表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生 (練習作品)  作者: れてぃ
9/9

9話



迫りくるオーク……その体は筋肉質で2メートルを超える巨体を持ち、その手には木製のこん棒を握りしめており。口から飛び出した牙が印象的で、その顔つきはまるで悪魔のようだ。


そして眼差しは真っ直ぐと、こちらを見据えている。

その姿を見た少女は、焦りを隠せず慌てふためく。



「あわわ……ど、ど、どうしましょう!!ライトさん!?」



落ち着け……なにか手段があるはずだ……。

目的はまず縄からの脱出、そして逃走。

だけど、時間が経つほどその難易度は上がっていく。


考えながら再び力を入れてみるも、縄はびくとも反応しない。

途端、パニックに陥ったリーシェが叫びだした。



「お……お前なんか全然怖くないですよぉ!ど、どっかに行ってください!ワンワンワン!」



必死に足をパタパタしながら威嚇する少女。

隣で見ていた僕はその姿に、小型犬が散歩中に吠える様子を重ねてしまう。

これが、彼女なりの精一杯なのだろう……。


それを見たオークはブルっと鼻を震わせ……。

返答とも言わんばかりの、とても大きな咆哮を放つ。


空気がビリビリと振動し、少し遅れて耳鳴りがする。

辺りの鳥は飛び立ち、周辺の森は静まり返る。



「大丈夫……?リーシェ。」



少し頭をくらつかせながらも、少女を気遣うための言葉を送る。

……が返事がない。

すぐに様子を確認する。全身は脱力していて、力なく頭を垂れ下げており意識がない。

どうやら、今のオークの咆哮で失神したらしい。


どんどん状況が悪くなっていく。

抜けない縄に、迫るオーク、そして意識を失ったリーシェ。

まさに絶望的だ……。


いや……でも、もしかすると。

友好なオークの可能性もあるかもしれない。

縄で縛られた僕たちを助けるために向かって来てくれているとか。

思っているより悪い状況ではないかもしれない。


オークの姿を改めて確認する。

低い唸り声を上げながら、口の端からよだれを垂らして、こん棒をしっかりと握りしめている。

そして、その眼は変わらず僕たちをしっかりと見据えている。


とてもじゃないが……友好的には見えない。

何か……なんとかしないと……。


考えても、ただ時間だけが過ぎていく。

そして、あっという間にその時は来た。


オークが目の前にまで辿り着いたのだ。


見上げるほどに体は大きく、獰猛な顔付きをしており。

その姿に恐怖を感じて、体がこわばり全く動かなくなってしまう。

リーシェが気絶しているのは不幸中の幸いなのかもしれない。


その太い巨碗を振るわれたら、僕たちはひとたまりもないだろう……。

嫌な想像をしてしまったせいで、思考が停止してしまう。

冷たい汗が肌を流れ落ちる感覚だけが嫌に伝わってくる。



「神様、助けてください……。」



こん棒が無慈悲に振り上げられ、僕たちに襲いかかる。

もう駄目だ。短い人生だった。

唯一の心残りは、リーシェを助けることが出来なかった事だ。

せめてこの少女だけでも逃がしてあげたかった。

僕が冒険の勇者や主人公であれば、必殺技や大魔法なんかでこの場を乗り越えるのだろう。

でも残念ながら、普通の一般人である僕にそんな能力はない……。



もう、完全に終わった。



失意に包まれながら目を閉じる。



――――結局何もできないまま……。



――――いや……ある……やれることなら、まだある。



――――魔法ならば、僕にも使える。



――――女神様から貰った、魔法がある!!



ハッとして、指に着けた金色に輝く指輪を視界に入れる。

そして、こん棒が降り下ろされるよりも早く。言葉を吐き出す。



「アル! タフル!!」



指輪が一層煌めき、直視できないほどのまばゆい輝きを放ち始める。

軽快でポップな音楽が鳴り響き、周辺一帯が光に包まれいく。


窮地の中に見えた、最後の選択。


僕は輝きに包まれるままに、その瞳を閉じた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