6 どこから出したか200トン
それを見た私は痛むわき腹を押さえ、急いで事務所を出て一階へ降りた。
そしてビルの外へ出ると、目に涙を浮かべた由奈ちゃんが、
「しぃちゃーん!」
と声を上げながらこっちに駆け寄って来て、そのまま私に抱きついた。
「しぃちゃん、怖かったよぅ。しぃちゃあん」
「よしよし、もう大丈夫だよ」
泣きじゃくる由奈ちゃんの頭を、私はそう言って優しくなでた。
するとそんな私に、綾芽がガバッと抱きついて来てこう言った。
「詩琴さ~ん♪私も怖かったですぅ~♡」
「どこがよ⁉屈強な男どもをガンガンぶっ飛ばしてたじゃないの!」
「えへへ~、それほどでも~」
私の言葉にデレ~ッと表情をくずす綾芽。
そのだらしない顔つきは、完全にいつもの綾芽のそれだった。
そんな綾芽に、由奈ちゃんは顔を上げて言った。
「綾芽ちゃん、助けてくれてありがとう。綾芽ちゃんってすっごく強いんだね」
「うふふ~ん♪それほどでもありますよ~♪
あ、でも、この事は他の人達には内緒にしてくださいね?
私がシティーガールハンターだっていう事が公になっちゃうと、色々面倒なので」
「うん、分かった」
綾芽の言葉にニッコリ微笑んで答える由奈ちゃん。
すると綾芽は私にも言った。
「しぃちゃんも、よろしくお願いしますね?」
「分かったわよ。言わないわよ」
何かさりげなく私の事をしぃちゃんとか呼んでるけど、ま、いっか。
ところであそこに停まってるリムジン、何処かで見た事があるような?
とか思いながら眺めていると、その後部席のドアが開き、そこから園真会長が現れた。
そうか、あのリムジンは園真会長のだった。
きっと何だかんだ言いながら私達を助けに来てくれたんだ。
その園真会長は、ゆっくりとした足取りで私達の元へ歩み寄って来た。
その会長に私は言った。
「ありがとうございます園真会長。由奈ちゃんが連れ去られるのを阻止してくれて」
しかし会長はすこぶる機嫌が悪そうな様子でこう言った。
「別にその為に来たんじゃないわ。
私は単に、オシオキの途中で逃げ出した綾芽を連れ戻しに来ただけよ」
するとそれを聞いた綾芽が両手をバタバタ動かしながら言った。
「ま、待ってください!私は別に逃げた訳じゃなくて、
詩琴さんのボディーガードとしてここに来ただけですよ⁉」
「言いたい事はそれだけかしら?」
園真会長はそう言うと、一体何処から出したのか、
『200t』と書かれた巨大なハンマーを両手で振り上げた。
「ひぇええっ!」
それを見た綾芽は踵を返して一目散に逃げ出した。
すると園真会長は綾芽目がけてその200tハンマーをブン投げ、
それが綾芽の後頭部にゴチィン!と直撃した。
「きゃいぃん!」
犬のような悲鳴を上げ、その場につんのめる綾芽。
それを見届けた園真会長は、私と由奈ちゃんの肩に手を置いて行った。
「さ、それじゃあ帰るわよ」
「え、でも、いいんですか?綾芽とか、黒丸金融の人達とか・・・・・・」
私の問いかけに、園真会長は事もなげにこう答える。
「いいのよ。綾芽はあの程度で死なないし、置いて行っても走って帰って来るわ。
それにさっき警察に通報しておいたから、黒丸金融の人間は警察が何とかするでしょ」
そして私達はリムジンに向かって歩き出した。
とりあえず、これで一件落着という事でいいんだろうか?
でもイマイチ心の底から喜べないのは何故だろう?
何となく、嫌な予感がする。
でもまあ由奈ちゃんも無事に助けられたし、これは大いに喜ぶ事なんだろう。
リムジンの後部席に乗り込むと、車はゆっくりと走り出した。
するとそんなリムジンの後ろを、綾芽が必死な表情で追いかけてきた。
「ま、待ってくださいよぉ!私を置いて行かないでください!」
すると園真会長が窓を開け、そんな綾芽にこう言った。
「これもオシオキよ!あなたは事務所まで走って帰って来なさい!」
「そんなぁ~」
泣きそうな声を上げる綾芽を見て、さも愉快そうな笑みを浮かべる園真会長。
この人ってつくづくドSなんだな。
そう思いながらも、私も思わず笑ってしまった。
空に綺麗な月が浮かんでいる。
そんな夜空の下、黒のリムジンは街の中を走り抜けて行った。




