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謎解きは突然に


 とうとう訳がわからなくなってしまった。

 教室の席に座り、僕は心の中で頭を抱える。


 教室には黒板をかくチョークの音だけが子気味良く響く。5限目特有の眠気に抗いつつ、その音に意識を集中させるようにして再度思考を巡らせた。


 郷田さんが最後に言った言葉――『二打席目は赤松らしいバックスクリーンまで届く豪快なホームランだった』


 スコアブック上の記録では『ピッチャーゴロ』になっているはずの二打席目が郷田さんの目撃証言によれば『ホームラン』だと言う。

 しかも、バックスクリーンへのホームランということは、ファールになりようもない、つまり文句のつけようがない完璧なホームランということになる。ということは、線審によるホームラン判定の真偽で揉めていたという線は消える。


 考えられるのは2つ。

 スコアラーが嘘の記録をつけていたか、郷田さんが嘘をついているか。


 可能性として高いのはスコアラーの方か。


 郷田さんに嘘をつく動機は見当たらないし、何より彼の誠実さでああも堂々と嘘をつけるとは思えない。推理に感情論を持ち込むのは野暮だけど、こればかりは信じたい。

 そうでもしないと、頭がパンクしそうだった。


 そんな感じで早くも考えが煮詰まっていた時、ポケットの中のスマホが振動する。


 先生の目に気を配りながら、机の下でそっと確認した。

 恭子さんからだ。


『謎は解けたよ。謎はねლ(´ڡ`ლ)』


 メッセージを見て、僕は声を上げられない代わりに目を大きく見開く。授業中じゃなかったら「マジで!?」と大声で叫んでいた。口をパクパクさせるだけで何とか耐える。

 でも、文面にちょっとした違和感があるのが気にかかった。顔文字じゃなくて。


――「謎を解いただけでは本当の意味で事件の解決にならないんだと思う」


 ふと昨日恭子さんがそんな事を言っていたのを思い出す。

 謎は解けたけど事件解決には至らない……。いったいどういうことなのだろう。


 僕の中に生まれた新たな謎を解決するべく、放課後になるその時を今か今かと待ちわびるのだった。



◆◆◆◆



 恭子さんから「部室に集合」という連絡を受けた僕は、終業のチャイムが鳴り止まぬ前に教室を飛び出した。

 早足で部室に向かう。


「松下君。早いね」


 部室にはすでに恭子さんと――剣崎さんがいた。

 2人とも昨日と同じ席に座っている。


 僕は剣崎さんを一瞥した。


 剣崎さんは金髪のロングヘアーをくるくるといじっていて、不機嫌というよりはどこか落ち着かない様子だ。

 整った目鼻立ちにスラッと伸びた足。そして美しい金髪。

 改めて見ても、これだけの美人を目にすることは中々ないだろうとは思う。けれど、今の僕には彼女の美貌が全く魅力的に映らなかった。


 彼女のしてきた行いはそれだけ醜いものなのだから。


「松下君。早く席について」

「本当に誰が嘘をついてるのかわかったんでしょうね」


 僕に隣に座るよう促す恭子さんに、剣崎さんが刺すような言葉遣いで迫る。


「もちろんだよ。この私、名探偵神津恭子にかかればこんな謎は朝飯ま……あいたたた……」


 あと一歩のところで決め台詞を言い切れず、頭を抱える恭子さん。口では余裕ぶっていても、やはり相当頭を酷使したのだろう。


「ちょっと、神津……。アンタ具合悪いの?」

「恭子さんは頭痛持ちなんです。はい、恭子さん」


 僕は予め買っておいたペットボトルのお茶を恭子さんの前に置く。たぶん必要になるだろうと思ってここに来る前に買っておいて良かった。


「ふ〜ん、そ」


 僕が言うと、剣崎さんは興味なさそうに鼻を鳴らした。さっき一瞬だけ心配そうな顔をしていたけど、僕の気のせいだったみたいだ。


 恭子さんは「ありがとう」と言ってお茶を受け取ると、いつものようにポケットから出した薬と一緒に飲み下す。

 そして、ペットボトルの蓋をしっかり閉めると、今回の依頼人――剣崎夏子を真っ直ぐに見据えた。


「じゃあ改めて。この事件の謎――『白川君と赤松君が、どちらか一方しかクリアし得ないはずの条件をお互いに満たしてしまった謎』について、彼らの直接対決で何があったのかを踏まえて説明するよ」


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