2 彼女は由奈
ちなみに私は彼女の事を知っていたので、彼女の方に向き直ってこう言った。
「由奈ちゃん♪久し振り!」
そして彼女の元に駆け寄る私。
彼女の名前は舞川由奈。
私と同じ中学出身で、三年間ずっと一緒のクラスだった。
由奈ちゃんは明るくて純粋で裏表がなくて、何よりとにかく可愛らしい!
背が高くて力も強くてやたら男らしいと言われる私と違い、
由奈ちゃんはちっちゃくてほわほわしてて、思わず守ってあげたくなるような女の子なのだ。
だから私は由奈ちゃんに、友情以上の強い憧れを抱いていた。
そんな由奈ちゃんとまた同じ学校に通えるなんて、私は何て幸せ者だろう。
そう思っていると由奈ちゃんはニッコリ笑ってこう続けた。
「また同じ学校になれたね。これからもよろしくね」
「うんっ、よろしくね」
そう言って満面の笑みを浮かべる私。
すると由奈ちゃんは不思議そうに私の足元を見て言った。
「ところでしぃちゃん、何でスリッパを履いてるの?登校初日でウッカリしてたの?」
「ち、違うよっ!これには色々と、訳があって・・・・・・」
そう言って私が口ごもると、綾芽が間に入って来て由奈ちゃんに言った。
「初めまして!私は花巻綾芽といいます!
実は詩琴さんは今朝野良犬に靴を持って行かれてしまったので、
私のスリッパを貸してあげたんですよ!」
「へ、へぇ、そうなんだ。あ、私は舞川由奈。よろしくね、花巻さん」
「綾芽とお呼びください。私もあなたの事をゆなっちさんとお呼びしますので」と綾芽。
おのれ綾芽の奴、由奈ちゃんとそんなに気安く打ち解けるんじゃないわよ。
そう思った私は、綾芽の肩をグイッと掴んで言った。
「ちょっとあんた、初対面の子をニックネームで呼ぶなんてなれなれしいんじゃないの?」
すると由奈ちゃんがニッコリ微笑んで口を挟む。
「そんなの全然気にしないよ。それにしぃちゃんと仲良しのお友達なら、私も仲良くなりたいし」
「はあぁっ⁉私とこいつは全然仲良しじゃないよ!そもそも今日初めて会ったばかりだし!」
「でもお揃いのスリッパを履いてるじゃない。竹馬の友ならぬスリッパの友だね♪」
ガーン⁉
由奈ちゃんの言葉に多大なショックを受ける私。
な、何て事。
私は由奈ちゃんと仲良くさえできればそれでいいのに、
その由奈ちゃんに綾芽との仲を誤解されるなんて・・・・・・。
そう思いながらガックリうなだれていると、そんな私の背中をポンポンと叩きながら綾芽が言った。
「いやあ、やっぱり第三者の目から見ても、私達の仲良しぶりは分かっちゃうんですね、しぃちゃん♪」
ブチッ。
その言葉に私のカンニン袋の緒が切れ、私は綾芽の胸ぐらを掴んで声を荒げた。
「あんたいい加減にしなさいよ⁉私の事をしぃちゃんって呼んでいいのは由奈ちゃんだけなんだからね!」
「ひぃいっ!ご、ごめんなさい!」
綾芽は怯えた口調でそう言うと、一目散に校舎へ向かって逃げて行った。
「何もあんな言い方しなくても。綾芽ちゃん可愛そう・・・・・・」
由奈ちゃんは憐れむような口調でそう言ったが、私は首を横に振ってこう返す。
「可愛そうなんかじゃないよ。
ああいうタイプは甘やかすとすぐ調子に乗るんだから、あれくらい言ってやらないと」
「そんなに悪い子じゃないと思うけどなぁ。きっといい子だよ」
「いい子なのは由奈ちゃんだよ。
そんなに簡単に人を信じたりしたら、裏切られた時に辛い思いをしなきゃいけないよ?」
そう言って視線を落とす私。
すると由奈ちゃんはそんな私の顔をズイッと覗きこんで言った。
「しぃちゃん、何かあったの?何だか元気ないよ?」
「えっ⁉そ、そんな事ないよ?」
私は慌てて取り繕おうとしたが、由奈ちゃんは真剣な目でこう続けた。
「そんな事ない事ないでしょ?もう何年も友達なんだから、それくらい分かるよ」
「由奈ちゃん・・・・・・」
この子は普段はおっとりぽわぽわした感じだけど、こういう事にはとてもカンが鋭い。
なので私はひとつ息をつき、観念した口調で言った。
「分かった、始業式が終わってから話すよ」
「うん、聞かせてね。悩み事は一人で抱え込むのが一番良くないから」
そう言って再びニッコリ微笑む由奈ちゃん。
それに釣られて私もフッと笑った。
由奈ちゃんにはかなわない。
それと同時に、彼女と友達で本当に良かったと思った。
するとそんな中、校舎のチャイムが学校中に鳴り響いた。
「わ、いけない!急がないと始業式に遅れちゃう!行こうしぃちゃん!」
「うん、そうだね」
そう言って私と由奈ちゃんは、校舎へ向かって走り出す。
と、その時私は、ふと誰かの視線を感じて顔を上げた。
すると校舎の二階の窓から、見知らぬ女子生徒が私の事を眺めているのが目に入った。
が、その女子生徒はそんな私に気付いたのか、すぐにカーテンの陰に隠れてしまった。
遠いので顔までは分からなかったけど、確かに私の事を見てたよね?
それとも私の想い過ごし?
でも今はそんな事を気にしてる場合じゃない。
早く始業式に行かないと。
そう思い直した私は、由奈ちゃんと一緒に校舎へ駆けて行った。