第九話 手紙
目が覚めると、そこは城のベッドの上だった。
「サーレちゃん、大丈夫?」
セレナが心配そうに私を見ている。
「ええ、大丈夫」
そう答えて起き上がろうとすると、背中に痛みが走った。
「痛っ」
「まだ寝てなきゃダメだよ」
セレナが介抱する。すると、部屋の扉が開き魔王様とエルフ姉妹、エミリーが入って来た。一同は跪く。
「魔王サーレ様。お加減は如何でしょうか?」
魔王様が言う。たしか、試合で魔王様は負けを認めたんだっけ。となると……私が新たなエストピア魔王ってことか。
「いやいや、止めてください。皆も頭を上げて」
魔王様にまで頭を下げられると、むず痒くなる。私は何度もお願いして、何とか頭を上げて貰うことに成功した。
「治癒クラスで一番のエミリーでも、治癒できなかったのです」
「ご……ごめんなさい。全力で治癒魔法をかけたんだけど、サーレちゃんに刺さった矢は呪われていて、完全に治癒できなかったの」
エミリーが謝る。どうやら私は呪いのかかった矢に撃たれたらしい。誰かが命を狙ったってこと?
「それとね、サーレちゃん。とても言いにくいんだけど……」
セレナが深刻な顔をしてうつむく。
「我が代わりに話そう。実はな、サーレ様の両親が殺されたのだ」
なんだって? 誰が殺されたって? 私は一瞬頭が真っ白になった。
「すまん。当時魔王だった我が守ってやれなかった」
魔王様は頭を下げる。
「頭を上げてください。それより、食堂の実家に行ってみたい」
私は皆に支えられ、やっとのことで実家までやってきた。食堂の中は荒された形跡があり、庭は戦闘の跡と思しき穴がいくつも開いている。
私は膝から崩れ落ちた。これまでの両親との思い出が駆け巡り、自然と涙が溢れてきた。セレナが背中を擦ってくれたが、悲しみは収まるどころか増幅していった。
どれだけ泣いただろうか。やっと悲しみが収まり涙を拭う。すると、魔王様が手紙を差し出した。
「サーレ様の母親が握っていたらしい」
手紙を受け取り、封を開ける。
〘サーレへ
この手紙を読んでいるということはパパとママはこの世にはいないということでしょう。
あなたには話していなかったことがあります。実は、あなたは私達の子どもではありません。
赤ん坊のあなたは、森の中に捨てられていました。赤髪のあなたに最初は驚きましたが、すぐにそんなことはどうでも良くなりました。だって、あなたはとても可愛かったから。育てる決心をしました。
しかし、あなたを育て始めてから三日後、怪しい人物があなたを攫うためにやってきました。私達はなんとか撃退しましたが、今後も同じことが起こるような気がしました。だから、私達はあなたを守ると誓ったのです。
そんな時、成長したあなたは修行がしたいと言い出しました。その時思ったのです。この子は守られる側から誰かを守る側へと成長したのだと。そこで、私はある計画を思いついたのです。この子を魔王にしてしまおうと。そうすれば、側近があなたを命懸けで守るでしょう。国家権力を駆使すれば、あなたの出自が明らかになるかもしれません。
とにかく、あなたは魔王になるべきです。
パパとママは影からあなたを見守っています。これからも、国民のために良い魔王となってください。
P.S.
さらなる力を身に付けたくなったら、同封の紙を読んでください。
パパ、ママより〙
途中から涙でよく見えなかった。内容は衝撃だったがうすうす気づいていた。だが、パパとママは一人づつしかいない。これだけは、確かなことである。
両親は私を魔王にしたいらしいが、冒険者になりたい気持ちもある。料理で世界中の人を笑顔にしたい。これは前世からの夢である。
「どうするの、サーレちゃん?」
セレナが尋ねる。
「私は冒険をしたい。冒険をしながら人々を料理で笑顔にしたい」
私は真っ直ぐセレナの目を見て言う。
「分かった。いいでしょ、お父様?」
「良かろう。現在の魔王はサーレ様だ。サーレ様の好きにされると良い。不在の間は、我が魔王の代わりを引き受けよう」
良かった。これで冒険者になれる。
「ワタシ達も連れて行って欲しいのです」
「ア……アタシも」
アリスとエミリーがお願いする。
「……エルフに会いたい。そのために冒険者になった」
リンもボソッと言う。
「良いわよ。一緒に行こっ!」
こうして、私とセレナ、エミリー、エルフ姉妹の五人でパーティを組むことになった。
旅立ちは、私の怪我の治癒を待ってからとなったが、事前に冒険者証は貰うことができた。私はAランク、セレナとエルフ姉妹はBランクだった。エミリーは冒険者ではないのだが、パーティに同行することを許された。冒険者でない者も一人までならパーティに同行できるとするのがギルドの規則らしい。
ちなみに、魔王の特徴である大きな角と羽と尻尾は収納することが可能である。だから、旅の途中で騒がれる心配はない。
また、冒険は国外ですることになった。国外ならば赤髪を嫌う者もいないからだ。
早く怪我を治さなければ。皆が待っている。
私は、治癒院に入院することにした。