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ラスボスの物語  作者: 初心者です
3/5

三話

楽しんで読んでいただければ幸いです。

 村には凄い魔法使いが住んでいるらしい。 おれがまだ幼いときにそいつはドラゴンの背から飛び降りてきたんだって義父は言ってた。


 おれはそいつがとんでもなくおっかないやつだと思った。

 だって、ドラゴンにおれの親父はやられたんだ。 そんなドラゴンを乗り物にしてるなんて普通じゃない。


 ドラゴンの声はここまで届くし、おれの親父が帰ってこなくなった日はドラゴンの声が聞こえてた。 だから村のみんなで逃げる準備をしたんだ。 運良くこっちにはこなかったみたいだけど、また次いつやってくるかわからない。 昔は国があって、ドラゴンたちはほとんどいなかったって話を聞いたけど、とても信じられるものではなかった。


 ある日から、よくドラゴンの肉が食卓に並ぶようになった。 角や鱗も飾り物としてそこらで見かける。 あの怖い魔法使いがドラゴンの死体を持ってくるからだ。

 村は平和になったけど、おれの親父は帰ってこない。 もっと早く村に来てくれればよかったのに。 そう思ったけど、もう親父は死んじまった。 だからおれは強くなって親父の仇をとろうと思った。


 おれが大人の仲間入りをするころに、とても大きなドラゴンがやってきた。 それはとても黒くて、全身から禍々しさを放っていた。


 そのドラゴンを見ると、心臓がとても苦しくなって、立っているのもつらかった。 こんなの倒せるはずがないと仇を取るのを諦めて、すぐに逃げようと思うと、怖い魔法使いを見つけた。

 そいつは明らかに危険だとわかる剣を見せびらかすように掲げると、そのまま振り下ろした。


 すると、あれだけ怖かったドラゴンは真っ二つに切られていた。 おれはそのことが信じられなくて、ついその魔法使いに話しかけていた。

 もう諦めた夢を、おれはそいつに言っていた。

 そして、あいつは邪悪そうに笑いながら弟子にしてくれた。


 それからはつらい日々だった。

 とてつもない魔力の籠った食べ物を食べれなくなるまで食わせられ、あいつに無理やり魔力を放出させられたりした。

 ヤバそうな剣を強引に持たせられ、全身から血を噴いたこともあった。

 何度も諦めたくなったが、悪いことだけではなかった。


 倒れているおれに、アナベラは水を渡し、励ましてくれた。 そのときの笑顔は魅力的で、つい素っ気なくしてしまった。 おれはそのことをすぐに後悔したが、気にしてないようで安心した。


 それから少しして、おれはアナベラに惚れていた。 何度も告白したが、受け入れてはくれなかった。

 それもそのはずで、アナベラはあいつが好きなようだった。 訳がわからない。

 あいつは邪悪だ。

 いつも近くにいるならわかるはずだ。


 おれたちにはあの何の感情も籠ってない目を向けないし、とても優しいが、それ以上にとても怖いことを知っている。

 残忍で加虐趣味で破壊をよく行い、そしてとても強大な力を持っていること。


 おれは何度もやめておけと説得した。

 だけどアナベラはそれでも好きだから、と諦めてはくれなかった。 だから、おれはドラゴンを倒すためではなく、あいつを倒すための力を求めた。 あいつがその力をアナベラに向けたときに守れるように、と。


