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第七話 第三試合 -セレナ-

 午前十一時五十分。


「セレナ様。あと十分で出番でございます」


 係の者が出番を告げる。


「はーい」


 返事をしたあとに気がついた。試合に夢中で忘れていて、気づいたときには第二試合が終了した後だった。もう少し時間を稼げるかと思ったが、先の二試合があっけなく短時間で終了してしまった。


「サーレちゃん……」


 あたしはそう呟いて、闘技会場へ向かった。


 正午。試合開始時刻。


 学園長はちらりとあたしを見てから、サーレちゃんの不在を確認する。


「定刻となったが、サーレがまだ来ていないな」


 学園長の言葉に、客席がざわつく。


「サーレって、あの赤髪だろ?」

「あの呪われた子か」

「さっさと失格にしちまえば良いのに」


 気づけば、闘技場中が不戦勝コールで渦巻いていた。


「皆さん、静かに」


 観客にはもはや学園長の声は届いていない。


「セレナ様。如何いたしましょう?」


 頭を抱えた学園長が、あたしに助けを求めてきた。


「もう少し待って。サーレちゃんは必ず来るはずだから」

「では、午後十二時十分まで待ちましょう」


 やった。猶予をもらえた。サーレちゃんが敵前逃亡するはずはない。それは、友達のあたしが良く知っている。サーレちゃんは必ず来る。そう思っていた。



 ……あと三十秒。サーレちゃんの姿は見えない。


「……あと十秒、九、八、七」


 カウントダウンが始まった。サーレちゃんはついに間に合わなかったのだ。あたしはサーレちゃんと闘うことはできなかった。そう思ったその時。


「ちょっと待ってください!」


 甲高くかわいいこの声は、サーレちゃんだ。しかし、声の発生元が分からなかった。闘技会場の入退門にはいなかったからだ。


 キョロキョロと探していると、上空に人影が見えた。逆光で良く見えない。光をなるべく遮るように手をかざしてよく見ると、それはサーレちゃんだった。


 降りてきたサーレちゃんを見て驚いた。その姿が変わっていたからだ。角が大きくなり、羽が生え、先端がハート型の尻尾まである。あたしはその姿に見覚えがあった。


「お待たせしたわね。()()()()()、ただいま戻ったわよ」


 やっぱり。サーレちゃんの姿は、お父様そっくりだった。サーレちゃんは、人間界での修行の果てに魔王に覚醒したのだ。観客はさぞ驚くだろうと思ったが、反応が違った。


「魔王だと? 何をふざけているんだ」

「そうだそうだ。遅れて来たくせに。お前なんか失格だ」

「魔王様を名乗るとは不届き者め」


 観客は、サーレちゃんの姿は偽物だと思っている。サーレちゃんはそんな小細工する子じゃない。しかし観客の罵倒は収まらず、ついには物まで投げ出した。


「物を投げるのはやめなさい!」


 学園長の静止も功を奏すことはなく、(ゴミ)は投げ続けられた。このままでは、試合をすることはできない。


「皆、静かにして。試合が始められないわ!!」


 サーレちゃんの言葉とともに、観客の動きが止まった。いや、止められたといった方が正確だろうか。これは魔王のスキル、【魔王の威圧】だ。観客はサーレちゃんの威圧によって動けなくなったのだ。


「待て。試合は中止だ!」


 突然、重低音の声が闘技場を支配した。お父様だ。


「サーレよ、我が城に来い。セレナもだ」


 お父様の命令により、試合は中止となった。




 エストピア魔王城。あたしの実家だ。しかし、今日は城中の雰囲気が重かった。お父様の機嫌が城中の空気を変える。そんなことは今でもあったのだが、今日はいつものそれとは違う感じがした。


 会議室に呼ばれたあたしとサーレちゃんは、多くの重鎮が見守る中お父様の尋問を受けていた。


「お前達は友達だそうだな。セレナはサーレの魔王覚醒については知っておったのか?」

「いいえ。知らなかったよ」


 あたしは正直に答える。お父様には嘘は通じないからだ。


「サーレよ。お前はどこで魔王となった?」

「人間界よ」


 会議室がざわつく。


「そうか。お前は観客の前で魔王だと名乗っただろう。その意味は理解しているのだろうな」


 サーレちゃんは、ハテナの顔を浮かべている。


「何かまずかった?」


 あたしを見ながら尋ねるサーレちゃんに、お父様が答える。


「知らなかったのか? サーレよ。魔王は、領土を持たねばならない。そして、今現在、誰の魔王の物でもない領土は無い。つまり、新たな魔王が自らを魔王と名乗ったならば、それはその国の魔王に対する挑戦となるのだよ」


 そうなのだ。魔王は必ず一つの領土を持つ。もし新たな魔王が現れたら、現魔王との戦いとなり、負けた方は魔王を名乗ることはできなくなる。反対に、新たな魔王が勝ったなら、その魔王は領土を手に入れ、今後も魔王として君臨できる。


「そ、そんなの聞いてないわよ。私は料理人だし、今後も料理人としてやっていきたいもの」


 サーレちゃんは驚きの表情を見せている。本当に知らなかったようだ。


「でも、魔王を名乗っちゃったでしょ?」

「それはそうだけど……」


 頭を抱えるサーレちゃんを、あたしは励ますように肩を叩く。


「こうなっては仕方がない。規則は規則だ。サーレよ、闘技場で我と戦闘だ。今度は『魔王決定戦』と名前を変えるがな」


 まさかこんなことになるなんて。あたしと闘うはずが、お父様と戦うことになってしまった。


 あたしはどっちを応援すべきか。お母様に相談することにしよう。

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