6 園真探偵事務所は、ゴキブリ退治も引き受けます
という訳で私達は、人気のない体育館裏へとやって来た。
そしてそこにたどり着くなり、園真会長は綾芽に言った。
「綾芽あんた、どうして昨日は事務所に帰って来なかったのよ?」
それに対して綾芽は、口をとがらせながらこう返す。
「私、あなたみたいな怖い人が居る事務所には帰りたくありません」
すると会長は綾芽の口を左右にグニーンとひっぱりながら言った。
「もう一度言ってみなさい」
それに対して綾芽。
「あひゃひ(あたし)、あひゃひゃみひゃいはひょわいひひょひゃ(あなたみたいなこわいひとが)いる(いる)ひうひょひひゃ(じむしょには)ひゃえひひゃふひゃひあ(かえりたくありま)へん(せん)!」
そして綾芽も園真会長の口を左右にグニーンと引っ張り、尚も二人の言い争いは続いた。
「ひゃにひょ(なによ)!ひょっひょひゃふっひゃひゃへ(ちょっとなぐっただけ)ひゃひゃひひょひょ(じゃないのよ)!」
「ひょっひょひゃひゃ(ちょっとじゃな)ひ(い)へ(で)ひょ(しょ)!ひゅっひょひゅいひゃひゃっひゃんへひゅひゃひゃ(すっごくいたかったんですから)!」
「ひょひょへいひょひょひょひょひぇほひゃほひゃひゅうんひゃひゃひひゃよ!」
「ひょへひゃひょひゃひゃひひゃまひゃひゃひへひゅひゃ!」
「ひゅひゅひゃひひゃへ!」
「ひょへひゃひょっひひょひぇひふひぇふ!」
もう何が何だかさっぱり分からない。
とりあえずこのままではいけないので、私は二人の間に割って入った。
「二人とも落ち着いて!喧嘩は駄目ですよ!」
すると二人は互いに手を離し、プイッとそっぽを向いて捨て台詞を吐き合った。
「フン、まあ今日の所はこれくらいで許してあげるわ」
「それはこっちのセリフです。これ以上やったら私も本気を出しちゃいますから」
「あ、あはは・・・・・・」
そんな二人の間に挟まれ、私は苦笑いを浮かべるしかなかった。
するとそんな中、園真会長が背中を向けたまま口を開いた。
「綾芽、次の仕事が入ったわよ」
それに対して綾芽も背中を向けたままこう返す。
「次は何ですか?もうこの前みたいな仕事は嫌ですからね」
「この前って、どんな仕事をしたの?」
私が尋ねると、綾芽は不機嫌な口調で答えた。
「ゴキブリ退治」
「は?ゴキブリ?」
「あるアパートのゴミ置き場にで大量発生したゴキブリを根こそぎ駆除するっていう依頼を况乃さんが勝手に引き受けて、私がそれを担当する事に・・・・・・」
「え、園真会長の事務所って、そんな事までやるんですか?」
私が目を丸くしながらそう言うと、園真会長は銀色の髪をファサッとかきあげ、誇らしげにこう言った。
「園真探偵時事務所は、お客様のどんな依頼も引き受けて解決するのがモットーなのよ」
「その依頼を解決しなきゃいけないのは私ですけどね!」と綾芽。
すると園真会長はプッと吹き出してこう続けた。
「プッ、この前のゴキブリまみれになった綾芽の姿は最高にゾクゾクしたわよ」
それを聞いた綾芽は会長の方に向き直って声を荒げた。
「この鬼!悪魔!」
確かにその通りだなと納得していると、園真会長は何ら悪びれる様子もなく言った。
「まあ次の仕事はそんなんじゃないから安心しなさい」
「どうだか・・・・・・で?次は何の仕事なんですか?」
ふてくされながら尋ねる綾芽に、園真会長は私を指さしながら答えた。
「彼女のボディーガードをして欲しいの」
「へ?ボディーガード?詩琴さんの?」
目を丸くする綾芽に、園真会長は「そうよ」と頷いて続ける。
「習志野さんは今、両親が残した借金の肩代わりとして、借金取りに追われているの。
だから彼女を借金取りから守ってちょうだい」
「えぇっ⁉詩琴さんは借金取りに追われているんですかっ⁉」
「ええ、まあ、そうなの」
驚きの声を上げる綾芽に、私は頬をポリポリかきながら答える。
すると綾芽は私にズズイッと詰め寄ってこう続けた。
「と、いう事は、この前詩琴さんを襲ったあの大男も、その借金取りだったんですね!」
「いや、あの人はあんたのカン違いで鉄板をぶつけられただけの、ただの可愛そうな人」
「詩琴さん!誰にだってカン違いはありますよ!だから気にしないでください!」
「私がカン違いしたみたいに言うなよ」
「とにかく!そういう事なら私は命をかけて詩琴さんをお守りします!だからご安心を!」
「う~ん、そう言ってくれるのはありがたいけど、本当に大丈夫なの?」
「大丈夫ですよ!これでも私は今のクラスで
『鼻ちょうちんの綾芽』
と呼ばれて恐れられているんですから!」
「それは恐れられるというより馬鹿にされているんじゃないの?て
いうかあんたの通り名はシティーガールハンターなんでしょ?」
「ああ、最近はそうも呼ばれていますね。ちなみに和訳すると、
『街の、狩人少女』です。
『街の少女を、狩る者』
ではないのでお気を付け下さい」
「それなら『シティーハンターガール』が正しいんじゃないの?」
「それだと何となく本家へのリスペクト感が薄れてしまうので却下なんだそうです」
「誰が却下したのよ?」
等と話していると、園真会長は右手をヒラヒラ振りながら言った。
「ま、そういう訳だから後はよろしくね。私は用事があるからもう行くわ」
そして踵を返し、園真会長は校舎の方へ歩いて行った。
体育館裏にポツンと残された私と綾芽。
とりあえず私は改めて綾芽に聞いた。
「あんた、本当にボディーガードなんかできるの?正直物凄く不安なんだけど」
すると綾芽は少しムッとした様子で言った。
「失礼ですねぇ。大丈夫だって言ってるじゃないですか。
詩琴さんは私の何が不安だって言うんです?具体的に言ってみてください」
「えーと、具体的に言うと、あんたの全部が不安」
「まことでござるか一休殿⁉」
「何でそこでシンエモンさんになるの?」
「分かりました。詩琴さんがそこまで言うなら、
私がちゃんとボディーガードをできるっていうところを、詩琴さんにお見せいたします」
「見せるって、どうやって?」
「放課後、もう一度ここに来てください。そこで私のボディーガードとしての実力をお見せしますので」
綾芽はそう言うと、自信に満ちた表情でビン底眼鏡をクイッとかけ直した。
しかしそんな綾芽の自信に満ちた表情とは裏腹に、私の不安は膨らむ一方だった。




