出会い
高校を卒業して、はや一週間。大学通学するための車を決めた。三分の二は両親の負担で、その他は俺のバイトの貯金で一括で買うことになった。ありがたい。
全ての手続きを終え、早速ひと走り行こうかとエンジンをかけると、
『はじめまして!これからよろしくお願いします!早速、初めてのドライブですね?そうですね~。近いですし、海行きましょう!』
と、ナビがノリノリみたいな感じで喋った。
「・・・なんだこれ。」
本当になんだこれ。ナビってこんなおしゃべりなの?普通、『こんにちは。』とか『こんばんは。』とかじゃないの?
『なんだこれじゃないですよ~。それより速くアクセル踏んでドライブしましょうよ!あ、でも安全運転でお願いしますね?』
俺の言葉に反応してるだと。これだと、会話できそうだよな。ん?会話って、
「あ。」
思い出した。両親が嫌がらせ半分で最新の変な高性能ナビをつけてくれやがったんだ。
最近のナビは高性能で、自動学習やらなんやらで人工知能が搭載されていて、その中でもこのナビはボッチでも寂しくない会話できるやつだったんだっけ。
・・・感謝させたいんだか、嫌われたいんだかどっちかにしてほしい。
『なに一人で考えこみはじめたと思ったら、急に声あげたりしてるんですか~。少し気持ち悪いですよ?速く出発しましょう?』
「うるせえ。言われなくても出発するよ。」
そう言って、とりあえず目的地を決めずに、俺の新車を走り始めさせる。おお、ちゃんと自分の車を自分でうごかせて・・・
『あ!やっと反応らしい反応を示してくれました!いや~私の声が聞こえていないのかと思いました。さあ、行きましょう!』
俺の感動を遮って、そんなことを言ってきた。こいつ、いちいち腹立つ言い方するんだよなあ。はあ、もう感動とかどうでもいいや。それより、これから毎日この車に乗らなきゃいけないのに、ナビのせいで先が思いやられる。
そんな俺の内心に気にせず、ナビは、
『どこに行くんですか~?』
呑気にそんなことを言ってくる。もう、なんというか、
「・・・うぜえ。」
そんな、俺が漏らした独り言に対して、
『はい?なんて言ったんですか?』
そんな反応してきた。
その反応で、俺は、
「うぜえって言ったんだよ!煽ってんのか!」
『は、はい。すいませんでした・・・。』
つい、怒鳴ってしまった。怒鳴ってすぐにはっとする。なにナビに対してキレてんだ俺。はあ、俺は昔から何に対してもキレるし、沸点が低いのが欠点なんだよなあ。はあ、空気が重くなってしまった。
そしてそんなやり取りをしてる内に大通りで結構長めの渋滞に引っかかる。
「・・・。」
『・・・。』
気まずい。なんで急に黙るんだよ。なんで人工知能相手に気まずくなんなきゃいけないんだよ。ていうか、なんで人工知能のくせにこんな人間みたいな反応示すんだよ。
「・・・。」
『・・・。』
非常に気まずい。とりあえず試しに謝ってみるか。勘違いするな。これは動作確認だ。決して、だんだん申し訳なくなってきたから謝る訳ではない。
そんな、脳内で誰に向けてでもない言い訳をしながら、ナビに話しかけてみた。
「・・・な、なあ?」
『・・・はい、なんですか?』
「さっきは悪い。つい、怒鳴って。」
『いえ、大丈夫です。私が初めてたちあげてもらえて嬉しくてついいつも通り調子に載っちゃったので。』
「そうか。」
なんなんだよ!なんで、人工知能のくせに人間らしく哀愁漂う感じに返して来るんだよ。
また、空気が重くなる前に何か話さなければ。
「なあ?」
『はい。」
「自己紹介とかした方が良いのか?その、せっかく会話できる訳だし。やりにくいから。」
『そうですね!お互いを知っておいた方が案内とかするときもやりやすいですし。』
「じゃ、俺から。まあ当たり前だが、この車の持ち主だ。名前は、名取光太郎だ。大学通学のためにこの車を買った。」
『私は、特に名前はありませんが、テスターさんからナナと呼ばれていました。私を呼ぶときは、そう呼ばれるのが馴れているので、できればそう呼んでください!そして、私は会話できるナビなので、道の案内は全部任せてください!』
「お、おう、そう呼ばせて頂くし、そうさせて頂く。」
というか、道の案内が駄目なナビがあったら、駄目だろ。
そういえば、さっきまで混乱してたので気にならなかったが、声優並に声が良いし、機械音声っぽくないな。
『あと、この機種はいろいろと機能があるのですが、その関連の質問はありますか?私についてでもいいですよ!』
「じゃあ早速質問、さっきいつも通りって言っていたが、いつもってどういう事だ?あと、テスターっていうのは?」
『私達は、なるべく人間らしく会話できるように、テスターという人が一ヶ月間私達と会話等をして、ひとつひとつの個体に個性が生まれるようにしているんです。なので人間と同じように接していいですよ。テスターというのは、私達が開発された会社の社員の知人などです。』
「へえ~、手間がかかってるんだな。やりにくかったら口調を最初みたいにしてもいいぞ。」
なんで人工知能に気を使わ・・・ってもういいか。
『あ、はい。』
「・・・。」
『・・・。』
まずい。話す事がなくなった。くそ、渋滞長すぎだろ。ああ、今まで非リア人生を送ってきたから会話のきりだし方とかわからねえよ。
『どこ、行くんですか?』
「い、今のところ目的地はないんだが、どっか行きたいところあるか?って、ナナに聞くのも少しおかしいような気もするけど。」
『私は、どこ行っても嬉しいですけど。仕方ないですね、決めてあげましょう!』
さっきから上から目線だったり真面目になっていたり、キャラがぶれていて、結局こいつはどういうキャラでいきたいんだ・・・。まあ、人間もそんな感じか。知らないけど。
『そうですねぇ・・・では、最初に言った通り海に行きましょう!ちょうど良い感じの距離なので。道案内は私に任して下さい!』
「よし、そうするか。といってもまずこの渋滞を抜けなきゃだな。」
『ですね!』