7話
――――しばらくしたあと
「私の名前はリーシェ・アルステイン・ランカードと申します!」
快活な少女は鼻をふんと鳴らして名乗る
「あはは、よろしく……僕の名前は望月雷斗……」
迫力に多少気圧されながら、こちらも名乗り返す
「モチヅキライト……変わった名前ですね!じゃあライトと呼んでもいいですか?」
笑顔でぐいぐいと迫ってくる、抵抗は無いけど圧迫感がすごい。
女神様もとい、こちらの世界は個性的な人が多いみたいだ……
「もちろん、じゃあ君の事は……」
「ええ!私の事はリーシェとお呼びください!この世の悪を倒し世界に平和をもたらす聖守護者たるべく日々修行中の身なのです!我が家系はドラゴン撃退やデーモン討伐を成したハインアルデン王家に仕える由緒正しき血筋であり、特に国家指定教とも言われる聖ルミアーク教への信仰心は深く、そして私のおじい様は司教の位に座する人物で民の平和と安寧を願い導くすごい方なのです!そして私のお父様は国を愛し、誰よりも責務を果すお人柄ゆえ国王より直々に伯爵の位を授かりました!国を想い繁栄を願う意思は誰より強固で国の誇りであり宝なのです!そして私は聖教守護団副隊長の任に勤めてます!町の巡回や近隣のモンスター駆除、オークやワイバーン討伐の実績も誇る優れた部隊で町の安全は私たちが守っていると言っても過言ではないでしょう!」
とっても長い自己紹介なのに全く噛んでない……。妙なところに感心してしまった
「あはは……なんだかすごいね。」
「でしょう!?そうでしょう!」
一層目を輝かせる少女、そして胸を張りこう続けた
「ならば、我が国の歴史も知っておくべきです!そもそもこの国が成り立ったのは初代国王ハインアルデン一世が周辺諸国を束ね異民族から民を守ったのが始まりであり……」
まずい、これは永遠に終わらないやつだ!!
「ちょ、ちょっと待って……!」
「いえいえ、きちんと知っておくべきです!歴史を知ることで理解が深まるので、国を好きになるには必要な事なんですよ!この機会に知っておいて損はないはずです!」
うわぁ……どうしよう困った……
知らない国の話を延々されてもなぁ、なんとか話題を変えたいところだけど
――と、ふと大切な事を思い出した
「……そういえば、この状況どうしよう?」
「へ?あぁ!そうですね!何とかしなくてはいけませんね!」
この状況とは
そう僕たちは捕まっているのである、ゴブリンに
二人まとめて座った状態で、ひとつの柱に縄でぐるぐると
周りには見張りのゴブリンが数匹、見るからに不機嫌そうだ
先ほどリーシェがゴブリン達を自慢のハンマーで次々に殴り飛ばしていたところ、足を滑らせた勢いでゴブリンに突っ込みそのままの勢いで頭突きをかまして気絶したのである。
「不覚を取りました……。助けるつもりが私が捕まってしまうなんて。」
いや、そもそも助けはいらなかった気がする。
僕がゴブリン達にご馳走してもらい、和やかムードだったところへ突然乱入してきて散々暴れまわったあげく自滅したのだ
まるでダイナミックな山賊である
「魔物どもめ……この仕打ちは決して許しません!」
多分それ、ゴブリンも同じこと思ってるよ
と、不意にリーシェから空腹を告げる音が鳴る
「うぅ~……それにしてもお腹が空きました。そもそも捕虜に対する扱いが全くもって不当です!食事にベッド、それにお風呂も必要なのに……なんて酷い扱いを……。やはりゴブリンは一刻も早く殲滅すべき対象です……!」
ついでに怖いことも言いはじめた……
そうしていると急にゴブリンの村全体に鐘が鳴り響き
鐘の音と同時にゴブリン達がどよめきだした
「ふふ~ん、なるほど!安心してください、私の仲間が救援に来たようです!」
遠くでゴブリン達の鳴き声が聞こえ、僕らの見張りについていたゴブリン達も慌てて逃げ出す。
しばらくすると、地鳴りが聞こえてくる……結構な数がいるようだ
「おお~い、皆さんこっちです!リーシェはここですよ~ぅ!」
リーシェが遠くに呼び掛けると返すように、大きな獣のうなり声が聞こえてくる
仲間と言うには明らかに様子がおかしい
なんだか嫌な予感がする……
「もしかして、僕らも逃げた方がよさそう?」
リーシェが頷き、僕を見てこう返した
「そうですね、今のはオークの鳴き声です。このままでは絶体絶命です。」
なるほどと、頷いた僕はリーシェと共にまずは縄の脱出を図るのであった。