たくさんのひとをころしました
「ねえ、ネーヴェ。人がたくさん死んでるよ」
ジェーロは戦争のただ中に降りて周りを見回し言いました。争っていた人々がジェーロの姿に怯えて逃げ去った後の事です。
「戦争はそういうものだから。人が人を殺すのよ。お互いに相手が怖いと言いながら殺すの」
ネーヴェは死者のまぶたを下ろしながら言いました。首のない人も、腕のない人も、胴のない人も、足のない人も居ます。
「不思議だね」
顔の焼けた人、心臓を貫かれた人、首を裂かれた人、頭を潰された人も居ます。ジェーロは全ての人に祈りを捧げました。次の廻りが安らかでありますようにと。どうかこのような痛ましいことが起こりませんようにと。
「うん、そうだね。でもそうしなければきっと生きてはいけないの。敵がいないと生きていけないの」
心が弱いと全てが敵に見えるのをネーヴェは知っていました。昔のネーヴェもそうだったからです。ネーヴェはジェーロの優しさに救われたから今は穏やかで居られるだけなのです。
「ねえ、ぼくらでみんなを送ろうよ」
ジェーロは手のひらにそっと蒼く白い火を灯します。その温度で全てを燃やし尽くす美しい蒼白の火です。
「ええ、そうね」
ネーヴェはジェーロの生み出した火にそっと息を吹きかけました。火は風に乗って戦場を駆け巡り大きな炎になりました。蒼白い炎がゆらゆらと燃え広がって戦場の全てを包み込みます。真っ白な炎と光に包まれて死体は灰へと変わり、風に舞うようにして散っていきます。
「みんな空に行けたかな?」
死んだ命は炎と煙に乗って空へと還る。それがこの世界の理です。だから炎で送るのです。再びこの世に生まれるために、炎と煙に乗って空へと還るのです。
それは優しい祈りでした。
それは哀しい祈りでした。