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モブ令嬢の旦那様は主人公のライバルにもなれない当て馬だった件【コミカライズされました】  作者: 獅東 諒
ゲーム前 編

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モブ令嬢と書斎の旦那様

お読みいただきましてありがとうございます。

グラードルの独り言の表記につきまして、今話にて通常の

「『………………』」とは違う

『『………………』』

という形式の表記がございますが、それは聞いているフローラがドアを挟んで別の部屋に居ることの表現として用いております。

 夕食の席、ファーラム学園長から『寄宿舎』を『貴宿館』へと変更した方がいいだろうという提案を受けましたと言う話を、旦那様がお父様とお母様にいたしました。

 お父様も、『寄宿舎』という名前には違和感があったらしく、有り難いことだと喜んでおいででした。

 また旦那様とセバスの話を聞いておりましたら、既に貴宿館の方へも使用人の手配が済んでおり、数日の内に居住者を受け入れられるとか、彼らは本当に優秀ですね。


 貴宿館で受け入れる人数も男性三名、女性五名と決まりました。

 一階が男性、二階が女性で、夕食後は男性は二階へと上がらないという誓約を結んで頂くこととなります。

 男性の数が少なくなってしまいましたのは、貴宿館の構造上の問題です。

 一階にはエントランスや浴室などの空間がありますので致し方ございません。

 またもう一つの理由としまして、やはり女性を一階へ住まわせるのは防犯上よろしくありません。

 学園でも初めての試みということもあり、そのあたりに気をつけて頂きたいと言われたそうです。



 夕食を終えた私と旦那様は、居室へと戻りました。

 居室は既に就寝のために小さなランプが灯されているだけで薄暗くなっております。


 旦那様は室に入ってすぐに「少し考えたいことがあるから書斎へ行ってくる」と言って、書斎へと籠もってしまいました。

 書斎は、廊下と私たちの居室からとの、二カ所の出入り口がございます。


 私は、旦那様が書斎机に落ち着いた頃合いを見計らって、チェストから学園で使用する控帳と炭筆を取り出して、書斎へ続くドアへと張り付きました。

 ……はしたないのは分かっているのです。ですが、旦那様のことをもっと知りたいという誘惑には抗いがたいのです。

 耳を付けたドアの向こうからは、やはり旦那様の独り言が漏れ聞こえてきました。


『『…………なんて知識チートしづらい世界なんだ。紙はある、付けペンはあるし、鉛筆もある。化粧品関係もそれなりに見かけたし、眼鏡だってあるしな。まあ眼鏡のツルはまだ無いみたいだけど、法務卿が使ってたのってあれ、昔の鼻眼鏡ってヤツだよな。しかしツルって特許とかとれるのか? そもそも特許があるのかも不明だし、あ~~~~法務部で聞いとくんだった。これからのことを考えると貴宿館の運営だけだとどうなるか分からんし。そもそも貴宿館で利益が出るのかも不明だしな。できることならフローラに(ワンド)をプレゼントして上げたいし』』


 私が側にいないせいでしょうか、旦那様は既に全開です。少々早口すぎて、薄暗いこともあり記述が間に合いません。


『『複式簿記だって既に導入済みみたいだし、まあ火薬の作り方は知ってるけど、あれを教えるのはなんか怖いしな。魔法があるせいかは知らないけど、あのあたりの研究があまり進んでいない感じなんだよな。蒸気機関とかなら……ってそのあたりの知識はほとんど無いんだった』』


 旦那様の口調が何かに悩んでいるものだということは、なんとなく理解できるのですが……


『『あと、一応ゲームの相関関係は書き出しておいた方が良いかな。――それにしても、まさかフローラとアルメリアが友人って……何でヒロインの一人と友人なのウチの嫁。そんなことも知らずに粉掛けてたグラードルって、よっぽどフローラに興味が無かったんだな。あんなに健気で可愛いのに』』


