それはとてもこわいあくまでした
「ねえ、ネーヴェ。人の国が燃えてるよ」
ある日、ジェーロが天の鏡を指さして言いました。街からはごうごうと炎が上がり、煙に巻かれ恐怖しながら人々は逃げ惑っていました。
「ジェーロ。あれはね、戦争って言うんだよ」
悲しそうにネーヴェは返します。ネーヴェはジェーロより少しだけお姉さんだったので、少しだけ知ってることが多かったのです。
「戦争って何をしてるの?」
きょとんと首を傾げてジェーロはネーヴェに尋ねます。ジェーロは国を燃やす理由がわからなかったのです。優しいジェーロはそれがとても嫌だったのです。
「たくさんの人を殺しているの。自分の国のために他の国を壊しているのよ」
ネーヴェは人が何かを奪うため、自分の正義のため、利益のため、たくさんの理由で戦うことを知っていました。ちっぽけな理由が大きな戦争になってしまうことを知っていました。
「どうしてそんな事をするの?」
ジェーロは人を殺す理由を見つけられなくってネーヴェに尋ねます。ジェーロにとって嫌な事をなんでみんなやるのかわからなかったのです。
「みんな人が怖いのよ。自分以外の人が怖いの。怖いものがあるからみんなそれを攻撃するの」
ネーヴェはジェーロの頭を優しく撫でました。ネーヴェにとって怖いのはジェーロが居なくなる事でした。だからネーヴェには誰かを殺す理由はなかっただけなのです。
「じゃあもしも、ぼくが一番怖くなったら人は人を殺さない?」
ジェーロはむじゃきなまま優しく哀しい願い事を言いました。その結果どうなるかなんてジェーロにはわかっていませんでした。
「さあ、どうなのかな。私にもわからないや」
きっと人はその恐怖のために戦うでしょう。ネーヴェはそれがわかっていました。優しいジェーロが壊される事を知っていました。
「じゃあやってみようよ」
きらきらとまっ赤な瞳が輝きます。それを見るまっ青な瞳は悲しそうに揺らぎます。
願いを叶えたいと祈りました。
願いが叶わないのを知っていました。