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3、

亀更新に失礼します。

「あーあ、逃げちゃった···でも」


何故か次も必ず会えると直感する。



アーロン自身も興味の対象が居なくなった為、この場所から立ち去ろうと御神木から飛び降り、再び丘の上から街を見下ろす。


「今日は思いがけない収穫があったな」


レオパルトの淑女(レディ)に出逢い、自分に足りない何かが解り、初対面だったがその相手もアーロン自身の事を少しは気に掛けてくれてると認識出来た。

子供が何か悪巧みする様な表情で口角を上げ、気持ちは高揚していると自覚しながらもアーロンも帰路についた。




***


その後アーロンの直感は正しかった。

市井へ行く事も増え、満月の夜になる度に必ずアーロンは御神木の下へ立ちよった。

レオパルトの淑女(レディ)に会えるのは満月の夜しかなく、5回目の満月の日もアーロンの方からの会話が多いものの2人で木の根元で横になりながら会話していた。



「今日も一段と君の毛艶は月の力で煌めいているね」

「それはどうもありがとうございます」

「ふっ、まだ私と話すのに肩の力が入っているな」

「それはそうでございましょう?この国の皇太子殿下相手に畏まるのは当たり前です」

「会える日が限られているから私としては早く慣れてほしいんだけどね」

「それは出来かねます」


アーロンは相変わらず素っ気ない会話をするレオパルトの淑女(レディ)に少し残念に思うが、なかなか懐かない相手にこれからどう手懐けていこうかとワクワクもしていた。




「何か良からぬ事をお考えで?」


(!?)


皇太子という立場上、相手に感情を読み取られない様日々気を張っているが、レオパルトの淑女(レディ)を目の前にするとそれが解けてしまう面もあるらしく、直ぐに悟られてしまう。

だが、アーロンもそんな感情も満更でもなくレオパルトの淑女(レディ)にさらけ出していることを理解していた。

彼女には本当の自分を知って欲しいという欲が芽生えていのだ。



レオパルトもアーロンを見てない様で見ていた。

初めて会った時から皇太子という地位にいる手前、感情が表に出ては相手に付け入る隙を与えてしまう為に気を付けているであろう事は理解していた。

初対面時はお互いに気を張りつつも、アーロンから突飛な行動をされレオパルトも動揺してしまい、無礼な発言をしたと反省した。

『次の満月の夜もまた此処へ来る』

そうアーロンが言い残したものの、皇太子の公務は日々激務だと聞いていた為、満月の日のみだが夜も更ける時間帯に会えるとは到底思えなかった。

だが、次の満月の夜に御神木に行ったらアーロンが既に木の幹に背を預け寝ている姿を見た時は心臓に悪かった。

一国の皇太子が護衛も付けず、1人夜更けに丘の上で寝ている姿は本当に無防備にも程があった。

注意するもそういう事が2回、3回と続くとレオパルト自身これが通常なのだと慣れてきてしまい、アーロンが寝ていたらその横に静かに腰を下ろし寛ぐようになっていた。

それが5回となると流石に悪態も付ける様になってくる。


「ねえ、そろそろ君の名を教えて欲しいんだけど」

「·····お断りします」

「···その沈黙はなんだったんだ」

「何もございません」

「無い筈ないだろう?」

「·····殿下とお会いするのもこれで5回目、流石に無礼だとは思っております。ですがこの姿をした者が何処の家の者かお調べになれば殿下程のお方だと直ぐに解るかと···それに既にご存知だと思っておりました」