 私とアルメリアの名前が聞こえました。私たちが知り合いだったことが、やはり旦那様には意外だったのでしょうか。

 そういえば、帰り道での旦那様のご様子に、結局アルメリアが『貴宿館』の住人になるかもしれないという話と、アンドゥーラ先生の頼み事も言い忘れておりました。


『『主人公がアルメリアを攻略する場合のライバルって、デュランド元軍務卿の孫だったよな。レオパルドだったっけ? 攻略しないとエンディングでヒロインやライバルたちのその後が流れて、アルメリアは念願の近衛騎士団に入るんだよな。そして主人公と結ばれると、ライバルとはヒロインを巡る戦いの末に友情が生まれる。そして何故かアルメリアとは「私の伴侶となるのだから、君には私より強くなってもらわないとな」って特訓エンドなんだ。主人公が他のヒロインを半端に同時攻略してると、ライバルと結ばれて騎士団隊長となったレオパルドと、初の女性副団長として彼を支えるアルメリアのCGで終わるんだよな』』


 今度はアルメリア以外にもデュランドとレオパルドという言葉が聞こえました。レオパルドとはきっとお父様を軍務部に取り立ててくださった元軍務卿デュランド様のお孫様に当たるレオパルド様の事でしょう現在高等部の三年に在学しておられるはずです。


『『だけどアルメリアって正義感が強いのか知らんけど、どのヒロイン攻略してても、途中で顔を突っ込んできて一度はグラードルに拘束されて、あられもない姿を晒すシーンがあるんだよな。まあ、危機一髪のところで主人公たちに救われるんだけど、別名サービス娘とか言われてたし、よっぽど制作者が気に入ってたんだろうか? ……でもあのシーンの部屋、間違いなくあそこだったよね。まあ封印したから大丈夫だろう』』


 これまでの旦那様の独り言を聞いてきて分かったのですが、旦那様は独り言に集中してゆきますとどんどんどんどん早口になってゆくようです。私も、できるだけ記述しておきたいのですが、どんどん、単語らしい言葉を所々止めるのが精一杯になってまいりました。


「奥様、ここはこちらの綴りの方がよろしいのではないでしょうか」


 そんな声と共に、頭の上からぬーっと炭筆を持った手が私が書き付けた綴りを修正します。


「キャ…………」


 驚いて悲鳴を上げてしまった私の口を、細い手が塞ぎました。

 今の声……それにこの手は。

 私が目線を上げますと、そこにはメアリーの顔がありました。


『ん? 何か物音が……まさか……』


 書斎の旦那様が、今の物音に気づいたのか、席を立ったようです。

 私は、身体を硬くして、ここから離れようかと思案しましたが、旦那様の気配は廊下側の入り口の方へと向かったようです。


 私は安心して小さく息を吐くと、声を殺して……


「メアリー、何故ここに!?」


「私も、ご主人様の事が気になりまして。それに奥様、こういうことわざがございます。『壁にミミあり、障子にメアリー』と……」


 感情の薄い、その表情を動かさないメアリーの説明は、今ひとつ理解できませんが、二つほど気になったので聞いてみます。


「あのメアリー? 障子とは何でしょうか?」


「東方、トーワ皇国のガラスのようなものらしいです」


「ところでもう一つ聞いて良いですか?」


 彼女は軽く首をかしげ。


「何でしょう奥様」


「ミミという方も居るのですか?」


「はい、彼女は貴宿館の担当ですが……」


 どうしましょう……聞いてはいけない事を聞いてしまった気がします。


「ところで……」


「…………?」


 私は、自分が張り付いている場所を指さします。


「これは、ドアですが……」


「……………………ではミタゾノ? ……でしょうか」


 何で疑問形なのでしょう……それよりも。


「居るのですか!?」


「いえ…………何故か頭に浮かんだものですので」


 びっくりしました。そのような不思議な名前の方が本当に居るのかと思いました。


 私とメアリーがそんなやり取りとしております間、旦那様は廊下のドアを開け外を確認して、その後は、何故か書斎にあったクローゼットを開けた音がしたり、果ては天井を何かでつついている音が聞こえておりました。


『大丈夫か……、アンドルクに見張られてるかと思った……』


 旦那様――、おります……アンドルク、私の横に。


「こちらが一番安全だと思いましたが。間違いなかったようです」


 メアリーが何故か拳を握っております。

 メアリーの薄い表情が心もち、勝利に酔っているようにも見えました。

 彼女は何と戦っていたのでしょうか?


