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第十話 旅立ち

 旅立ちの日。セレナは学園の中庭にある演説台に立って得意げに魔法を披露していた。炎を出して消すという超初級魔法をやってみせ、後輩(主に一年生)に笑顔を振りまいた。しかし、真剣に見ているのは二人だけで、他の後輩は魔法の訓練に勤しんでいる。


「何してるのよ」


 私が尋ねると、セレナは胸を張って答えた。


「将来の魔王が後輩に魔法を教えてるんだよ」


 そんな魔法が何の勉強になるのよ。と思いつつ、セレナの腕を無理やり引っ張ってギルドへ連れて行く。


 セレナはまだ魔王になるのを諦めていないらしい。いつか私を倒して魔王になると息巻いていた。


 ギルドは冒険者が集まっていて賑やかだった。私とセレナは、右端のテーブルへ向かう。


 テーブルには、エミリーとエルフ姉妹が座っていた。


「あっ、サーレちゃんとセレナちゃんなのです。早速行くのです。馬車は用意してあるのです」


 私は頷くと、皆を引き連れて馬車貸し商へ移動する。


「馬車は一年、金貨五枚だよ」


 オヤジに言われるまま金貨五枚を払い、馬車に乗り込む。運転席にはエミリーが着く。エミリーは商人の娘らしく、馬車の運転ができるらしい。


 こうして私達は、隣国へ向けて旅に出た。


 その道中、アリスが依頼書を取り出す。


「隣国へ行く前にこの依頼をやりに行くのです」


 依頼は、ミツヤ村での『カタクチの実』の採集だった。カタクチの実は、表面がかなり硬く食用には向いていない。というより調理ができない。そのかわり、武器として使うことができるのだ。普通のゴーレム(脅威度六程度)なら倒せる威力だ。


「どうしてこれを?」


 アリスに尋ねる。


「これ、報酬がかなり高いのです」

「……やって損はないと思う」


 エルフ姉妹の言葉を聞いて、セレナが目を輝かせる。


「一個金貨一枚? やろう、ねっサーレちゃん」


 私はセレナの圧に負け、依頼を受けることにした。


 その途中、原っぱで休憩することになった。


 昼食は、トゲトゲした木の実だ。さっきこの近くで拾った。前世でいうところのドリアンのような木の実で、匂いも強烈である。


「クッサ」


 各々木の実を手で割ったらしく、鼻をつまんで顔をしかめていた。そこで、私が説明する。


「これは、クサイガの実。殻と身の間に膜があって、殻と膜の中に匂いの成分があるの。その成分が身と結びつくと臭くなるから、まずトゲを全て切って匂いの成分を飛ばす必要がある」


 この実の調理法を説明すると、皆一斉に実を私に差し出す。どうやら調理して欲しいらしい。仕方なく実を調理して渡すと美味しそうに食べた。


「美味しい」

「甘くて美味しいのです」

「……ホント、さっきと全然違う」

「お……美味しい」


 食材には、たまに調理が難しい物も存在する。正しく調理しないと不味くなってしまうのだ。


 昼食を終え、再び馬車で村へ向かう。


 道はさらに細くなり、山奥へ続いていた。ここがミツヤ村の入り口である。道をさらに進んだところで五人は馬車から降りた。


「ここがミツヤ村か……」


 私は呟く。門の向こうから一人の老人が近づき、声をかけてきた。


「おや、冒険者の方々ですかな?」


 私は咄嗟にフードを被ろうとしたが、老人は私の髪を見ても驚きもしなかった。どうやらこの村では()()()()()はないらしい。


「わたくしは村長をしておりますドルトと申します」


 村長は五人と順に握手をする。


「カタクチの実の採集ですかな?」

「はい」


 アリスは、村長に疑問をぶつけた。


「なぜこの実の報酬はこんなに高いのです?」

「それはですな。カタクチの実はこの村でしか採れないのですが、最近は数が減っておりまして。対して実の武器としての需要は高い。だから報酬が上がっておるのですよ」


 なるほど。そういう事情があったのか。


 私達は村長と別れ、村周辺の森を探索した。たしかに、見つかったカタクチの実は二、三個でそれ以外はクサイガの実しかなかった。


 日が暮れてきたので村へ戻ると宴の準備が整っていた。


「さあさあ冒険者様。こちらへ」


 村長は五人を先導してテントへ案内した。そして出されたのは、雑草らしき物を煮込んだスープと焼きが甘い肉のステーキであった。


「さあ、食べながらで結構ですので、この村の役人を紹介しましょう」


 別に求めてはいないが、村長は役人を三人テントに連れてきて紹介を始めた。


「まずは、副村長のドドルト、わたくしの息子です。続いてサキナ、農業大臣です。最後にレオン、料理長です」


 この人が料理長か。料理に文句を言いたかったが、私達はお客なので自制することにした。


 私達は、村長のおもてなしを受けながらまずまずの料理を頬張った後、眠りに就いた。


 翌朝、私は不穏な音で目を覚ました。他の四人の姿はすでにない。テントを出た私は、通りかかった村人に何があったのか尋ねた。


「料理長のレオンさんが殺されたんですよ」

「ええっ!?」


 私は慌てて人だかりができている小屋へ向かった。野次馬を掻き分けて中に入ると、レオンさんが包丁で刺されて死んでいた。その死体の周りを四人が囲んでいる。


「何があったの?」

「サーレちゃんと同じだよ。ガヤガヤ声に目を覚ましたらレオンさんが……」


 セレナが答える。すると、村長が現れた。


「レオンさんが殺されたというのは本当ですか?」


 村長はレオンさんの死体を見て絶句した。しかし、すぐに冷静を取り戻し指示する。


「すぐに王都の騎士様に連絡を。それと冒険者様方、持ち物を拝見できますかな?」


 もしかして、疑われている?


「何、念のためです」


 私達はしぶしぶ持ち物を出した。すると。


「ほ、包丁? この方包丁を持っていますぞ」


 一気に疑いの目が私に集中する。


「ちょっと待って。私は何もしていませんよ」

「しかし、包丁を持っていたじゃないか」

「それは私が料理人だからで……」

「そうだそうだ、冒険者に見せかけた盗賊なんじゃないの?」


 いや盗賊なんかじゃ……、ん? 今の声は。見るとセレナだった。私はセレナに近づき(はた)いた。


「とにかく、あなたを拘束します」


 私は村人に両腕を掴まれ、連行されそうになる。


 どうしよう、犯人にされちゃう。

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