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事件は部室で起こっている

 新学期が始まり、新しいクラスの雰囲気にも慣れつつある今日この頃。


 放課後の暖かな太陽。校庭から聞こえる運動部の掛け声。いつも通りのありふれた日々のなかで――


 『事件は部室で起こっている』


 ――そんな造語を生み出してしまうくらいに僕は動揺していた。

 日常が目の前で崩壊する音が聞こえる。どんがらがっしゃん。


「恭子さん、これはいったいどういうことですか……?」


 僕は恐る恐るの体で、いつも通り猫型クッションの敷かれたパイプ椅子に座り、長机の長辺の一方を陣取っている恭子さんの肩を叩く。


 恭子さんは僕の真剣な問いかけに、およそ期待できる答えが返ってこなさそうなキョトン顔を向けた。


「どういうことって、何が?」

「どうもこうも――」


 もう我慢ならない。僕は失礼を承知で、恭子さんの真向かいに座る女子生徒を指差した。


「――僕たち以外に部室に人がいるってどういうことですか!?」


 長机を挟んだ向こう岸。いつもは僕が座っている席に、見知らぬ女子生徒が座っていた。


 キャバ嬢のようにウェーブのかかった金髪が特徴的な派手な見た目の女子生徒は、手にしたスマホを気怠そうにいじっており、こちらを見向きもしない。


 しかし、僕はそんな彼女の粗暴な態度が気にならないくらいの衝撃を感じていた。

 部室に見知らぬ人がいる。

 僕と恭子さんと、あと顧問の羽鳥先生以外立ち寄らないこの部室に。

 これは、これは……


「これは事件ですよ……」


 思わず呟くと、恭子さんが大きな黒目を輝かせながら僕に顔を近づけてきた。


「松下君もそう思う!? そうそう、そうなんだよね。私もこの依頼人からは事件の匂いがプンプンすると思ってたんだよ。私たち気が合うね!」

「ちっがぁーう! そうじゃなくて……って、依頼人?」

「そうだよ。依頼人」

「恭子さんの妄想とかではなく?」

「松下君ってたまに私に対して失礼だよね。今回はちゃんと『相談があるんだけど』って正式にお願いされたんだよ」

「そんなバカな! ボッチの恭子さんに相談だなんて!」

「やっぱり失礼だよねキミ」


 恭子さんには友達と呼べる存在がいない。――学校にも、その外にも。


 名探偵として活動していた時は学校を休むことがほとんどだったし、去年は去年で長期入院なんてしてたもんだから、学校行事に参加できなかったりでクラスの輪に入り込めないのは容易に想像できる。


 そうじゃなくても、恭子さんは謎や事件にしか興味がないから、他人と友好的な関係なんて築けっこないわけで。

 復学してからの交友関係がどうかは知らないけど、友達と親しく話しているところを見ていないことから推理すると……たぶんボッチ。


 2人で騒いでいると、ようやく僕の存在に気づいたのか、女子生徒がスマホをいじる手を止めて視線だけこちらに向けてきた。


「それでさー。いつになったらアタシの話聞いてくれるわけー?」


 あからさまに不機嫌な様子をみせる女子生徒に、恭子さんは営業スマイルみたく朗らかに微んだ。


「そうだね。松下君も来たことだし、さっそく話を聞かせてもらおうかな」


 凛然とした態度で依頼人と向き合うその様子は、女子高生というよりは探偵と称した方がやはりしっくりくる。さすが”元”名探偵といったところか。僕の背筋も自然と伸びる。


 さてと。じゃあ僕が助手としてすべきことは。


 ……とりあえず奥の物置きから新しい椅子を引っ張りだして、恭子さんの隣に座ることだった。


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