1 何か違う
ピピピピ、
ピピピピ、
ピピピピ・・・・・・。
意識の遠くで、聞きなれたアラームが鳴り響いていた。
それがいつも私が使っている目覚まし時計のものだと分かるのに、そう時間はかからなかった。
私は布団にもぐったまま手を伸ばし、無機質に鳴り響く目覚ましのスイッチを押す。
するとカチッという音とともに、目覚ましのアラームはピタッと止まった。
朝。
カーテンの隙間から光が差し込み、それがちょうど私の顔をまぶしく照らしている。
「ん・・・・・・起きなきゃ・・・・・・」
そう呟いて上半身を起こす私。
いつもならあと五分の惰眠を貪りたいところだけど、今回はそうしている余裕はない。
何しろ今日は私が今年から通う事になった、私立四邸阪田高校の始業式の日なのだ。
登校初日くらいは早めに行かないとね。
それにしても。
何だろう?
今日は何だかいつもと違う。
いや、学校の始業式だからとかじゃなくて、朝起きた時の家の雰囲気が違うのだ。
私は2LDKの決して広いとは言えないマンションに住んでいる。
いつもなら朝起きると、隣のリビングからお父さんが見るニュース番組の音が聞こえてくるんだけど、今日はそれが聞こえない。
今日は早く仕事に行っちゃったのかな?
けどいつもならキッチンの方からお母さんが朝食を用意する音も聞こえるんだけど、それもない。
お母さんってば、今日に限って寝坊?
いや、違う。
そういう雰囲気じゃない。
うまく言えないけど、ここは昨日までの私の家とは、全く別の何かに変わってしまったような・・・・・・。
嫌な予感がした私は、ベッドから降りて早足で部屋の入口まで行き、
そこにある引き戸をガラッと開け放った。
そこにはいつものリビングとキッチンの光景があった。
でも、そこにはいつものお父さんとお母さんの姿はなかった。
物音は全くなく、人の気配もない。
二人とも何処に行ったんだろう?
胸がざわつく。
私はとりあえず家中を探して回った。
両親の部屋、トイレ、お風呂。
でも、二人の姿は何処にもなかった。
「二人とも、何処に行っちゃったんだろう?」
今日から二人で旅行に行くなんて事も言ってなかったし、
急用ができて二人で出て行ったとも考えにくい。
「まさか、夜逃げとか?」
そう言って苦笑する私。
いやいや、いくら何でもそれはないでしょ。
仮にそうだとしても、可愛い一人娘を置いて夜逃げする?
そんなの現実的にありえない。
そう思いながら私は、おもむろにリビングのテレビの電源を入れた。
するとテレビの画面に、いつもお父さんが見ているニュース番組が映し出された。
その画面には、最近若い女性が相次いで失踪するというニュースが流れていた。
私もその若い女性の部類に入るので、少し身の毛がよだつ感じがした。
と、その時だった。
私はキッチンのテーブルの上に、一通の封筒が置いてある事に気が付いた。
近くに歩み寄ってみると、その封筒に
『愛する詩琴へ』
という文字が書かれていた。
ちなみに詩琴は私の名前で、この字は私のお父さんの物だった。
「まさか、ね・・・・・・」
そう呟きながら、私は封筒の中に手を入れた。
そこには二枚の便せんが三つ折りになって入っていて、私はそれを恐る恐る開いた。