1話 始まり
私がまだ幼かった頃。
とある絵本に出てきた冒険者に憧れた。
どんな敵も一撃で倒すカッコいいヒーロー。
「いつか僕だってこうなるんだ!皆を助けるんだ!」
まだ小さかった私は、そんな事をよく言っていたな。
何故こんなジジイになって、昔の記憶を思い出したか。
それは目の前で起きた出来事がそうさせたのだろう。
今…目の前に映るのは
困った時に現れる私のヒーロー!
私の家は農家だ。
家族は私、妻、息子が2人、息子の嫁が1人、孫が3人の8人家族だ。
私たちは幸せにのんびりと暮らしていた。
今日だって、いつものように農作業をしている。
お昼頃、そろそろ休憩にしようと思っていた時。
一緒に作業を手伝ってくれた孫が
「足音がするよ〜ドタドタ〜って!」
と言い出した。
孫がそう言った数分後、魔物の大群がこの村を襲った。
あっという間に辺りは炎に包まれて、沢山の人が殺された。私は震える足で孫の元へ歩いて、ヨボヨボの腕で孫を抱きしめた。
「うぇ〜ん!!!」
泣きじゃくる孫の背中をさすりながら
「大丈夫だ…大丈夫だからな」
私は孫にそう言った。
もちろん大丈夫な訳が無い。
私は孫を落ち着かせながら、後何分生きていられるのだろうと思っていた。
それから、孫の泣き声に気づいた魔物が私達の近くまで寄ってきた。
「ごめんなエリー、少し走るよ!」
私は震える孫を抱えて駆け出した。
「ジジイの足腰を舐めるなよぉ!」
私は何とか孫を守ろうと一生懸命に走った。
何とか燃えていない家の前まで辿り着いた私は、孫を家の中に隠した。
「神様…どうにかこの子だけでも生かしてください…」
私は怯えている孫に精一杯の笑顔を見せて、魔物の前へと戻った。
「さぁ!私を捕まえられるかな!?」
私はそう言って走った。囮作戦だ。
成功率は低いだろうが、私が思いつけたのはそれくらいだった。
しかし魔物達はこちらを追いはしなかった。
魔物は孫を隠した家に寄っていく。
「ま、待て!そこはダメだ…」
魔物は家の中を見渡し、家を揺らし始めた。
「や、やめろ…やめてくれ…」
孫は泣きだし、魔物は一層強く家を揺らした。
「誰か…」
私は人生で一番の大声を出した。
「助けてくれぇー!!!!」
私の声が響き渡り、家が崩れた。辺りに血の臭いが広がる。
私は泣いた。
おんおんとそれはもう豪快に。
その後に、声が聞こえてきた。
「間一髪だったな、爺さん!」
いつからそこにいたのかは分からない。
私が顔をあげると、そこには孫を抱えて仁王立つ
冒険者がいた。
私の中に眠っていた
憧れと言う名の感情が
目を覚ました。