みんな「あくまがこわい」とおびえていました
「ねえ、ネーヴェ。これってぼくみたいだね」
ジェーロは壊れた街で見つけた一冊の本を見て言いました。その本の表紙にはまっ黒な悪魔が描かれていました。悪い子の所には悪魔がやってくる。そんなよくある内容の絵本でした。
「そうね、ジェーロ。それはジェーロのお父さんと同じ悪魔を描いたものだから」
ネーヴェは一度だけ本当の悪魔を見たことがありました。だからその絵本に描かれているものが悪魔だと知っていました。ジェーロは自分が悪魔と同じような姿だと知りません。だってジェーロは悪魔を見たことがなかったのです。
「悪魔ってぼくと同じような姿をしてるんだね。ねえ、悪魔は怖いものなの?」
ジェーロは自分の父親が悪魔だとは知っていました。けれど悪魔が怖いと言われているのは知りませんでした。そして自分がその姿とそっくりな事も知りませんでした。
「ううん。本当の悪魔は怖くないわ。人間が悪魔を怖いと思っているだけ。何かを言う時に怖い相手が必要だから勝手に悪魔を使っているの」
悪魔は天界に住む一つの種族でしかありません。だからいい悪魔もわるい悪魔もどちらも居るのです。けれど人間はそれを知りません。だから色んな物語でまっ黒で怖いと思われている悪魔を悪者にしているのです。
「じゃあさ、ぼくが絵本の悪魔になるよ。そうすればぼくが一番怖くなる! ネーヴェは悪魔が出たって言えばいい!そうしたら戦争を止めれるよ」
ジェーロは怖いものがあれば人が戦いを止めるかもと言った事を覚えていました。それからずっと自分が一番怖くなる方法を考えていたのです。それが悪魔になることなら、それをやりたいと願ったのです。人が大好きなジェーロはそれが最善だと信じたのです。
こうしてジェーロの願いは叶いました。
こうしてネーヴェの祈りは届きませんでした。