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引き出し

 A組からC組の第一グループが後方任務を何とか被害なく乗り切り、今はD組からF組の第二グループが後方陣地とクリングゾール砦に常駐していた。


 学校に戻ってきた一年A組の面々は、後方任務を経験したことで自分に足りないものを実感したようで、通常の授業を受けるだけでなく各々が訓練に励むようになっていた。


 模擬訓練場では次に後方任務に当たるG組からJ組の第三グループへの指導をアデルが中心となって行っており、バラックやロニーなど騎士として実戦経験がある教師陣もそれの補佐に回っていた。特にロニーは第一グループに同行していたこともあり、現場の実情を知る教師として同僚から乞われて参加している。


 そんな事情もあり模擬訓練場が使えない中、学校内の広場には剣を振り合うラウルとユミールの姿があった。


「はっ! せいっ!」

「……っ!」


 思い切りよく果敢に前に出てくるラウル。ユミールはそれに対応しながら戸惑いを覚えていた。


 ラウルの動きは良く言えば積極的、悪く言えば焦りが見える。それはユミールが知るラウルとは大きく異なっていた。


 今までのラウルは冷静に状況を判断し、的確な一手でユミールを苦しめてきた。しかし最近のラウルは少しずつ変化している。


 とはいえ本来のラウルの戦い方からは外れているため、やがて綻びが出てくる。ラウルが隙を見せた一瞬をユミールは見逃さず、ラウルの剣を弾き飛ばして剣を突き付ける。


「……まいった」

「どうしたラウル、戦い方がらしくないぞ」

「そうだな……だが、俺は変わらないと――」

「焦って形だけ真似したって、何も得られないだろ」

「それでも! このままだと不安なんだよ。考えてしまうんだ、あのときもしルカ先輩が同じ部隊じゃなかったら……って」

「もしそうだったら、お前は自分が死んでいたと思うのか?」

「ああ」

「俺はそうは思わねぇけどな……まあいい、訓練で試すだけならいくらでも付き合ってやる。ただ戦場に迷いを持ち込むなよ」

「もちろん、分かってるさ」


 ラウルはそう言ってユミールにどこか疲れたような笑みを向けるのだった。




「やれやれ、またラウルのスランプが始まりそうだな」


 ユミールはラウルと別れて一人歩きながら、今日のラウルの様子を思い出す。ラウルが考えすぎてスランプに陥ることは過去に何度もあった。しかしそれを乗り越えるとラウルが一気に強くなることもユミールは知っている。


 ラウルには思考を整理する時間が必要だ。幸い、自分たちの第一グループは後方任務をメインで担う期間を一旦終えている。だからまだしばらくは時間的な余裕があるだろう。次に戦場へと出るまでには、ラウルもスランプを乗り越えているはずだ。


 ユミールはそんなことを考えた後に、自分のことに目を向ける。


「こないだルカ先輩に指摘された、初見の相手や技への対応が甘いってのは、どうしたものかな……」


 ルカによれば、ユミールはラウルとばかり手合わせしてるせいで、対ラウルばかり上手くなっているということだった。だが実際の戦場では様々な種類の魔物と戦うことになり、その対応はそれぞれ異なる。


 感覚に頼ってきたユミールはラウルへの対応は感覚的に体に染みついているが、それ以外の戦い方に関しては引き出しが少なかった。


 それでも今まで特に問題がなかったのはラウルが正統派の剣術を高い実力で使いこなしており、そんなラウルに対応できれば大抵の人間にも対応できること。そしてユミールの実力が高いため、仮に対応が不十分でも実力差で押し切れていたからだった。


 とはいえそれは対人間相手の剣術の話であって、実戦的な戦場での話となれば、魔物への対応力に不安があるという話になる。


 ユミールほどの剣術の使い手に引き出しが少ないと指摘できるのは、ラウルとは全く異なる我流の剣術を扱う格上のルカだからこそであり、その点は感謝する他なかった。


「引き出しを増やす……ラウル以外にも剣の相手を付き合ってもらうか」


 ユミールはラウルのようにあれこれと考えて工夫するのが得意ではない。自他ともに認める感覚派で、感覚が掴めるまで体を動かすのが単純ながら最適だと自覚していた。


 ラウルが何かを変えようとしている。それが何かはまだ分からないが、ラウルは必ず今よりも強くなるという信頼がユミールの中にあった。


 だからこそ負けられない。ユミールはそう思いながら、クラスメイトの顔を思い浮かべて誰に声をかけるかを考えるのだった。


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