 旦那様が書斎机のあたりに戻った気配がします。


『『……問題は、アンドゥーラだよな。……このままだと間違いなくフローラは主人公と面識ができるよな。彼女、主人公の後見人だし……主人公、名前入力型だったから、ここでどんな名前で出てくるのか分から無いんだよな。たしかプレイヤーが入力しないと出てくる、デフォルトネームがあったはずなんだけど、俺名前入力したからな。まさかその名前で出てくるって事は無いだろうと思うし…………あれ? ちょっと待て。よく考えてみるとフローラってキーパーソンじゃね!?』』


 今度は、アンドゥーラ先生の名前が聞こえました。

 私がまた話し出した旦那様の独り言を書き始めようといたしますと、メアリーがすっと私の手から控帳を抜き取り、目も止まらぬ早さで旦那様の言葉を綴ってゆきます。

 彼女は、控帳に視線を落とすこともなく正確に綴りながら、その視線を私に合わせたままです。まるで何かを訴えかけるように。


「メアリー、何でしょうか?」


「…………奥様。私どもと共闘いたしませんか?」


「共闘とは?」


「ご主人様の秘密を探る――ことにです。幸いと言いましょうか、ご主人様は奥様にも我々アンドルクを存分にお使いになることをお許しになりました。奥様がお頷きになられれば、私たちは動きます」


 ですが、いまメアリーが言った『私たち』は、アンドルクが――とは感じられませんでした。


「私たち……とは?」


「フルマ・ミリーとチーシャ・ルクルです。あの娘たち、納得がいかないとこちらの侍女に志願したのです」


「まさか……」


「そうです、ルブレン家でご主人様の周辺を調べていたのがあの娘たちなのです」


 メアリーの薄い表情に笑みが滲んだ気がしました。

 それはどこか、悪魔という存在を私に思い起こさせます。

 悪魔とは、白竜王様が人間を生み出したとき、それに対抗した黒竜竜王様が生み出してしまった存在です。

 彼らは人間と見紛う姿をしていますが、その本質は邪悪だといいます。とてもいたずら好きで、時に人間を惑わせては楽しんでいるのだそうです。

 私は軽く首を振って他愛もないもない思いを振り払うと、メアリーと視線を合わせ直します。


「もしかしてそれは、彼女たちに旦那様を認めさせるため……ですか?」


「さすがは奥様。アンドルク当主が認めたエヴィデンシア家の当主に、アンドルクの者が不審を抱いたままでは困りますので」


 きっと彼女たちに旦那様の秘密を調べさせる過程で、いまの旦那様の人となりを認めさせようというのでしょう。ですが先ほどからのメアリーの姿を見ておりますと、それ以上に旦那様や彼女たちが混乱する姿を楽しんで眺めていそうな、そんな不安がよぎります。

 それでも「……分かりましたメアリー」、私はそう答えてしまっていました。

 たぶんに悪魔と契約を結んでしまった心持ちがいたします。ですがそれ以上に『旦那様の秘密を知りたい』という誘惑に、私は抗えませんでした。


『『……とりあえず、いま挙げられるのはこれくらいだよな。今日はこのくらいにしておくか』。フローラはもう寝たのかな……』


 メアリーとのやり取りに気をとられていたましたら、旦那様が書斎机から離れた気配がいたしました。

 私たちは急いで、ドアから離れます。

 メアリーから手渡された控帳と炭筆をチェストに納める間もなく枕の下に入れて、私は眠った風を装います。

 その間にメアリーは、音もなく居室のドアから出て行ってしまいました。

 よくあのように音もなく素早く動けるものです。それに、私はメアリーと話している間、完全に旦那様の独り言を聞き逃しておりましたが、メアリーの手は動いたままでした。

 彼女が旦那様の秘密を探る味方になってくれることは有り難いのですが、あの感情の読みづらい性格には振り回されそうな予感がいたします。

お読みいただきありがとうございます。



Copyright(C)2020 獅東 諒

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