たくさんのまちをこわしました
「ねえ、ネーヴェ。また街が壊れているよ」
ジェーロは廃墟と化した街に降り立って言いました。生き残りの人が居ないか探しているのです。
「そうだね、ジェーロ。またここでも戦争があったみたい。街も人も喪うけれどそれでも人は戦うのを止められないの」
ネーヴェは壊れた家を見て言いました。誰にも飲まれなかったスープがぽつんとテーブルの上に残っています。
「また人がたくさん死んだね」
がれきの山の中には人がたくさん倒れています。もう誰も息はしていません。血を流して体は潰れて、けれど命は空へ還れず体に縛られたままでした。
「ええ、たくさん死んだわ。でもそれを止める人は誰も居ないの。みんな自分は死ぬはずないって思ってるのね」
隠し部屋を見つけたネーヴェはその中を見回します。隠れた誰かが生き残っていないかと確認しているのです。けれどどこにも生きている人は居ませんでした。
「ここもまた、誰も生きて居なかったね」
寂しそうな哀しそうな顔でジェーロは呟きます。いくつもの街を見てきましたが、今まで一人も生きている人は居ませんでした。人が大好きなジェーロはそれがとても悲しいのです。
「きっと生きてる人はもうどこかへ行ったのよ」
そんな事はないとネーヴェは知っていました。戦争に巻き込まれると街の外には敵だらけ。そこから脱出することなど普通の人には不可能なのです。
「うん、そうだといいな。じゃあここの人たちもまたぼくらで送ろうよ」
ジェーロは不自然なほど明るい声でそう言って、蒼白の火を生み出します。それは全てを空へ還す美しい火でした。
「そうね、ジェーロ。私たちで送りましょう」
ジェーロの生み出した火はネーヴェの生み出した風に乗って街中へ広がります。美しい青の炎と煙に乗って、魂は天へと上ります。
それがジェーロにできる唯一の救いでした。
それがネーヴェにできる唯一の祈りでした。