6 春のスカウト祭り
翌日、私はシテ高の廊下を歩いていた。
向かう先は生徒会室。
今日は午前中で授業が終わったので、ホームルームが終わってからさっさと教室を出て来たのだ。
私は思い出した。
園真という名前を何処で見たのか。
それは昨日の始業式の舞台で挨拶をした、生徒会長の苗字だったのだ。
あの人の苗字を聞いた時も同じようなモヤモヤを感じたけど、それは園真探偵事務所の事だったのだ。
だからといってその生徒会長が園真探偵事務所の人間だと決まった訳じゃないけど、
事務所までの地図を前の家に置いてきてしまった以上、
とにかく一度園真会長に直接会って確かめるしか道は無い。
という訳で私は生徒会室に向かっている。
すると隣を歩く由奈ちゃんが話しかけてきた。
「じゃあこの学校の生徒会長さんが、しぃちゃんのお父さんがボディーガードを依頼した、
探偵事務所の人なの?」
「まだそうと決まった訳じゃないけどね。だから直接会って確かめたいの」
「もしかして会長さんが、そのシティーガールハンターだったりして」
「私のボディーガードをしてくれるっていう?」
「そうそう。きっと美人で強くてカッコ良くて、しぃちゃんを悪い人から守ってくれるんだよ。
そういうのって、あの会長さんがピッタリだと思わない?」
「昼は学校の生徒会長で、夜は正義のボディーガード。何だかマンガみたいな話だねぇ」
「何かワクワクしてきた♪ねぇねぇ、早く会長さんの所へ行こう?」
そう言って私の袖をグイグイ引っ張る由奈ちゃん。
これは完全に楽しんでるな。
まあここまできたらクヨクヨしても仕方ないし、私もいっそ楽しもうかな。
と思ったその時、私達の目の前に一人の女子生徒が現れた。
その女子生徒は細身で長身だったけど、園真会長ではなかった。
そして私の事をビシッと指差してこう言った。
「あなた、一年C組の習志野詩琴さんね?」
「え?はい、そうですけど、あなたは?」
私が目を丸くして問いかけると、その女子生徒は腕組みをしながら言った。
「私は女子バスケットボール部の部長を務める、三年の田沼という者よ」
「はあ、で、バスケ部の部長さんが、私に何の御用ですか?」
「フッ、そんなの決まってるわ。私はあなたをスカウトしに来たのよ。
我が女子バスケットボール部にね」
「ええ?でもクラブの仮入部とかは、もうちょっと先の話じゃないんですか?」
「そこまで待ってられないわ。あなたは背が高いし下半身もしっかり鍛えられている。
中学時代もバスケ部だったんでしょう?」
「いえ、中学時代は家庭科部でした」
「なるほど、確かにバスケと家庭科には、通ずるものがあるものね」
「そうですか⁉そんなの初めて聞きましたけど⁉」
「そういう訳だから習志野さん、バスケ部に入りなさい」
「どういう訳ですか⁉ていうか今の私は、部活をどこにするかとか悩んでる場合じゃないんですよ!」
「顔をボコボコに腫らして泣きながら『バスケが、やりたいです・・・・・・』って言いなさい」
「言わないですよ!何のバスケマンガですか!」
「聞き訳の無い子ね!」
「どっちがですか!」
と、私が声を荒げたその時、バスケ部の部長さんの背後からバレーボールを抱えた女子生徒が現れ、私にこう言った。
「あなたが習志野さんね?よかったらバレー部に入らない?」
「あ、いえ、私バレーボールは苦手なんで」
「嘘おっしゃい、その体格を見れば分かるわよ。あなたは中学時代バレーボールをやってたでしょ?」
「いえ、家庭科部でした」
「バレーも家庭科も似たようなものよね」
「全然違うでしょ!」
「だからバレー部に入って!」
「だから入らないって言ってるじゃないですか!」
「確かにバレーの練習はとても厳しくて辛いものだわ。
だけどそんな時は、この言葉を思い出すの。『でも、涙が出ちゃう。だって、ヘルニアだもん』」
「それを言うなら『女の子だもん』でしょ!ていうかヘルニアでバレーをやっちゃだめでしょ!」
「何よあなた!この分からずや!」
