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第二話 学園入学

 学園の門前には、行列が出来ている。何やら書類を書かされているようだ。


 順番が来るまでかなり待たなければならないと思っていたが、セレナと雑談をしている間に、あっという間に私の順番が訪れた。


「この書類に必要事項を書け」


 屈強な男が、書類を手渡す。おそらくこの学園の教師だろう。


 書類には、名前と希望職種を書く欄があった。私の希望職種は料理人だが、マリア様みたいな料理人になるには冒険をして腕を上げるのが最適だ。そこで、希望職種の欄には、《料理人・冒険者》と記載した。


「サーレだな。フードを取れ。顔を確認する」


 まさかこんなところでフードを取るように要求されるとは思わなかった。


「サーレちゃんは事情があってフードを取れないの。お願い、見逃して!」

「どんな事情があるんだ? 我々は入学者の顔を確認する義務がある」


 セレナの援護射撃はあえなく撃沈した。


「いいよ、セレナ」


 私は覚悟を決めてフードを取った。ここで揉めても、後ろに並ぶ入学者に迷惑をかけるだけだ。


「な! 赤髪だと?」


 教師は驚いている。それよりも、他の入学者がざわついているのが気になった。まぁ、当然だろうけど。


「これはすまん。まさか赤髪だとは思わなくて。いや、俺は赤髪に偏見とかないからな。もちろん、ここの教師全員そうだが……」


 教師は狼狽していた。


「いいですよ、全然気にしてませんから」


 私はセレナにウインクして、学園の中へ入った。



 全入学者が書類を書き終えた頃、学園の掲示板にクラス表が張られた。


 この学園には、AからFのクラスがあるようで、私はAクラスに配属された。


「やったー。サーレちゃん、あたしと同じクラスだね!」


 後方でセレナが両手を上げて飛び跳ねている。


「じゃあ、行こっか」


 私はセレナの手を引いて教室へ向かった。


 セレナと一緒に教室へ向かう廊下では、生徒同士が私を見てヒソヒソと話をしている。あきらかに私を避けているのが分かった。


 教室へ入ると、先に来ていた五人の生徒の視線が私に集中し、それまで聞こえていた私語が静まり返る。まるで奈落の底にでも迷い込んだかのような静けさの中には、私達の足音だけが響く。


 私とセレナは、教室入口近くの最前席に着席する。


「大丈夫? サーレちゃん」

「大丈夫だよ。セレナ」


 セレナは心配してくれているが、こんなことでいちいち落ち込んでいたら、精神が持たない。この先の人生は長いのだから、楽しまなきゃ損だ。


 そうこうしていると、教室の扉がバンッと開き、一人の男性が入室して来た。屈強な筋肉に身を包まれたその男性は、中年のように見えた。


「諸君、おはよう。ワシはこの学園の学園長をしているルーカスだ。今日から六年間、君たちの担任となる」


 学園長自ら担任をするのか。


「このクラスの今年の入学生は七人だ。皆仲良くするように!」


 そう言う学園長の視線は明らかに私に向いていた。私は仲良くしたいが、他の生徒はどう思っているのやら。


「まず、クラス分けの基準を教えておこう。諸君は学園の門前で希望職種を書いたと思う。このAクラスは、希望職種を〘冒険者〙とした者だ」


 では、他のクラスもそれぞれの希望職種によって分けられているのだろうか?


「ちなみに、Bクラスは〘騎士〙、Cクラスは〘研究者〙、Dクラスは〘鍛冶師〙、Eクラスは〘治癒師〙、Fクラスは農業や料理人などの〘一般職種〙だ」


 私は希望職種欄に〘料理人〙も記載したはずなのだが、冒険者クラスに配属されたらしい。


「さて、一通りの説明が終わったところで、自己紹介を兼ねて魔法の腕を見せてもらう。諸君は訓練場に移動しろ!」


「「はい!」」



 訓練場に移動し、整列する。私は一番後ろで、セレナは私の一つ前だ。


「諸君、整列できたな。これから魔法を使ってあそこに並んだ的に魔法を当ててもらうわけだが、杖の使用は禁止する」


 杖の使用は禁止か。たしかに、初級魔法ならば杖なしでも魔法を使うことは可能だが、百メートルは距離がありそうなあの的に魔法を当てるのは至難の業だ。しかし、パパと魔法の修行をした私ならばギリギリ当てられないこともない。


