表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/16

第八話 vs魔王

 闘技場。ここはまだ観客の熱気で溢れていた。おそらく、試合は続行されると踏んで帰らなかったのだろう。


 私は控室の隅で悩んでいた。

 魔王になれば、領地経営や他国の魔王とのやりとりに忙殺される。そうなれば、マリア様のような料理人になるという私の夢も叶わなくなる。何より、魔王になるというのはセレナの夢である。魔王に覚醒したからといって、友達の夢を奪うほど私はひとでなしではない。


 だが、問題は規則である。私が魔王を名乗ったのはママの言いつけを守ったからで、現魔王に挑戦する気など微塵もなかった。しかし、規則はそんな事情など関係ないらしく、容赦なく私に難問を突きつける。


 こうなったら、ワザと負けるしかない。そう決心して、私はステータスを開いた。



【ステータス】

 種族:上位魔族、吸血鬼(ヴァンパイア)

 体力:2058

 魔力:556

 魔素:58

 魔法:火、水、風、土、闇


【スキル】

 魔王スキル:魔眼(解析、暗視、魔王の威圧)、高速飛行、魔素操作、悪魔召喚

 吸血鬼(ヴァンパイア)スキル:吸血回復、血液操作、魔物契約、従魔召喚、超音波



 ステータスを見て思い出す。私はヴァンパイアになったのだと。魔族が魔王となると種族が一つ増え、上位魔族となるらしい。

 ヴァンパイアとは、魔界に昔住んでいたと言われる一族である。現在は絶滅してしまって、生き残りはいないと思われていた。しかし、人間界での修行中に私は魔王となりヴァンパイアとなった。なぜヴァンパイアとなったのか、その理由までは分からない。


 それはともかく、この試合を乗り切らなければならない。私は静かに闘技会場へ向かった。




 闘技会場にはすでに魔王様もいた。試合前だが解析させてもらおう。



【ステータス】

 種族:上位魔族、巨人(ジャイアント)

 体力:3529

 魔力:3398

 魔素:4666

 魔法:火、水、風、土、闇


【スキル】

 魔王スキル:魔眼(解析、暗視、魔王の威圧)、高速飛行、魔素操作、悪魔召喚

 巨人(ジャイアント)スキル:剛腕、魔力上昇、気合回復



 魔王様はジャイアントなのか。どうりで背が高いわけだ。


「きさま。我のステータスを見ておるな」


 バレた。違反だったか?


