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招かれざる客


 依頼人の名前は剣崎夏子さん。

 恭子さんと同じ3年A組で、なんでも新学期が始まって剣崎さんの隣の席がちょうど恭子さんだったらしく、興味本位で探偵のことを聞いたのが始まりだったらしい。

 『もし相談したいことがあるなら是非部室においでよ』と恭子さんに言われて来たのだそうだ。


「大したことじゃないんだけど、神津がどうしてもって言うから来てあげたのよねー」


 あくまで頼まれたから来てやったというスタンスらしい。その態度が鼻につく。


「ていうかさ、さっきから気になってるんだけど、隣にいるコイツは誰なの?」


 そして当たり前のようにコイツ呼ばわりされた。


「ああ、まだ紹介してなかったね。彼は2年の松下君。ミス研の部員で私の助手だよ」


 ミス研とはミステリー研究会の略称である。

 恭子さんの紹介を受けて僕が会釈すると、剣崎さんは興味なさそうにフンッと鼻を鳴らした。


 くっ……ちょっと美人だからって調子に乗りやがって……!


 剣崎さんはその態度の大きさに相応しい美貌の持ち主だった。別に美人だからって横柄に振舞いが許されるわけではないけれど、女王様が庶民に尊大に接するのが当たり前なように、彼女もまた自分の派手で美しい容姿に則したある意味適切な態度をとっているようだった。


「ではさっそく、相談内容を聞かせてもらおうかな」


 恭子さんがポンと手を叩いて改めると、剣崎さんは待ってましたと言わんばかりに金髪を豪快に手で払って口を開いた。


「私今さー、野球部のエースと4番から熱烈アプローチを受けてるんだよねー」


 あ、これ相談じゃないや。

 僕は瞬時に察した。


「それでさー、私的には~2人ともイケメンだし、どっちかと付き合ってあげてもいいかな~なんて思ってないこともないこともないんだけど~。どうしよっかな〜ほんと」


 わざとらしく顔をウットリさせる剣崎さん。

 着崩した制服の胸元で緩く結ばれたリボンを弄りながら、こちらの反応も気にせず『私モテすぎ』だの『可愛すぎ』だのと上機嫌に語り続けている。


 僕は剣崎さんにバレないように気をつけながら、恭子さんにそっと耳打ちした。


「(恭子さん。これ相談事じゃないデス。完全にただの自慢話デス)」

「(そう決めつけるのは早いよ。まだ話の本筋に入ってないだけかもしれないでしょ。それと語尾から殺意が漏れてるよ)」

「(だ、だって!)」


 なんで放課後の自由時間を使ってまで他人のモテ話を聞かなきゃいけないんだ!

 殺意の1つや2つ漏れるってもんだ。


「(まあまあ松下君落ち着きなよ。わざわざ見ず知らずの私たちに話そうっていうんだよ? きっと何かあるに違いないよ)」

「(はぁ。僕にはそうは見えませんけど)」


「――ねえ、アンタたちさぁ、私の話聞いてんの?」


 と、正面から本気の殺意が含まれてそうな語気が飛んできた。慌てて顔を戻すと、剣崎さんが威圧感バリバリにこちらを睨みつけている。


 僕はその剣幕にビビって反射的に謝罪を述べた。


「す、すみません! ちょっと恭子さんと話を整理してまして……」

「整理も何もまだ話始めたばかりでしょ」

「ちょっ、恭子さんは黙っててください!」


 剣崎さんから放たれる訝しげな鋭い視線に耐えながら、言葉の接ぎ穂を探す。


「そ、それで、分からない点があるのでお尋ねしたいんですけど、今回相談していただく内容というのはどういった類のものなのでしょうか……?」


 僕が女王様に謁見しているかのようなか細い声で尋ねると、剣崎さんがマニキュアののった長い爪で苛立たし気に机を叩きながら言った。


「だ~か~ら~、私が2人に言い寄られて困ってるから相談に乗ってほしいってことー」


 あれ、そんな話だったっけ? 困ってる……?


「え、え~と? それは……モテすぎて困っちゃう、的な意味ですか?」

「は? あんた私のことバカにしてんの?」

「…………」


 もういや! もう何もしゃべらない!


 剣崎さんは押し黙った僕を見て舌打ちした。もはや怖くて目を見ることもできない。


「はぁ。なんか機嫌悪くなってきたから本題から話すわー」


 最初からそうしろ!

 と言い出しそうになるのを必死に抑えこんで、僕は剣崎さんの言葉を待った。

 剣崎さんは一呼吸おいて、語り始める。


「私ってさー、嘘つく人間って大っ嫌いなの。それでさぁ――」


 うわぁ……。

 今度は『私見た目はこんなんだけど本当は良い子アピール』かと心中で盛大にため息を漏らした僕だったが、続く剣崎さんの言葉で再び話に引き戻されることになった。


「――言い寄ってきた2人のどっちかがさ、私に嘘ついてるんだよね」


 やや真剣みを帯びた声のトーンにはわずかな猜疑心が見え隠れする。

 彼女から事件の匂いを感じとった瞬間だった。

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