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ある夕暮れ
葦の葉に 夕霧立ちて 鴨が音の
寒き夕べし 汝をば偲はむ
『万葉集』より
山の端に日がかかり、辺りに影が落ちた。
村に続く道を少女は足早に駆けていく。
「遅くなっちゃった」
幼い身体を弾ませて、家族の元に帰るのだろう。
少女の後ろから車輪と馬の息遣いが聞こえた。
「お容ちゃん、こんばんは」
お容と呼ばれた少女が振り向くと、そこにはよく顔の見知った青年がいた。
「こんばんは! お仕事終わったの?」
「ああ、終わって帰るところだよ。今日はあんまり売れなかったな」
そう言って青年は売れ残った草鞋を見せた。
「良助さんの作った草鞋、とっても丈夫でいいのにね」
良助と呼ばれた青年は照れ臭そうに笑いながら、頭をかいた。
「へへへ、家に帰るんだよね? 乗っていかない?」
「えっ、いいの? やったー」
お容は良助の車に乗り込み隣に座った。
「あっ、一番星!」
「本当だ」
のどかな秋の夕暮れであった。




