第三話 六年生
あれから月日が経ち、ついに最終学年となった。
セレナとは相変わらず仲良くやっているが、エルフ姉妹以外のクラスメイトとは打ち解けることはできなかった。
私は今まで授業を受けてきて分かったことがある。それは、私の魔力量は他の魔族と比べて低いことだ。中級魔法を二発も使えば、すぐにバテてしまう。
パパとの魔法訓練でも、初級魔法しか使ったことはなかったから全く気づかなかった。しかし、初級魔法を中心に駆使する料理には影響は無く、そこだけが救いである。
魔力量は少なくても勉強はできる。私は授業を受ける中で、魔法陣学に没頭した。セレナには「使えもしないのに……」と嘆かれたが、向上心はそう簡単に抑えられるものではない。ついには、自ら初級魔法だけで魔法陣を構築し、『無限収納袋』なる便利な魔導具を開発してしまったほどだ。
それと、剣術にも没頭した。ロクな攻撃魔法が使えない私にとって、剣術が食材調達に役立つと思ったからだ。
そして、六年生進級初日。
「さて、諸君はついに最終学年となった。もう授業を受ける必要はない。だが、学年末には卒業試験がある。これは、卒業後の冒険者ランクを決める大切な試験となるから、六年間の実力を出し切ってほしい」
卒業試験は各クラスごとに異なる内容で実施されるらしい。その中でも、Aクラスの試験は過酷だという噂がある。
「それと、今年から外出が可能になる。卒業試験に向けて自分の武器を探すも良し、冒険者に同行して実践経験を積むも良しだ。ただし、諸君はまだ正式な冒険者ではないから、いかなる場合でも魔物と戦ったり、ダンジョンに入ることはできないから注意しろ」
外出が可能か。卒業試験に向けて何をしようかな。
「サーレちゃん、どうする?」
セレナが小声で尋ねる。
「私は剣術を習いたい。将来、美味しい食材を手に入れるのに役に立ちそうだから」
「分かった。あたしは魔法をもっと練習したい。だからサーレちゃんに着いていくよ」
何でそうなるのよ?
「私に着いて来ても、魔法を教えられないよ?」
「分かってるよ。訓練は自分でやるけど、サーレちゃんは魔法陣博士だからね! サーレちゃんにすごい魔法陣を教えてもらってそれを練習しようと思うんだ」
たしかに、私は究極魔法の魔法陣を知っているし、その気になれば究極魔法に匹敵する魔法陣を組み立てられる。しかし、魔法陣を知っているのと使うのとでは全く違う。
「だけど、使い方は教えられないのよ?」
「いいの。サーレちゃんが魔法陣を考えて、あたしがそれを使う。良いコンビじゃない?」
まぁいいか。魔法の練習は自分でするって言うし。
「なら良いよ」
「やったー!」
セレナは飛び跳ねて喜んでいる。
まずは、剣術の先生に会いに行こう。何かアドバイスが貰えるかもしれない。
私とセレナは職員室へ向かった。
職員室の右端に、剣術の教師・アドルフ先生の机があった。
「何? 剣術を極めたい?」
「はい」
アドルフ先生は頭を抱えた。
「サーレ。お前の剣術の腕は素晴らしい。授業でもトップの成績だった」
「はい」
「なのにまだ腕を上げたいと言うのか?」
「はい、お願いします。アドバイスをください」
アドルフ先生は大きな溜息を付く。
「あのなサーレ。お前の剣術の腕は既に俺を超えている。アドバイスできることなどない」
キッパリと断られてしまった。
一方のセレナは、私に憧憬の眼差しを向けていた。
「そうですか……」
私が諦めて帰ろうとしたとき。
「そうだ。アドバイスは出来ないが、剣術の達人を教えることはできるぞ?」
「本当ですか?」
私はアドルフ先生に詰め寄る。
「あぁ。その方は以前、この近くに住んでいたんだが、ある時丘の上に引っ越してしまってな」
「それでそれで?」
「名前はたしか、エルシィと言ったかな」
エルシィか。どこかで聞いたことがあるような。
考え込んでいると、セレナがツンツンしてきた。
「何?」
「エルシィって、サーレちゃんのお母さんと同じ名前だね」
あぁ、たしかママの名前もエルシィ……。ん? もしかして。
「あの、そのエルシィって人、料理人ではありませんでしたか?」
「あぁ、そうだが、知っているのか?」
確定だ。ママが剣術の達人だったんだ。
「その人、私のママです」
「何?」
アドルフ先生の驚きも分かる。私だって初耳だ。
「私、ママに会ってきます。外出許可を頂けませんか?」
「あ……あぁ、分かった」
アドルフ先生から外出許可を貰い、学園を出る。すると。
「あ、あの……」
後ろから呼び止める声が聞こえた。
「何?」
「アタシも連れて行って貰えないでしょうか……」
か弱そうな声の彼女は、眼鏡を掛けて髪を三つ編みツインテールにしている。服装は純白に統一されていて、清潔感があった。
「あなたは?」
「ア……アタシはエミリーと言います。Eクラスの六年生です」
Eクラスというと、治癒師のクラスか。なるほどよく見れば看護師のようにもみえる。
「なんで私達と一緒に行きたいの?」
「サーレさんは学園では有名ですから」
「赤髪で?」
私はわざとムッとした表情をしてみせる。
「い……いいえ、違います。サーレさんは魔法陣学に秀でていると有名なんです」
私のイジワルに気づいていないのか素直に答える。
そんなに有名になっていたんだ。私はただ、自分の好きなことに没頭していただけなのに。
「それで、サーレさんに着いていけば、アタシも治癒魔法や防御魔法を学べると思って……。ダメですか?」
赤髪のことを気にしないで、わざわざここまで追いかけてくるなんて、変わった子だな……と思った。
まぁ、一人増えるくらいなんてことない。仲間は多いに越したことはないだろう。
「いいよ」
「あ……ありがとうございます!」
エミリーは深々とお辞儀をする。
「セレナもそれでいいよね?」
「うん。サーレちゃんがいいなら、あたしもいいよ」
「じゃあ、行こっか」
セレナの了解も取り付けた。
こうして、三人は私の家のある丘の上まで行くことになった。




