1 園真况乃は動かない
「ふぅ~ん、そうなの」
園真探偵事務所で、私から事のあらましを聞いた園真会長は、
自分の爪をヤスリで手入れしながらそう答えた。
が、それ以上は何も言わず、自分の爪の手入れに専念している。
なので私は机を両手で叩いて声を荒げた。
「そうなのって、それだけですか⁉私の友達がさらわれちゃったんですよ⁉」
しかし園真会長は爪の先をフッと吹いてこう返す。
「それだけよ。それ以上何だって言うの?」
「彼女は私と間違えられてさらわれたんですよ!
あの黒スーツの男も、黒丸金融の人間に違いありません!」
「確かに、下校途中のあなたを誘拐しようとして、
たまたま一緒に居た友達がさらわれてしまった可能性は高いわ。
それで、私にどうしろっての?」
「私の友達を、助けてください!」
私は深深と頭を下げて言った。
でも、それに対する園真会長の答えはこうだった。
「お断りよ」
「何でですか⁉彼女は、由奈ちゃんは私の代わりにさらわれたんですよ⁉」
「私が依頼を受けたのはあなたのボディーガードであって、あなたの友達のボディーガードじゃないわ」
「でも、このままじゃあ由奈ちゃんは・・・・・・」
「そうね、海外に売り飛ばされるかもしれないわね。あなた(・・・)の(・)代わり(・・・)に(・)」
「くっ・・・・・・」
園真会長の言葉に、私は拳を握って歯を食いしばった。
私のせいだ。
私が由奈ちゃんの誘いを断っていれば、こんな事にならずに済んだのに・・・・・・。
そう思いながら肩を震わせていると、園真会長は私の肩に手を置いて、優しい口調でこう言った。
「あえて言うけど、こうなったのは全部あなたのせいだからね?
あなたが綾芽と離れて学校を出たりしたから、あなたの友達がさらわれるハメになっちゃったのよ?
分かってる?完全にあなたのせいなんだからね?」
「分かってますよ!何でそんなに私を追い詰めるんですか⁉」
「私、人の落ち度を突いて徹底的に追い詰めるのが大好きなのよ」
「鬼かっ!」
「で、どうするの?私はあなたの友達を助ける為には動かないわよ?もちろん綾芽もね」
「じゃ、じゃあ今すぐ警察に通報して──────」
「証拠を固めて強制捜査に踏み切る前に、友達は海外に売り飛ばされるでしょうね」
「ぐぬぬ・・・・・・」
じゃあもう、このままここでじっとしてるしかないの?
由奈ちゃんを見捨てるしかないの?
そんなの、そんなの・・・・・・。
そんなの絶対嫌だ!
そう思った私は、園真会長をまっすぐ見据えてこう叫んだ。
「私、由奈ちゃんを助けに行きます!」
それに対して園真会長は、表情を変える事なくこう返す。
「助けに行く?まさか黒丸金融の事務所に乗り込む気?」
「そうです!」
私がキッパリ言い放つと、園真会長は頭をかきながらこう続けた。
「言っておくけど、自分から危険な目にあおうとする人間をボディーガードするつもりはないわよ。
それは私達の仕事の範囲外。
だから黒丸金融に乗り込むなら、あなた一人で行きなさい。
それでも行くの?」
「行きます!行って私と引き換えに、由奈ちゃんを解放してもらいます!」
「向こうがその取引に応じるかどうかは分からないわよ?
下手をすれば、二人とも捕まっちゃうかも」
「それでも行きます!ここでじっとしているよりはるかにマシです!」
「はぁ~、大した馬鹿ね、あなた」
園真会長は心底呆れた口調でそう言うと、机の引き出しから一枚の紙切れを取り出し、
それを私に差し出して言った。
「これが黒丸金融への地図よ。あなたの友達は、恐らくここに居る。
ビルの駐輪場に自転車があるから、それを使って行くといいわ」
「分かりました。ありがとうございます!」
私はそう言って園真会長から地図を受け取ると、ふとある事に気付き、それを会長に尋ねた。
「そういえば綾芽の姿が見えないんですけど、何処に行ったんですか?」
すると園真会長は事もなげにこう答えた。
「ああ、今日学校でまた変なお面をかぶって暴れたから、
罰としてビルの屋上からロープで逆さ吊りにしているの」
「そ、そうなんですか・・・・・・」
この人ホントに鬼だな。
と思いつつ、私は
「とにかく私、行って来ます!」
と言って事務所の入口から飛び出した。
「せめてあなたが死なないように祈っててあげるわ」
背後から聞こえた園真会長の言葉に
「ありがとうございます!」
と答え、私は一目散にビルの階段を駆け降りたのだった。