「そう言うことか。君が話してくれるまでは待とうと思っていたし、この癒しの時を誰かに知られるのも気に食わなかったから調べてないよ。だからまだ君の名は解らない」

「い、癒しの時って」

「私自身、常に公務で各貴族を相手に毎日聞きたくもない事案やらを聞いてると気が滅入るからね。月に一度のこの時間が唯一私にとっては癒しの時だ」

「·······そう言って頂けるのは、光栄にございます」

「だから君から名を教えて貰うまで気長に待とうと思った。待つ時間も苦にはならない。君に会うのが月に一度だが本当に楽しみだし」


皇太子であるアーロンが、日々公務で書類処理の仕事や視察、各国への外交とあらゆる分野の仕事をこなしているのは解る。

レオパルト自身の家は殿下のすぐ近くに居る立場の者でもあったから、情報は直ぐ手に入ってくる。

それもあってなかなか名乗れずにいたのだ。

名前を教えてしまえば、殿下であれば名前だけでも家系図が頭の中に直ぐ出てくると思ったから。


とても悩んでくれているのが伝わる為無理強いはするつもりは無い。

···が、やっぱりもっと知りたいとも思ってしまう。


「レオパルトの淑女(レディ)はまだまだ私が信用出来ないみたいだから、名の件はまた今度にしておこう」

「っ!あ、あの···」


アーロンが少し寂しそうな表情を見せ立ち上がろうとした為、レオパルトは焦り引き留める。


「ん?どうした。もうそろそろ帰った方がいい時間になったであろう。見送るよ」

「いえ、あの、帰る時間ではありますが」

「いい淀むとは君らしくない」

「わ、私だって戸惑っております!どうしたらいいのか悩むのです」


アーロンのあの寂しそうな表情を見てしまったらどうしても言ってしまいたくなる。

それくらいにはアーロン自身に心を許しつつあるのだ。

それに、名を呼んで欲しいという欲までが出始めていると最近は実感している。

アーロンを見つめるとどうしても欲が勝ってしまう気がする。



「悩んでくれる程、私の事を気にしてくれてると思ってもいいのか?」

「っ!」


レオパルトが息を飲む。

図星だったからだ。


「レ、レオナ」

「ん?」

「私の名前はレオナと申しますっ」



そうレオパルトは言い残し、アーロンを1人残し走り去ってしまった。


「っ!!···レオナ···ね、またしても逃げられてしまったな」


アーロンは自身の口元が緩むのが止められなかった。

レオパルトの淑女(レディ)が自分から名乗ってくれたのが、思ってた以上に嬉しかったのだ。

もう姿は見えないが名残惜しい様に行ってしまったレオナに視線を残し、アーロンも帰ろうとしたその時、御神木に近付く誰かが来たのが気配で解り、瞬時に木の枝に登り気配を伺った。




「お母様、こんな時間帯にこの様な人気の居ない場所まで来て何のお話なのですか!」

「大声を出すのではありません。屋敷では誰が聞いてるかわかったもんじゃない。それにこれは貴方にとってもいい話なのよ」

「いい話?」

「貴方も知っての通り5カ月前にアッシュフォード侯爵家の奥方だったフィオナが亡くなったのは知ってるでしょう?あの娘の名前を出すのも嫌ですけど···」


1人は少し年配の女性の声で、もう1人は年若い女性の声。

2人の女性がこんな夜更けにこんな丘の上まで来て話とは、きな臭い。

それに女の妬み、嫉み、愛の欲望ほど醜いものはない。

アーロン自身も学園生活時に女性絡みで散々苦労した。

要らぬ噂を立てられたり、ましてや我が娘を婚約者にと令嬢の親からのゴリ押し等、思い出すだけでも鳥肌が立つ。



「ええ、お義姉様ですわね···葬儀は行けなかったけどお墓参りには行ったわ。それにお義姉様の夫であるアッシュフォード侯爵様はとてもお義姉様を溺愛していたと貴族間で有名な程おしどり夫婦でしたし」

「そうね。とても仲が良く夫婦の鑑だったわ」

「そのお義姉様夫婦の事が何か?」

「そのフィオナが病で亡くなった現在アッシュフォード侯爵家の奥方は不在となった。アッシュフォード家といえば帝国に忠誠を誓う程に地位も名声もある家柄。義姉であれ貴方は元奥方であった、フィオナと姉妹。それに、髪色と瞳の色は違えど貴方とフィオナは瓜二つのように似ている」

