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第五話 卒業試験開始 -セレナ-

 一年後、卒業試験当日。


 サーレちゃんはまだ来ない。


「セレナ様。サーレちゃんはどうしたのです?」


 教室の机に突っ伏していたあたしに、アリスが話しかけて来た。


「サーレちゃんは、まだ来てないよ。でも、心配いらないと思う。すぐに来るよ」


 そう言ってはみたものの、内心は不安だった。


 一年前、サーレちゃんはお母さんと人間界へ修行に行ってしまった。唐突な話にあたしは必死に引き止めたが、サーレちゃんの決意は固かった。


 あたしとエミリーちゃんは、サーレパパと修行した。なんでも、元は腕利きの魔法使い冒険者だったらしい。


 修行は過酷だった。サーレパパの修行は厳しいわけではなかったが、その反面、失敗の原因も教えてくれなかった。にこやかな笑顔で「さぁ、もう一度です」で済まされた。同じ魔法を何百回放ったことか。おかげで、究極魔法を覚えられたことには感謝している。


 思いを巡らせていると、教室後方から声が聞こえて来た。


「サーレのヤツ、逃げたんじゃねーのか?」

「だと思う」

「魔力が少ないからね。勝てないと思って逃げたと見て間違いないでしょう」


 男三人衆だ。好き勝手なことを言っている。


「あんた達勝手なことを言わないで!」


 あたしは叫んだ。まったく男子は。


「おい、何やってる。席に着け」


 野太い声が教室中に響き渡る。いつのまにか学園長が来ていたらしい。クラス中の皆が一斉に席に着く。


「まだ一人来ていないようだが……」


 学園長はサーレちゃんの席をちらりと見てから続ける。


「まぁいい。今年度の卒業試験は、一対一の戦闘試合だ。組み合わせは抽選で決める。だだし、このクラスは七人いるから、一試合は三人での試合となる」


 どのような組み合わせになるんだろう。できればサーレちゃんと試合をしたい。


 ****


 初めてサーレちゃんと会ったのは三歳のときだった。お父様と街の巡回に行ったときにサーレちゃんを見かけた。赤髪のきれいな子だった。あたしは、一瞬で心を奪われた。友達になりたいと思ったのだ。


 あたしは魔王の娘というだけで、誰も友達として見てくれなかった。だけど、同じような境遇のサーレちゃんとは友達になれるような気がした。


 その後、サーレちゃん一家は丘の上に引っ越した。このとき、お父様が頭を抱えて反省していた姿を今でもはっきり覚えている。魔王として、一国民を守ってやれなかったと、何度も呟いていた。これは悪しき風習のせいだと、幼いあたしでも理解できたが、お父様は責任を感じていた。


 そこで、あたしはお父様の元気を取り戻そうと、サーレちゃんと会おうと思った。サーレちゃんと友達になれる良い機会だし、あたしとサーレちゃんが友達になれば、お父様の気も少しは晴れるだろうと思った。


 早速あたしは丘の上に行き、サーレちゃんと会った。古着を着ていたが、可愛い服だった。そのショートカットの赤い髪があたしにはルビーのように輝いて見えた。やはり、サーレちゃんは美しい。

あたしはサーレちゃんの腕を引っ張り、無理やり外に連れ出した。外に出れば元気になると思ったからだ。しかし、サーレちゃんは怒った。当然だ。見ず知らずの子がいきりこんなところにまでやってきて、無理やり連れ出したらバカにしに来たと思うだろう。だから、あたしは友達になりたいと素直に伝えた。そうしたら、なんとか友達になることができたのだ。


 サーレちゃんと一緒にいて分かったことがある。サーレちゃんには才能がある。料理も学園での勉強も、あたしはサーレちゃんに追いつこうと努力した。しかし、サーレちゃんに追いつくことはできなかった。サーレちゃんには、努力以前に才能があったんだと気づいたときには、あたしは努力をやめていた。


 そんな時、サーレちゃんのパパに魔法を習える機会が訪れた。その時思った。もう一度目一杯努力して、サーレちゃんに追いつこうと。サーレちゃんが苦手とする魔法で努力すれば、いつか彼女に勝てるのではないかと。


 サーレパパとの修行を終えたあたしならば、サーレちゃんと良い試合ができるんじゃないか。だから、あたしはサーレちゃんと闘いたい。


 ****


「では、抽選するぞ」


 学園長の声で現実に引き戻される。あたしは、手を合わせて祈った。


「第一試合は、……」


 箱の中に手を入れた学園長は、三枚の紙を取り出す。


「オリバー、ダニエル、セバスチャン!」


 男の子同士の組み合わせになった。


「次は、……。アリス、リン!」


 エルフ姉妹の闘いか。見てみたいかも。……ということは。


「最後、……。セレナ様、サーレ!」


 やった。サーレちゃんと闘える。


「では、早速試合を始める。第一試合の生徒は準備を整え、三十分後に王立闘技場に来い」


 あたしは、退出しようとする学園長を引き止め、質問する。


「学園長。サーレちゃんはどうなるの?」

「第三試合開始までに闘技場に来れば問題無い」


 それだけ言うと、学園長は教室を出ていった。


 第三試合開始まで。短く見積って四時間後ってところか。あたしは、不安を胸に教室を後にした。

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