 だけど、いつまで経っても勝てる気がしなかった。

 あいつの作った剣を使えるようになったし、ドラゴンだって素手で倒せるようになった。

 それでも、勝てる気は微塵も起きなかった。


 だからおれは旅に出ることにした。 ここで鍛えていても、強くはなれてもあいつには勝てない。 正攻法では勝てないとわかったからだ。


 世界には以前はいくつも国があったという。 そこには多くの人種がいて、多くの知識と怪物がいたと聞いた。

 おれはそこで、一人で勝てないなら強いやつらに協力してもらえばいいと思った。 そして、それを集めるために旅に出ることにした。



―――――



旅は難航していた。

進めばどこかしらで怪物が争いあっている。 それに巻き込まれればやられはしないが魔力と体力を消耗してしまう。 消耗した状態で生きられるほど怪物達は甘くない。

すぐにこちらが食い物にされてしまうだろう。


俺はそのことに注意しながら、砂漠となっている大地を進む。 あいつから貰ったローブのおかげで姿と魔力を隠せている。 そのことに感謝しながら呆れた。


……本当に何者なのだろうか。


黒い髪に黒い目、そして見てるだけで正気を失いそうになる真っ黒な魔力。 本人の性格も合わさって、とんでもない邪悪な何かに思えてくる。

それに比べれば、今目の前で争っているこいつらは随分とかわいく思えてくる。


そう考えると、ふと随分と遠くに来たものだと思う。

前まで村でドラゴンを倒すのが夢だったのに、今ではかわいいとすら思った。

それもこれもあいつに毒されたのだろうと、ひそかに恨んだ。



―――――



初めて知った外の世界は、想像していたよりも酷いものだった。 そこらに死体が転がり、家や家具の残骸に、人だったものの骨。


これでも結構歩いてきたが、いまだに生きている人に会ったことはない。 こんな環境だ。 そもそも見つからないようにしているのかもしれない。


あいつはどうやって見つけたんだ…? 確かドラゴンに乗ってきたんだったか? そんなことしたら空中で的になる。 魔物はまだどうにかなるが、魔獣は…いや、逃げに徹すればそう簡単にはやられない。 俺の剣があれば距離は関係ない。 この魔剣で一撃で仕留めればそこまで魔力の消費はない。


やってやろう、俺はそう決意しニヤリと笑う。


死ぬかもしれない。 だけど、それ以上にここで諦めて何も出来ずに終わる方が嫌だった。


俺は近くに落ちている石を拾うと魔力を込め、ちょうど近くを飛んでいるドラゴン目掛けて投げると同時に走り出す。

石は光速で飛んでいき、胴を撃ち抜いた。

ドラゴンは悲鳴を上げ、すぐに俺を睨むが俺は既に頭の近くまで移動しており、そのまま魔力で洗脳を始めていた。


ドラゴンはすぐにブレスを吐こうとするが、俺がドラゴンの眼を剣で斬るとそれはあさっての方向へと飛んでいく。 そのまま抵抗を続けようとするが、だんだんと大人しくなり、ついには動かなくなった。


やはりあいつの魔法擬きの効果は絶大だ。 ほとんどは役に立たないが、これの使いやすさは別格に感じる。

俺はそいつの傷を治すと上に飛び乗った。

どこか感慨深さを感じると、俺はすぐに飛び立つよう命令した。



―――



魔力が少ない場所では魔獣はもちろん魔物を見ることも少なくなった。 少し気を楽にして風を感じていると、何かおかしな魔力を感じた。

それの跡を辿ると城壁に囲まれた街が見えてきた。


俺はグッと握りこぶしを作ると、ドラゴンを少し離れた場所に降ろした。

どこかの魔法使いとは違うのだ。


街に近づくと、強い魔力を持った一人の人狼族が近づいてくるのが見えた。

その男は面持ちは冷静で、攻撃的な魔力がなければ安心して話しかけれたかもしれない。


「ここには何の用で来たんだ?」


「俺は一緒に戦ってくれる強いやつを探しに来た」


「それなら残念だが、ここに強いやつはいない。 無駄足だったな」

「そんなことはない。 ここまで来るまで誰も見かけなかった。 見つけれただけで無駄足ではない。 それに、俺はお前がなかなか強そうに見えるがこれは気のせいか?」


「ああ、気の所為だな。 他をあたるといい」


「そうだな、俺の見間違いだったらしい。 どうやらここには臆病者しかいないみたいだ。 クククっ、臆病者に一緒に戦えと言うのも無理があったな。 すまない。 俺は他をあたることにする」