「お母様、何を仰りたいの」

「まだ解らないの!?今がチャンスなのよ!私の娘である貴方がアッシュフォード家に嫁ぐのよ!これで我が子爵家は安泰なのよ!」

「た、確かにそうかもしれないけど、そんなの無理に決まっているわ!いくら似ているのはいえ、アッシュフォード侯爵家に行くなんて無理よ!」

「そんなことないわ!アッシュフォード侯爵は今フィオナを失い喪失していると聞くわ。そこに貴方が行って寄り添えば上手くいくわよ」

「そんな世の中上手くいく筈無いわ!お義姉様の代わりなんて無理よ!」

「いいえ、私も直接お会いして上手く言い抜くから貴方は自分の容姿と言葉遣いでアッシュフォード侯爵の心を掴むのよ!それに貴方、昔はアッシュフォード侯爵の事がお好きだと言ってたではないですか。今更良い子ぶるのは止めなさい。もうフィオナは居ないの、貴方がアッシュフォード侯爵を手に入れるチャンスは今なのよ。貴方は賢いわ。それにフィオナよりずっと綺麗よ」

「そ、それもそうよね。確かに私はお義姉様より男性方からの支持はありましたわ。今でも私アッシュフォード様をお慕いしてるし、お義姉様が居なくなった今こそアッシュフォード様のお心を掴むチャンスよね···」



(この2人は何を言っているのだ。アッシュフォード侯爵家は我が王家の近衛部隊隊長ではないか。そのアッシュフォード侯爵に対して良からぬ事を話しているとは。それに奥方を亡くし、気落ちしている事を父上から聞いていたが、親戚がこの様な邪な考えを持っていたとは、帰ったら父上に報告せねば)


「お母様、でも私前の夫との間に子がおりますわ。その子を連れて行ってもアッシュフォード様はお気に召して頂けるでしょうか」

「何を言ってるの。キャロルも貴方にそっくりでとても愛らしいではないの。絶対アッシュフォード侯爵様は愛して下さるわ!」


(年若い女性の方には子供がいるのか。それなのに、アッシュフォード侯爵にまだ執着するとは···子の名をキャロルと言っていたな。それに、年配の女性は子爵家と言っていた。アッシュフォード侯爵の奥方の出身は地方の子爵家と言ったか。確か···)


「貴方にもキャロルにも散々ムースカル子爵家は面倒見たのだから、今こそ玉の輿のチャンスよ!貴方1度離縁されたのだから、今度は失敗しないよう気を付けなさい」

「失礼しちゃうわ、お母様!前夫が私の魅力を全く解ってらっしゃらないばかりか、私に家督を押し付け過ぎて、此方から愛想尽かしたんですわ!」


(そうだ、ムースカル子爵家。あそこは領地経営的には問題無い筈だが、現奥方が少々怪しい行動をしていると報告書にも載っていた。それに子爵自身も前妻を亡くし、その間に1人娘がいた筈、その娘がアッシュフォード侯爵の奥方だったか。その後再婚で後妻の奥方との間にも娘が1人。成る程。今ここに居るのは現奥方とその娘か。これは何かしら波乱が起きそうだな)




その後、ムースカル子爵夫人達の話は直ぐ終わり帰宅するべく近くに停めていたであろう馬車まで行ったらしい。

やっと辺りが静かになった。

レオパルトの淑女(レディ)にやっと名前を聞けて気分が良かったが、その後の女の欲の話があり興が冷めた。

城に戻り次第父上に話さねばならない案件が増え静かに溜め息をつく。

それに名前を聞き出すのにも時間がかかったレオパルトの淑女であるレオナの家名はアッシュフォード。

先程まで話していた女の欲がまみれた話の渦中の人物であるアッシュフォード侯爵当主、リチャード·アッシュフォードの愛娘であるレオナに悪い虫が近寄ろうとしている。



「レオナ·····君の家はアッシュフォード侯爵家。私に何か出来る事があればいいが、何処まで此方が口を出せるか」



各貴族の問題に王家が干渉すると今は均衡を保ってる派閥間に亀裂が生じる恐れがあり難しい。

女の欲程醜いが、こればかりはアッシュフォード侯爵に任せるしか無いのだ。

女の欲程醜いとは言いつつも、アーロン自身も既にレオナに対する執着じみた思いが有ることに苦笑する。


「私も人の事は言えぬな···」


ボソリと言った言葉は風と共に消え去った。

お読み頂きありがとうございます。

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