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短編置き場

最後の航空隊

作者: 海ほたる

 もはや敗戦は不可避となった帝国本土へ、今日も腹に爆弾を満載にした定期便がやって来ていた。もはや吹き飛ばす目標など無いに等しいのだが、律儀に配達物を全て配り終えて帰っていく。

 本土の空は敵の物になって久しく、百機を越える編隊に両手の指で足りる程度の迎撃機が立ち向かっていくのが見える。敵編隊には航続距離をクリアする前線飛行場を得てからは護衛機も含まれるようになり、迎撃部隊の稼働機はその数を日に日に減らしていっていた。

『敵機発見、二時の方向!』

『敵のお出迎えだ、アルファ・ブラボー中隊かかれ』

 帝国の迎撃部隊を捉えた編隊長が護衛部隊の一隊を編隊への攻撃を阻止するべく向かわせる。指令を受けた部隊が巨大な群れから離れて迎撃部隊へと突き進むと一気に迎撃部隊は隊列を掻き乱され逃げ惑うことしか出来なくなる。

『敵は一個中隊ほどですか、だいぶ少なくなりましたね』

『そのために我々は毎日毎日工場を爆撃しているんだ、減って貰わなくては困る』

 クルーの発言に空戦が行われている空域に目もやらずに答える。連日行われる戦略爆撃に帝国軍の兵器充足率は目も当てられない数字となっていた。

『奴らいつまでも続ける気なんですかね』

 見方機が敵機を追いかけ回す空戦を眺めながらポツリとこぼす。

『気を剃らすな、第二波が来ないとも限らなーー』

 そのクルーの方をチラッと見てから注意を言い終わる前に、その声は遮られた。

『敵機直上っ、あっ七番機墜ちます!』

 編隊長がその声に七番機がいたはずの場所へと顔を向ける。するとその目に映ったのは四機編隊の敵機が六番機の主翼前方を垂直に通り抜けて行くところだった。

『ああっ、六番機も墜ちます!』

『なっ』

『九番機、計器とクルーに損害多数で離脱を求めています!』

『デルタ中隊が追撃に移りました! あっ、今意見具申来ました!』

『許可する! 深追いに気を付けるように言え!』

 穏やかな空気が流れていた編隊各機の全ての機内で緊張が満ちる。本土の爆撃を始めてから初めての迎撃方法に全てのクルーが浮き足だっていた。整備不良やエンジンの不調以外の理由では時間当たり最多の被撃墜数だった。

『十二番機より報告! 八時の方向上空に敵機!』

『迎撃急げ!』

 編隊長の怒号よりも早く十二番機の搭載機銃が火を吹く。それから少し遅れて近くの機体からも弾幕が張られる。しかし敵機にその弾幕を気にした様子はなく、位置に着いたのか一斉に各目標へと襲いかかる。

 一機二機と火を吹く機体もあったが、コントロールの効く機体は編隊を崩すことなく操縦室に機銃弾を叩き込むと主翼前方を通って下方へと突き抜けて行った。

『敵機離脱していきます!』

『二機は損害軽微、一機が離脱許可を求めています!』

 編隊全体から見たならばかすり傷程度の損害であったが、実際に前線に出て戦う身としては大きな損害であった。次は自分たちかもしれないという恐怖は全クルーの体を固くするのに十分だった。

『……許可する』

 出撃する前はうるさく感じていたエンジンの爆音が今はとても小さく感じる。いや、とても気にする余裕の無い編隊全クルーは自分たちの上を警戒し続ける。

『最初に襲来した奴らは?』

 そこで空戦をしている様子のない空を見て編隊長が尋ねる。

『はい、二回目に降ってきた奴らとほぼ同時に離脱していきました』

『奴らは陽動か……、それで戦稼は?』

『二機撃墜確実、他は離脱したようです』

『手練れだな』

 この日を境に敵首都近辺を爆撃に向かった編隊はこの部隊と同じと思われる部隊の迎撃を受けるようになった。終戦するその日まで微量とはいえ出血を強い続けた部隊に爆撃部隊は恐怖し続けた。

 帝国最後の矛として編成されたこの部隊は各飛行隊のエース級パイロットを引き抜いて編成された部隊だった。機体から機材、整備員まで帝国軍が用意できる最高の物が用意された。

 帝国軍の期待を一身に背負わされたこの部隊は解体されるその日まで戦稼を上げ続けた。しかし損害も大きく、二ヶ月の活動期間に部隊長は五度も変わっている。

 最後の部隊長は停戦協定が結ばれたその瞬間も迎撃任務に従事しており、機上でそのことを知る。その報を聞いた後も敵編隊が爆撃コースを取り続けているのを確認すると反復攻撃を敢行、機銃弾を撃ち尽くすと敵機に体当たりし、その日だけで三機の撃墜を達成する。

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