもはじまんない『ツルの恩返し』。
しかし、この二人の関係がはじまることだけは・・・
誰にも止めることはできないのでしたとさ。
めでたしめでたし。
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