「それはあなたでしょ!」
と、私が声を荒げた時、バレー部の部長さんの背後から、今度は柔道着姿の女子生徒が現れてこう言った。
「やあ、あなたが柔道部に入部する事になった習志野さんだね?」
「何でもう入部する事になってるんですか⁉私は柔道部にも入らないですよ!」
「え?でも君、中学時代は柔道を──────」
「家庭科部です!」
「まあ、柔道も家庭科も同じ格闘技だし」
「同じじゃねーでしょ!家庭科の何処に格闘技の要素があるんですか⁉」
「ようこそ!柔道部へ!」
「だから入らないって言ってるでしょ!話を勝手に進めないでください!」
「どうして分かってくれないのよ⁉」
「それはこっちのセリフですよ!」
と私が声を荒げたその時、柔道部の部長さんの背後からソフトボールのユニフォームを着た女子生徒が、
「習志野さん、私達と一緒にソフトボールをやらない?」
と言って現れ、更にその背後からジャージを着た女子が
「習志野さん!陸上部に入って!」
と言って現れ、更にその背後からやたら背の高い女子生徒が、
「あなた背が高いわね、のっぽ部に入らない?」
と言って現れ、それからも次々と色んな部の人達が私をスカウトしに現れた。
「な、何か凄い人気だね、しぃちゃん」
もはや廊下を埋め尽くすほどに膨れ上がった部活のスカウトの人達を前に、由奈ちゃんはたじろぎながら言った。
ちなみにこういった事は中学に入学した時にも経験している。
どうも私の体格は周りの人からすると
『凄い運動能力の持ち主』
に見えるらしく、色んな運動部の人達がこぞって私をスカウトに来るのだ。
確かに私は子供のころから空手をやっていたから運動が苦手な訳じゃないけど、
かといって特定のスポーツが好きな訳じゃない。
だから中学の時も由奈ちゃんと一緒に家庭科部に入って、高校でもそうしようかと思っていたのだ。
しかし目の前の運動部の人達(一部そうじゃない人も居るけど)の目は、
何としても私をスカウトしてやろうという情熱に燃えていた。
さてどうしよう?
これだけの人数を相手に、話し合いでどうこうできるとは思えない。
となるとやっぱりここは逃げるしかないか。
でも私の隣には由奈ちゃんも居るし・・・・・・。
と、頭を悩ませていると、その由奈ちゃんが私に言った。
「しぃちゃん、ここは私に任せて逃げて」
「えっ?でも、由奈ちゃん一人を置いて行けないよ」
私はそう言ったが、由奈ちゃんはニコッと笑ってこう返す。
「大丈夫。私がここで時間を稼ぐから、しぃちゃんは別のルートから生徒会室まで行って」
「由奈ちゃん・・・・・・」
由奈ちゃんの言葉に胸がジ~ンと熱くなった私。
そして私は踵を返して由奈ちゃんに言った。
「ありがとう由奈ちゃん!私行くね!」
それに対して由奈ちゃん。
「うん、気をつけて。あと、逃げる時は絶対に後ろに振り向かないでね?」
「え?う、うん、分かった」
由奈ちゃんの言葉の意図が今ひとつ分からなかったけど、
とりあえず頷いた私は一目散に逃げ出した。
すると背後から、
「あっ!待ちなさい!」
「絶対に逃がさないわよ!」
という声が聞こえた。
当然運動部の人達は私を追いかけてくるだろう。
由奈ちゃんは時間を稼いでくれるって言ったけど、
一人であれだけの人数の運動部の人達を何とかするのは無理だ。
せめて怪我だけはしないでね、由奈ちゃん。
心の底からそう願いながら私は走った。
と、その時だった。
「うゎあああっ⁉」
「ぎゃあああっ!」
という運動部の人達の叫び声が聞こえた。
それはまるで、世にも恐ろしい化物にでも出くわしたかのような悲鳴だった。
え?これってもしかして、由奈ちゃんの仕業?
そう考えた私は思わず後ろに振り向きそうになったが、
さっきの由奈ちゃんの言葉を思い出し、それをグッとこらえた。
大切な友達との約束を破る訳にはいかない。
でも気になる。私の背後で由奈ちゃんが何をしているのか。
その思いを胸に押し込め、私は懸命に廊下を駆けて行った。