「では、最初はオリバー・ケリー」

「おう」


 最初はオリバーという男の子らしい。名字を持っているところをみると貴族なのだろう。


「【火炎(フレイム)】」


 詠唱と同時に、オリバーの手から炎が放たれた。しかし、八十メートル程して炎は消えてしまった。


「うむ、なかなか良い。次、ダニエル」

「はい」


 次も男の子だ。だが、服装は貧相で髪はボサボサだ。


「ウォ、【(ウォーター)】」


 詠唱と同時に、ダニエルの手から水が放出された。だが、放出された水は、十メートルと届かなかった。


「まだまだだな。次、セバスチャン」

「はい!」


 次の男の子も名字がないところをみると平民なのだろうが、服装はビシッとしていて、胸にはバッジを付けている。


「サーレちゃん」


 セレナが小声で話しかけてきた。


「あの子、執事の家系だね。胸のバッジは執事の証だよ」


 なるほど、それで平民なのに身だしなみがしっかりしているのか。


「【(ウィンディ)】」


 詠唱と同時に、セバスチャンの手から風が放たれる。しかし、風は五十メートル程しか届かなかった。


「うむ、まあまあだな。次、アリス・ムーア」


 アリスも貴族か。たしかに貴族のような装いだ。その華麗な服装のおかげか、アリスは大人の女性のような風格がある。だが、それよりも目に付いたのは尖った耳だ。これは、エルフ族の特徴だ。


「先生! お願いがあるのです」


 アリスが手を挙げて発言する。


「何だ?」


 アリスは、すぐ後ろの少女を自身の左に並べる。その見た目は、二人共瓜二つだった。双子なのかな。


「このリンと一緒にやらせて欲しいのです」

「何故だ?」


 学園長は怪訝な顔をする。


「ワタシとリンは双子なのです。二人で一人なのです」


 なるほど、理屈は分からなくもないが、やはり一人は一人なのではないだろうか。こんなの学園長が認めるとも思えない。


「よし、良いだろう」


 良いんかい! とツッコミたくなる感情を抑えて平静を保つ。


「ありがとうございますなのです。では行きますなのです。【火炎(フレイム)】」


 二人同時に放たれた炎は、五十メートル程の距離で合わさって一つとなり、的を破壊した。


「やったーなのです!」


 エルフの魔力は凄まじいと聞いていたが、これほどとは思わなかった。


「さすがエルフだな。では次、セレナ=エストピア」


 その名前を聞いて、生徒達は驚きの表情をあらわにする。


「はーい」


 生徒達の驚きに一切気づいていないかのように、セレナは陽気な返事をして一歩前に出て詠唱する。


「【(ウィンディ)】」


 セレナから放たれた風は的を直撃したが、破壊にまでは至らなかった。


「さすが魔王様の娘だな」


 学園長が褒める。


「さすがセレナ様。俺は感動いたしました」


 オリバーが拍手をしながらセレナに近づく。


 私は権力に媚びるようなヤツは嫌いだ。そういうヤツらに限って、格下の者を蔑み嫌悪するのだ。


 セレナは頭を搔いて照れている。私はそんなセレナを睨むが、当の本人は気づいていないようだった。


「では、最後にサーレ」

「はい」


 私の番が来た。しかし、他の生徒達はセレナに夢中で、私のことなど見ている者はいなかった。


「【火炎放射(フレイム・バースト)】」


 私は詠唱をした。私の手から放たれた炎は、勢いのまま的を破壊する。


「なんだと?」


 学園長の驚きは分かる。私の炎魔法では的を破壊するには至らないが、そこに風魔法を組み合わせることによって炎の威力を上げたのだ。パパから教わったやり方だ。本来ならこれは三年生頃に習う方法である。


 他の生徒達も驚いている。


「すごいよ、サーレちゃん」


 セレナが拍手をする。


 だが、訓練場にはセレナの拍手の音だけが響いていて、それが虚しく反響する。


 セレナにはもう少し”空気を読む力”を身に着けて欲しいものである。

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