俺が嘲りながらそう言うと、男から冷静な様子がなくなり、強い殺気を向けられる。


「…待てよ。 ここまでコケにしたんだ。 殺される覚悟は出来ているだろうな?」


「コケにした? まさか! 俺は本当のことを言ってやっただけだろう?」


「上等だぁ! ぶっ殺してやるよ!」


男が地面を蹴ると、すぐ目前まで爪が迫っていた。 俺はそれをしゃがむことで避けると、そいつに蹴りを放つ。


しかしその蹴りは避けられ、男はそのまま距離をとる。


速いな。 だけど、速すぎるほどじゃない。 ならばどうとでもなる。


俺は手のひらの上に巨大な炎の玉を作ると、男へ向けて飛ばす。 炎の玉が男に向かうが簡単に避けられてしまう。


だけど俺も甘くはない。

俺が手をグッと握ると炎の玉は爆発した。

俺はさらに炎の槍を作ると、魔力探知を使い、男に向かって投げる。

どうやら当たったようで、槍で飛ばされていくのがわかった。


手にもうひとつの炎の槍を作ると、男が血を流しながら向かってくるのが見えた。


…なかなかしぶといな。 だけど、怖いのはその速度だけだ。 それならやられる要素はない。


俺が槍を投げると、男は正面からそれを回避することもせずに掴むと、そのまま叫び声と共に投げ返してきた。


「ガアァァァァ!」

「くうっ!」


さすがにそう来るとは思わず、それを腹で受ける。 しかし、魔力で防御したため、吹っ飛ばされることはなく持ちこたえた。

しかし相手の長い爪が目の前まで迫っており、魔力を纏った右腕腕で受ける。


すると、すぐに相手のもう片方の腕が伸びてきた。

今度は相手の手首を掴んで耐えると、相手の顔を見る。すると相手は獰猛な笑みを浮かべていた。


「まさかあれを投げ返してくるとはな。 どうやら臆病者ではなかったらしい」


「あったりまえだぁ! 俺はなぁ! お前とは違ってこの街を守ってんだ! このクソッタレな世界でガキどもも誰も死なねぇようにな! だから負けるわけにはいかねぇ! 腕がちぎれようと目が焼かれようとな!」


俺は目前の男からの迫力に気圧された。背負っているものの大きさを感じたのだ。

しかしすぐに喝を入れると、自分の手首に力を込めた。


…こんなところで負ける訳にはいかない! 俺が目指しているのはあの化け物の打倒なのだ! ここで負けるようでは絶対に勝てない!


俺は全身から使っていない魔力を取り出す。


「ウオオオォォー!!」


次の瞬間魔力が全身から溢れ出し、力が漲る。

俺は相手を投げ飛ばすと、手に炎の槍を作り、相手へと高速で近づくとそのまま槍を相手に向かって投げ飛ばした。


その槍は高速で男にぶつかり、そして大爆発を起こした。


俺は地面に着地すると、男の方へ向かう。

男は大量の血を流しながら地面に倒れていた。


「おい、生きてるか? さすがに死なれるとまずいんだが」


「ガブッ、ゴホッゴホッ、ハァハァ…生きてるぞ。 くそっ、これだから遠距離で攻撃してくるやつは嫌なんだ。 どんだけ魔力持ってんだよ。 はぁ。 で? 生かしてどうするつもりだ? 化け物退治は御免だぞ?」


「ああ、それは分かってる。 俺も自分の村に化け物がいなければそこの守りをしていただろうからな。 いや、そんなことはどうでもいいか。 なぁ、お前の街を見せてはくれないか?」


「街ん中か? 別に見るだけなら好きにするといい。 なぁ、それより俺の傷を治してくれないか? お前のあのクソあっつい槍をくらって魔力はすっからかんだ。 このままじゃ締めを刺されるまてもなく出血で死んじまう」


「ああ、それはすまないことをしたな。 すぐに治してやる」


俺は男の治癒をしながら、改めて男を見る。

巨大な体躯に盛り上がった筋肉。 獣のような顔つきで、牙はとても鋭かった。


「名前はなんというんだ? 俺はライドだ」


「ああん? 名前? 名前はガウルだ。 それともうこれくらいでいい。 お前は街でも見てこい。 魔力も少し戻ってきたし自分で治す」


「そうか。 なら、俺は先に街で待っている」


俺がそう言うと、ガウルは手をヒラヒラと振って背を向けた。 俺はその様子を見届けると街に向かった。



――――



あらかた街の中を見て周ると、俺は椅子に腰掛けた。

街には人狼族以外にも獣人族や自分と同じ魔人族もいた。 こんな状況でも活気があり、凄い街だと思った。


俺が座っていると、そこに誰かが近づいてきた。見るまでもなく、魔力の大きさでわかった。

どうやら半日でほとんど回復できたようだった。


「おい、この街はどうだ? 凄いもんだろ。 なんたって俺の街だからな。 こんな中でも誰も希望を失ってねぇ。 ガキどもなんざ、将来は俺よりも強くなるとかぬかしてやがるぐらいだ。 生意気なもんだろ?」


「ああ。 だが俺も若い頃は似たようなことを言っていたからな。 それはお前も一緒だろう?」


「ハハハッ、それもそうだな。 なぁ、お前もここで暮らさねぇか?

