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シティーガールハンター  作者: 椎家 友妻
第一話 災厄の朝
7/40

7 お礼はスリッパで

 そして彼女はあっという間に食パンを平らげ、私にペコリと頭を下げてこう言った。

 「どうもありがとうございました。涙が出るほどおいしかったです」

 「大げさねぇ。たかが食パン一枚くらいで」

 「いえいえ、こんなまともな朝ごはんを食べたのは久し振りなんで」

 「そ、そうなの?」

 この子、普段家でまともな物を食べさせてもらってないの?

親が共働きだから?

 とか考えていると、彼女は私の足元を見て言った。

 「あれ?どうして靴を履いてらっしゃらないんですか?靴下が土まみれじゃないですか」

 「あ、これは・・・・・・」

 そうだ、私はあの男達から逃げる為に、靴も履かずに飛び出してきたんだった。

でも初対面のこの子にそんな事を告白する訳にもいかないので、苦笑いしながらこう答えた。

 「いやあ、実はさっきそこで、野良犬に持って行かれちゃったのよ」

 我ながら苦しい言い訳だったけど、彼女はそれを疑うでもなくこう言った。

 「あ、そういう事でしたら、食パンをいただいたお礼に、このスリッパを差し上げましょう」

 「えぇっ⁉い、いいわよそんなの!そんな事したらあなたの履く物がなくなるでしょう?」

 「大丈夫です!ちゃんと予備のスリッパも用意してますから!」

 「何で予備があるのよ⁉そんなの用意する暇があるなら普通の靴を履いて来なさいよ!」

 「今朝はもう、スリッパの事しか頭になかったんで」

 「そんな状態になる事ある⁉」

 「まあまあ、結構履き心地のいいスリッパですから」

 「そういう問題じゃないんだけど・・・・・・」

 という訳で私は、半ば強引にスリッパを履くハメになってしまった。

 スリッパはスッポリ私の足におさまったけど、やっぱりどうにも違和感があった。

主に見た目が。

 するとそんなスリッパ姿の私を見て、彼女は嬉々(きき)とした口調で言った。

 「わぁ~っ、とってもよく似合ってますよ♪」

 「ゴメン、全然嬉しくない・・・・・・」

 「これで私達、(れっき)としたスリッパ友達ですね!」

 「何よその変な友達のカテゴリーは⁉私は別にあなたと友達になる気なんかないわよ⁉」

 「あ、そういえば自己紹介がまだでしたね」

 「聞きなさいよ!」

 「私は今年から私立四邸阪田高校に通う事になった、花巻(はなまき)(あや)()、十五歳です。

さあ、そんな私とスリッパ友になった、あなたのお名前を教えてください」

 そう言って私にズズイッと詰め寄って来る彼女、綾芽。

その迫力に気押された私は、頭をポリポリかきながら言った。

 「私は習志野(ならしの)()(こと)。あなたと同じく今年からシテ高に通う事になった十五歳よ」

 すると綾芽は私の両手をギュッと握ってこう続けた。

 「うわぁ、何か運命的なものを感じますねぇ。これからスリ友として仲良くしましょうね」

 「スリッパで学校に行くのはこれが最初で最後だけどね」

 かくして私の高校生活の初日の朝は、

家族が夜逃げし、

住んでいたマンションを追われ、

奇抜(きばつ)な同い年の女子と知り合うという出来事で幕を開けた。

何かもう、十年分くらいの神経をすり減らした気分だ。

私はこれから、ちゃんとした高校生活を送れるの?

ていうか、ちゃんとした人生を送れるの?



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