「別に構わん。我もきさまのステータスを見ておる。……なるほど、きさまはヴァンパイアか、珍しいな。だが魔力と魔素が極端に低い。そんなんで戦えるのか?」


 おそらく挑発しているのだろう。しかし、私にはどうでも良かった。どうせ負けるのだ。


「よもやきさま、ワザと負けようなどとは思ってなかろうな」


 さすがは魔王様。戦闘相手のことなどお見通しか。


「やめておけ。本気で戦わぬと死ぬぞ」


 それは嫌だ。私にもまだやり残したことはある。なら、勝たない程度に少し本気を出そう。


 そう思い直し、無限収納袋から包丁を取り出す。


「包丁か、変わった武器だな。まぁいい。試合を始めよう」


 魔王様はそう言うと、杖を召喚して魔法を放つ。


「【魔弾(まだん)】」


 放たれた闇魔法の弾は、超スピードで私の脇を通り過ぎ、闘技場を破壊する。破壊された闘技場の壁には穴が空き、外が丸見えだ。


「どうした、怖くなったか? 今のは単なるデモンストレーションだが」


 怖くはない。しかし、私には使えない魔法だ。魔素量が足りない。闇魔法を使うには、魔素が必要だ。普通の魔族は魔素を持たないので、闇魔法を使うことはできない。


 私は包丁を構える。


「では、こちらからも行かせてもらうわよ」


 そう挑発し、包丁を横に振る。


「料理剣技【半切り】」


 すると包丁から斬撃が発生し、魔王様の上を通り過ぎて闘技場を破壊する。破壊された闘技場は、これまた外が丸見えだ。


「ほう。なかなかの威力だ」


 魔王様が感心する。その隙にすかさず攻撃する。


「料理剣技【半切り】」


 今度は魔王様に直撃した。しかし、魔王様は無傷だった。まぁ、バリアくらい張ってるよね。


「今度は我の番だな。【隕石(メテオ)魔弾】」


 魔王様が杖を掲げて詠唱する。すると、巨大な隕石のような魔弾が闘技場に迫ってきた。いくら結界があるからって、観客が危険だ。


 私は包丁を構える。


「料理剣技【角切り】」


 百✕百のマス目のような斬撃を飛ばした。私の攻撃で、魔弾が細かく割れて消える。


「すばらしい。観客を守る力があるか」


 魔王様は私を試したのか。


「どうした。そんなんじゃ我を倒せんぞ」


 魔王様の言葉の直後、腹に大きな衝撃があった。私は思いっきりふっ飛ばされた。速い。気づくと、魔王様が剛腕で殴っていた。


「続けていくぞ!」


 今度は連続攻撃。一秒に五発の速度でパンチが飛んでくる。


「ぐああっ!」


 ようやく攻撃が止む。しかし、全身血だらけだ。こんな経験はしたことがない。たしかに本気で戦わなければ死ぬ。すでにあばらのニ、三本は折れている。


 私は気合で立ち上がり、魔王様を睨みつける。


「ほう。まだ立てるのか」


 もう右腕も上がらない。包丁を振ることもできない。しかし、私にはもう一つ武器がある。


吸血鬼(ヴァンパイア)スキル、【血液拘束(ブラッディバインド)】」


 すると、私の体から流れ出た血液が魔王様を取り囲み拘束する。自らの血液を自由自在に操るスキル、血液操作だ。これを使いすぎると、貧血になってしまうのが難点なのだが。


 これで魔王様は動けない。今のうちに回復しよう。そう思ったとき。


「これで勝ったつもりか?」


 そう言うと、魔王様は怪力でブラッディバインドを破った。ジャイアントスキル剛腕か。


 魔王様は回復する暇も与えてくれない。次に剛腕で攻撃されれば、間違いなく死ぬ。


「これで終わりだ」


 魔王様が迫って来る。


「【剛腕パンチ】」


 ドーンという爆音と共に砂煙が舞う。終わった、と思った。しかし私は無事だった。目を開けると、私の周りにバリアが張られていた。


 何が起こったの?


 砂煙が収まりよく見ると、私を囲むようにセレナとエミリー、エルフ姉妹がいた。


「何だ、きさまらは」

「サーレちゃんの仲間だよ」


 魔王様の質問にセレナが答える。


「この試合は魔王決定戦だ。セレナ達は下がっていろ!」

「下がらないよ。だってあたし達はサーレちゃんの仲間だもん。仲間を助けるのは当然でしょ?」


 それは屁理屈でしょ。でもその屁理屈が今はとても助かる。


「エミリーちゃん、治癒は頼むよ」

「は……はい!」

「エルフ姉妹はそのままバリアを」

「はい、なのです」


 セレナが次々に指示を出す。私はセレナのそんな姿に将来の魔王を垣間見た気がした。


「あたしはお父様を足止めする」

「お前にできるものかセレナよ」

「分からない。だけど、足止めぐらいしてみせる。【地獄の業火(ヘル・フレイム)】」


 セレナの詠唱と共に、黒い炎が魔王様を包み込む。バリアのおかげか、爆風には巻き込まれずにすんだ。


 やがて爆風が収まる。するとそこにいたのは、多少怪我をした魔王様だった。究極魔法にも耐える魔王様って。


「そんなものか、セレナ」


 魔王様は杖を構える。嫌な予感がした。


「セレナ、逃げて!」


 私は叫ぶがセレナは逃げない。


「ここで逃げたら友達失格でしょ」


 セレナはそう言うと、魔王様に立ち向かう。


「【闇の咆哮(ダーク・キャノン)】」


 ものすごい魔素を含んだ闇魔法が、レーザーのようにセレナに向かう。レーザーは、激しい爆音と共にセレナに直撃した。


「セレナーーー!」


 セレナがやられた。そう思ったが、セレナは立っていた。しかし、かろうじてという感じだった。


「エミリーちゃん、治癒は?」


 弱々しい声でセレナが問う。


「う……うん。終わったよ」


 体力が回復した。こんな短時間で治癒できるエミリーはすごい。


 四人が守ってくれた、力を貸してくれた。これじゃ負けられなくなるじゃない。


 私は無限収納袋から、赤い包丁を取り出す。


「皆ありがとう。最後は私が魔王様を倒す!」


 私の言葉に頷いた後、四人は退場した。


「きさまに我を倒せるものか」


 魔王様はうすら笑い、詠唱する。


「これで最後だ。【闇の咆哮(ダーク・キャノン)】」

「行け。【不死鳥切り(フェニックス・カット)】」


 私が放った赤い斬撃は、巨大な不死鳥の姿になりダーク・キャノンに襲い掛かる。互いの力が拮抗する。


「行けーーー!!」


 私が気合を入れると、不死鳥はダーク・キャノンを飲み込み魔王様を襲う。


「何だと!」


 この試合一番の爆音と爆風が吹き荒れた。勝った。そう思ったが、魔王様は立っていた。


「うそ……」


 負けた。もう動けない。負けを宣言しようかと思ったとき、高笑いが聞こえてきた。


「くあーっはっはっは。我の攻撃を押し返すか。これは我の負けだな」


 魔王様が負けを宣言した。勝った……のか?


 試合会場に歓声が渦巻く。セレナとエミリー、エルフ姉妹は私に駆け寄りハグした。


「やったね、サーレちゃん」


 安堵した瞬間、涙が溢れ落ちる。


 次の瞬間、背中に鋭い痛みが走り、私は意識を失った。闘技場の歓声が遠のくのを感じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