お前もいりゃ、ここの守りはさらに厚くなる。 そうなれば、ここを狙ってくる奴らも敵じゃない」


「ここを狙っているやつがいるのか?」


「ああ」


ガウルは神妙な様子で頷いた。 それには少なからず驚く。

ガウルは俺には及ばなかったが、かなりの実力を持っている。 そんなやつを相手にするのは馬鹿か、それとも勝つ勝算があるのか。

何れにせよ放っておいていいことではない。


「ここの人と食糧が目当てだろうな。 奴らは鬼人族で、そこのボスと前に殺りあったが腕をやられちまってな。 まぁ俺はやつの腕を喰いちぎってやったがな! ハハハッ!」


ガウルは大きな声で笑う。 その声と表情からとても愉快に感じているのが分かる。


俺はその事を聞き、考える。

鬼人族も以前は同じ国に住んでいたのを知っている。 ならば種族は違えども協力できるのではないかと。

しかし鬼人族は略奪を選んだ。

これには分からないことが多い。

この街には多種族が生活している。 鬼人族だけを受け入れないとは考えられない。

それに、相手は略奪だけを目的としていたのか。 もし、何かしらの理由で取っていたのか、はたまたガウルとは上手くいかなかったのか、または本当に略奪だけを目的としていたのか。

だが、それを知るには自分で考えても仕方ない。 聞いてみるのが一番か。


「どうして鬼人族とは共存しない? かなりの戦力になるんじゃないのか?」


「そうだな。 もし相手が受け入れるんだったら俺もそうするさ。 だけどな、あいつらは、いやあのギランとかいうボスは嫌みたいだぜ。 どうせいつか化け物が現れてみんな殺される。 だから死ぬまで楽しむんだとよ。 はぁ、これだから国の生き残り共は臆病で嫌になるぜ。 おい、俺を二度とあんなやつらと一緒にするなよ?」


「ああ、わかった。 だが、化け物とは暗黒龍のことか? 実は1人の魔法使いとかではなく?」


俺がそう聞くと、ガウルは変なやつを見る目で俺を見た。 変なことを聞いているのは分かっている。 しかし、化け物が本当にはあいつなのではないかと疑っている自分がいる。 化け物=あいつという構図が既に出来上がっているのだ。


「ああ、黒い龍だって聞いたぜ。 だがそうか。 その魔法使いがお前の倒そうとしているやつか…。 お前でも倒せないのか?」


「ああ。 手も足も出ない。 もしかしたらだが、その暗黒龍よりも強いかもしれない」


「まじかぁ。 それはパスだな。 まぁどちらにしろ無理だが。 暗黒龍に挑んだやつはみんな死んだって話だ。 まぁ妖精族は一目散に逃げたようだから知らないけどな。 まぁ世界中を探しても、そもそも暗黒龍と渡り合えるやつがいるかどうか分からないぜ?」


「ああ。 それでも、俺は諦めることはできない」


「そうかよ。 あぁ、そうだ。 この街に長く留まる気はないんだろ? なら鬼人どもの相手をしてってくれないか? 俺はあまりここから離れたくないんだ」


「俺も一度鬼人族には会ってみようと思っていた。 鬼人族と会うにはどっちの方角にいけばいい?」


「北だよ。 ここから北に向かえばいい。 そっちの方角に山があるから、そこらまでいけば一人くらいは見つかるだろうさ」


「わかった。 鬼人族との話が終われば一度こっちに戻ってくる。 ではな」


「ああ、気楽に待たせてもらうとするぜ」


俺はそう言うとドラゴンの元に向かい、それに乗って北に向かった。

魔法の呪文って戦闘中に言えるのかって聞かれると難しいかもって思いますね。 だから前衛を用意しようかなって思うと描くの大変そうで戦闘描写を避けたくなりますね。

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